農業・漁業の派遣雇用とは?
農業・漁業の派遣雇用とは、特定技能外国人を労働者派遣法に基づく派遣形態で受け入れる例外的な雇用形態です。
特定技能制度では原則として直接雇用(フルタイム正社員)が前提ですが、季節変動が大きい産業特性に対応するため、農業分野(特定技能)と漁業分野(特定技能)の2分野に限り派遣形態での雇用が認められています。
派遣形態を活用すると、繁忙期に派遣先を移動して年間を通じた就労を実現できるため、外国人本人の収入安定と派遣先の人手確保の両立が可能です。ただし、派遣元・派遣先ともに厳格な要件を満たす必要があり、農業・漁業分野別協議会への加入も義務付けられています。
具体的な意味・内容
派遣形態が認められる根拠は、農業・漁業の繁閑差の大きさにあります。特定技能制度における派遣の仕組みと、対象業務の範囲を整理します。
派遣が認められる理由
農業は田植え・収穫・出荷などの繁忙期と農閑期の労働需要差が大きく、漁業も漁期・水揚げ時期に労働需要が集中する特性があります。同一区域内でも作物・魚種により繁忙期が異なるため、地域内で派遣先を移動することで、一人の労働者が年間を通じてフルタイム就労できる仕組みが必要との理由から派遣形態が制度化されました。
対象となる雇用形態の構造
特定技能外国人と派遣元事業者が特定技能雇用契約を締結し、派遣元が派遣先(実際の就労先)へ派遣します。雇用関係は派遣元と外国人の間にあり、給与支払・社会保険加入・支援義務はすべて派遣元の責任です。派遣先は労働者派遣契約に基づく就労環境の提供と業務指示を担います。
直接雇用との並存
農業・漁業分野では派遣雇用と直接雇用の両方が認められており、受入れ機関が選択可能です。年間を通じて作業がある大規模法人は直接雇用、繁閑差が激しい中小規模事業者は派遣雇用、というように事業規模・業態に応じた使い分けが行われています。
他の15分野は派遣不可
建設・造船・自動車整備・宿泊・介護・外食業・飲食料品製造業など農業・漁業以外の15分野は派遣形態での雇用が認められていません。これらの分野では受入れ機関と外国人の直接雇用が必須で、派遣会社経由の雇用は不法就労の幇助・助長として処分対象となります。
派遣元・派遣先の要件
派遣元事業者と派遣先事業者には、それぞれ厳格な要件が課されています。派遣元には農業/漁業との関連性が、派遣先には法令遵守と協議会加入が求められます。
派遣元事業者の要件
労働者派遣事業の許可(厚生労働大臣許可)を有することに加え、農業・漁業との関連性が必要です。
①農業/漁業を行っている事業者
②農業/漁業関連事業者が過半数出資している事業者
③農業/漁業関連事業者が業務執行に実質的に関与している事業者
④国家戦略特別区域で農業支援外国人受入事業を実施する事業者
このいずれかに該当する必要があります。
派遣先事業者の要件
労働・社会保険・租税法令の遵守、過去1年以内に同種業務従事者の非自発的離職を発生させていないこと、過去1年以内に行方不明者を発生させていないこと、欠格事由(暴力団関係・刑罰法令違反等)に該当しないこと、農業/漁業特定技能協議会の活動への協力義務などが求められます。
協議会加入の必須化
派遣元・派遣先双方が、それぞれ農業特定技能協議会または漁業特定技能協議会への加入が必須です。在留資格認定証明書交付申請の前段階で加入完了していることが求められます。協議会加入証明書は申請書類のひとつとして提出が必要です。
関連する法律・運用ルール
農業・漁業の派遣雇用は、入管法・労働者派遣法・労働基準法など複数の法令が交錯する制度です。受入れ機関の責任範囲も派遣元と派遣先で分担される構造になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法令 | 出入国管理及び難民認定法、労働者派遣法、労働基準法、特定技能省令 |
| 対象分野 | 農業分野(特定技能)、漁業分野(特定技能)の2分野のみ |
| 所管省庁 | 農林水産省、出入国在留管理庁 |
| 派遣元の主な義務 | 特定技能雇用契約の締結、給与支払、義務的支援10項目の実施、定期届出 |
| 派遣先の主な義務 | 業務指示、就労環境の提供、労働時間管理、安全衛生管理、協議会への協力 |
| 協議会加入 | 派遣元・派遣先双方が必須(在留資格申請前まで) |
派遣元が定期届出の主体となり、派遣先での就労状況も派遣元が把握して報告する建付けです。派遣先も農業・漁業協議会の構成員として、入管・農水省の調査に協力する義務を負います。
実務上の注意点
派遣元との支援体制の確認
派遣形態の場合、義務的支援10項目は派遣元の責任で実施されます。派遣先はこれら支援に協力する立場ですが、派遣元の支援品質が低い場合、外国人本人の生活トラブルが派遣先にも波及します。派遣契約締結前に、派遣元の支援体制(生活オリエンテーション・相談対応の言語・定期面談の頻度)を確認することが重要です。
派遣先での業務範囲の限定
派遣先での業務は、特定技能農業/漁業の業務区分(耕種農業全般、畜産農業全般、漁業、養殖業)に該当する範囲に限られます。業務区分外の作業(事務・営業・関連工場での加工作業など)に従事させると不法就労の幇助となるため、派遣契約書で業務範囲を明確に限定する必要があります。
複数派遣先の調整
1人の特定技能外国人が複数の派遣先を移動して就労する場合、派遣先の切替都度労働条件・通勤・住居の変更が発生します。派遣元はこれらをスケジューリングし、外国人本人の生活基盤を維持する責任を負います。派遣先間の連絡調整・移動費負担・住居変更費用などの実務負担は予想以上に大きくなります。
派遣元の労働者派遣事業許可の確認
派遣形態は厚生労働大臣の労働者派遣事業許可を持つ事業者でなければ実施できません。許可を持たない事業者から派遣を受けると、職業安定法・労働者派遣法違反となります。派遣先は契約締結前に派遣元の許可番号を確認することが必須です。
直接雇用との違い
農業・漁業分野では派遣雇用と直接雇用の両方が選択可能です。両者には責任分担・支援義務・コスト構造で大きな違いがあります。
| 項目 | 派遣雇用 | 直接雇用 |
|---|---|---|
| 雇用関係 | 派遣元と外国人の間 | 受入れ機関と外国人の間 |
| 義務的支援10項目 | 派遣元が実施 | 受入れ機関(または委託先)が実施 |
| 給与支払 | 派遣元から外国人へ | 受入れ機関から外国人へ |
| 社会保険加入 | 派遣元で加入 | 受入れ機関で加入 |
| 適合する業態 | 季節変動が大きい中小事業者 | 通年作業がある大規模法人 |
| 派遣料金/コスト | 派遣料金(マージン込み)を派遣先が負担 | 直接給与+支援費用 |
派遣形態は派遣先の事務負担が軽減される反面、派遣料金(マージン)が直接雇用の給与より高くなる傾向があります。年間雇用が確保できる規模の事業者は直接雇用、季節雇用主体の事業者は派遣形態という使い分けが実務的に妥当です。
よくある質問
Q. 一般の派遣会社が農業特定技能の派遣元になれますか?
A. なれません。派遣元事業者は農業/漁業との関連性を満たす必要があります。一般の派遣会社が農業特定技能を派遣する場合は、農業関連事業者からの過半数出資を受けるなど、派遣元要件を満たす形に組織を整える必要があります。
農業の経験・知見のない派遣会社が運営すると、外国人の業務適性判断・労務管理に支障が生じやすいため、農業/漁業との実質的関連性が要件化されています。派遣元の選定時は、農業/漁業の事業実績や系列関係を確認することが重要です。
Q. 派遣形態でも特定技能2号への移行は可能ですか?
A. 可能です。農業・漁業分野には特定技能2号があり、派遣形態でも要件を満たせば2号への移行ができます。
2号移行には、特定技能2号評価試験の合格と、相応の実務経験(農業では指導監督的業務経験、漁業では複数の漁船員等の指導経験)が求められます。派遣形態の場合、複数の派遣先での経験を統合して評価される運用となります。
Q. 同一の特定技能外国人を複数の派遣先で同時に就労させられますか?
A. 同一日内で複数の派遣先を掛け持ちすることは原則として認められません。1日単位では1派遣先での就労が基本です。
ただし、繁忙期に応じて派遣先を期間ごとに切り替える運用は可能です。例えば春は田植え農家、夏は果樹農家、秋は収穫農家といった形で、季節ごとに派遣先を移動する設計が一般的です。労働基準法の労働時間規制は通算して適用される点に注意が必要です。
Q. 派遣先が派遣契約を打ち切った場合、外国人はどうなりますか?
A. 派遣元との雇用契約は継続するため、原則として在留資格は維持されます。派遣元は次の派遣先を確保する責任を負います。
派遣元が次の派遣先を確保できず継続雇用が困難となった場合は、派遣元から「受入れ困難に係る届出」を14日以内に提出する必要があります。また、特定技能1号は通算5年の在留期間制限があるため、派遣先確保期間中も通算カウンターは進む点に注意してください。