雇用契約書の多言語化とは?
雇用契約書の多言語化とは、外国人材を雇用する際に、本人が理解できる言語で雇用契約書・労働条件通知書を作成・交付し、契約内容を口頭でも理解できる言語で説明する取組のことです。
労働条件の理解促進だけでなく、在留資格申請の根拠書類として、また労使間トラブルの未然防止策として実務上必須となっています。
厚生労働省は、13言語のモデル労働条件通知書(日本語・英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・ベトナム語・インドネシア語・タイ語・ネパール語・クメール語・ミャンマー語・モンゴル語)を無料配布しています。
特定技能・育成就労では、母国語による契約説明・交付が省令で義務化され、違反すると受入停止等の処分対象となります。
「やさしい日本語」を活用した契約書作成も推奨されており、複雑な表現・敬語・専門用語を避け、短文・ふりがな付きで作成する工夫が広がっています。
必要になる場面
外国人材の新規雇用時
外国人を新たに雇用する際、労働基準法15条に基づき労働条件を書面で明示する必要があります。
日本語の契約書のみでは本人理解が不十分となるリスクがあるため、母国語版または「やさしい日本語版」を併せて交付することが推奨されます。
2024年4月1日施行の改正により、就業場所・業務の変更の範囲、更新上限、無期転換申込機会等の明示も追加されました。
特定技能・育成就労での受入時
特定技能では「特定技能雇用契約書」「雇用条件書」を母国語で作成・交付し、口頭でも理解できる言語で説明することが特定技能基準省令により義務となっています。
出入国在留管理庁が英語・ベトナム語・タガログ語・インドネシア語・中国語・タイ語・ミャンマー語・クメール語・モンゴル語等の様式を提供しています。
育成就労(2027年4月1日施行予定)でも同様の母国語説明・交付義務が引き継がれ、強化される見込みです。
契約変更・更新時
労働条件の変更・契約更新時にも、変更内容を本人が理解できる言語で明示する必要があります。賃金・労働時間・業務内容等の重要な変更は特に丁寧な説明が求められます。
在留資格更新申請時の根拠書類としても活用されるため、最新の契約書を整備しておくことが重要です。
申請・取得の手順
- 厚生労働省の13言語モデル労働条件通知書から、対象国の言語版をダウンロードする。送出国に応じて適切な言語を選択。
- 自社の労働条件(賃金・労働時間・業務内容・社会保険等)を当該言語版に記入する。日本語版と母国語版で記載内容が一致するよう注意。
- 「やさしい日本語版」も併せて作成すると、本人理解の支援に有効。難解な漢字にはふりがなを付し、専門用語は平易な表現に置き換える。
- 契約締結時、本人に契約書を交付し、口頭で要点を説明する。通訳人を介する場合も、最終的に本人理解が確認できる方法を取る。
- 本人の署名・捺印を取得し、契約書の写しを本人と事業主双方で保管する。
- 特定技能・育成就労の場合は、契約書の写しを在留資格申請時に出入国在留管理局へ提出する。
注意点・よくある失敗
日本語版と母国語版の不一致
日本語版と母国語版で記載内容が異なるトラブルが頻発します。翻訳時の誤訳・脱落・更新漏れ等が原因となるため、専門翻訳者の活用や、複数人による相互チェック体制が重要です。両言語の整合性確認は必須です。
説明の形骸化
契約書を交付するだけで本人理解が不十分なまま署名させるケースが問題化しています。労働時間・休日・残業代計算方法・退職規定等、本人にとって重要な事項は時間をかけて説明する必要があります。理解度確認のための質問・対話の機会を設けることが推奨されます。
違反時の処分リスク
労働基準法15条違反は30万円以下の罰金です。特定技能で母国語説明義務を怠ると、特定技能所属機関としての基準不適合により受入停止・新規認定不可となるリスクがあります。
育成就労でも監理支援機関・受入機関の許可・認定取消の対象となります。
就業規則の多言語化
常時10人以上の労働者を使用する事業場では就業規則の作成・届出義務があります。雇用契約書だけでなく就業規則も外国人労働者に周知する必要があり、要点を多言語化して配布する取組が広がっています。
類似書類との違い
| 項目 | 雇用契約書(多言語) | 労働条件通知書 | 就業規則 |
|---|---|---|---|
| 法的位置づけ | 労使合意の契約書 | 労基法15条の明示義務 | 労基法89条の作成義務 |
| 作成義務 | 必須(合意確認のため) | 必須(書面交付) | 常時10人以上で必須 |
| 多言語化義務 | 外国人雇用管理指針で推奨/特定技能・育成就労で省令義務 | 同左 | 外国人理解促進義務 |
| 記載事項 | 賃金・期間・職務等の合意事項 | 絶対的明示事項14項目+相対的明示事項 | 労働条件・服務規律 |
| 違反時 | 労働者からの異議・無効主張 | 30万円以下の罰金 | 30万円以下の罰金 |
雇用契約書・労働条件通知書・就業規則は外国人雇用において一体的に整備されるべき書類です。特に多言語化は契約書・通知書で必須レベル、就業規則は要点抜粋の多言語化で対応することが一般的です。
よくある質問
Q. 厚労省の多言語モデル様式はどこで入手できますか?
A. 厚生労働省の公式サイトから13言語のモデル労働条件通知書を無料でダウンロードできます。
日本語・英語・中国語・韓国語・ポルトガル語・スペイン語・タガログ語・ベトナム語・インドネシア語・タイ語・ネパール語・クメール語・ミャンマー語・モンゴル語の14種類が提供されています。
Q. 「やさしい日本語」を使うメリットは何ですか?
A. 多言語版を用意できない場合や、本人の母国語版が存在しない場合の代替手段として有効です。日本語学習中の外国人の理解度向上にも寄与します。
厚生労働省「やさしい日本語ガイド」では、複雑な表現・敬語・専門用語を避け、短文化・ふりがなを付すなどの工夫が示されています。多言語版と併用することで理解度をさらに高められます。
Q. 通訳人を介して説明すれば書面の多言語化は不要ですか?
A. 特定技能・育成就労では母国語での書面交付が省令義務のため、書面の多言語化は省略できません。
その他の在留資格でも、書面交付+通訳の併用が望ましい運用です。書面が日本語のみの場合、後日トラブル発生時に労働者の理解不足を主張される可能性があります。
Q. 違反した場合のペナルティは具体的に何ですか?
A. 労働基準法15条違反は30万円以下の罰金です。さらに特定技能・育成就労では受入機関の認定取消・新規受入停止のリスクがあります。
労働者からの異議申立による契約条件の無効主張、未払賃金の請求等の民事的リスクも発生します。コンプライアンス体制の整備が重要です。