日本語教育推進法(正式名称:日本語教育の推進に関する法律)とは、外国人等に対する日本語教育を国の責務として位置づけ、基本理念・関係主体の責務・基本方針の策定などを定めた法律です。
令和元年(2019年)6月28日に法律第48号として公布・即日施行された日本初の日本語教育に関する基本法であり、それまで各省庁・自治体・民間の取り組みに任されていた日本語教育を、国家戦略として体系化する出発点となりました。
本法は、国・地方公共団体・事業主の責務を明示するとともに、基本方針の策定を求めています。第一次基本方針は令和2年6月23日に閣議決定され、第二次基本方針は令和7年9月5日に閣議決定されました。
2024年4月施行の日本語教育機関認定法(認定日本語教育機関・登録日本語教員制度)も、推進法の理念を具体化する関連法として整備されています。
法律制定の背景
背景には、在留外国人の急増と日本語学習機会の地域格差があります。法案が議論された2018〜2019年当時、在留外国人は約280万人で、その後2025年6月末には約395万人に達しました。
日本語教育の実施体制が自治体・NPO・民間学校に分散し、教育の質・量に地域差が大きい状態が続いていました。法定の文書・行政情報を読めない外国人住民が、生活・労務・医療の各場面で不利益を被る事例が顕在化したことも、立法の直接的な動機となりました。
本法は超党派の議員立法として成立し、与野党共同で日本語教育の充実を国の責務と位置づけた点で歴史的意義があります。多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現、諸外国との交流促進、友好関係の維持発展を目的に掲げ、国際社会における日本の役割を踏まえた包括的な日本語教育推進の枠組みを構築しています。
法律の主な構成
目的(第1条)
日本語教育の推進が、在住外国人の日常生活・社会生活の円滑化、共生社会の実現、諸外国との交流促進に資することを認識し、基本理念・関係主体の責務・基本方針策定などの基本事項を定めることを目的としています。
基本理念(第3条)
日本語教育を受ける希望者がその希望・能力・適性に応じた教育を受ける機会の最大限の確保、教育水準の維持向上、外国人の家族の状況に応じた支援、地域社会との連携、海外における日本語教育の振興、日本語教育の質の維持向上のための専門性確保など、7項目の基本理念が示されています。
国の責務(第4条)
国は、基本理念にのっとり、日本語教育の推進に関する施策を総合的に策定し、実施する責務を負います。文部科学省・文化庁が中心となり、出入国在留管理庁・外務省・厚生労働省・経済産業省など関係省庁が連携して取り組む体制が整備されました。
地方公共団体の責務(第5条)
地方公共団体は、国との適切な役割分担を踏まえ、地域の状況に応じた施策を策定・実施する責務を負います。都道府県・市区町村ごとに「地域日本語教育推進方針」を策定し、地域日本語教室・学習機会の整備を進める動きが広がっています。
事業主の責務(第6条)
外国人等を雇用する事業主は、国・地方公共団体の施策に協力するとともに、その雇用する外国人およびその家族に対し、日本語学習の機会の提供その他の学習支援に努めることが定められています。受入企業の責務として法定された点が、本法の特徴です。
基本方針の策定(第10条)
政府は、施策を総合的・効果的に推進するための基本的な方針を定めることとされています。基本方針はおおむね5年ごとに検討・改定される運用になっており、最新は令和7年9月5日の第二次基本方針です。
基本方針の改定経緯
| 方針 | 閣議決定日 | 主な内容 |
|---|---|---|
| 第一次基本方針 | 令和2年6月23日 | 初めての基本方針。地域・職場・教育機関・海外における推進の枠組み |
| 第二次基本方針 | 令和7年9月5日 | 認定日本語教育機関・登録日本語教員制度との連動、参照枠の活用、共生社会推進室との連携 |
第二次基本方針では、2024年4月施行の日本語教育機関認定法、出入国在留管理庁「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」、内閣官房「外国人との秩序ある共生社会推進室」(2025年7月設置)などの関連施策との連動が明示されました。日本語教育を国家戦略として横断的に推進する体制が整備されています。
推進法に基づく主な施策
日本語教育機関認定制度
推進法の理念を制度化するため、2023年5月に「日本語教育機関認定法」が成立し、2024年4月から施行されています。一定の基準を満たす機関を文部科学大臣が「認定日本語教育機関」として認定する仕組みで、2025年11月時点で64機関が認定済みです。
登録日本語教員制度
同じく日本語教育機関認定法に基づき、国家資格としての「登録日本語教員」制度が創設されました。試験合格・実践研修修了などを経た者が国に登録され、認定機関で必須となる教員資格です。
地域日本語教育の整備
都道府県・市区町村が「地域日本語教育推進方針」を策定し、地域日本語教室の運営、ボランティア教師の養成、教材整備を進めています。文化庁の補助金により、外国人住民が無料または低額で受講できる教室が全国に展開されています。
日本語教育の参照枠の策定
2021年10月に文化庁が「日本語教育の参照枠」を公表し、CEFRに準拠した6段階(A1〜C2)の到達度区分と493個のCan do文を整備しました。認定機関・地域教室・企業研修すべての共通基準として活用されています。
受入企業に求められる対応
日本語学習機会の提供
事業主の責務(第6条)に基づき、雇用する外国人とその家族に対する日本語学習機会の提供が求められます。具体的には、社内日本語教室の開催、認定日本語教育機関への通学支援、オンライン日本語学習サービスの法人契約、e-ラーニング教材の提供などが代表的な施策です。
勤務時間内の学習支援
業務後の自己学習だけに依存する設計は、長時間労働の常態化・学習意欲低下を招きます。週1〜2時間を勤務時間内で日本語学習に充てる方式が、定着・キャリア形成・本人の生活の質の向上につながります。
家族への支援
推進法は外国人本人だけでなく、その家族への学習機会提供にも触れています。家族滞在で来日する配偶者・子どもの日本語学習を支援することは、本人の長期定着と地域社会への参画にも寄与します。
関連法・制度との関係
| 項目 | 日本語教育推進法 | 日本語教育機関認定法 |
|---|---|---|
| 正式名称 | 日本語教育の推進に関する法律 | 日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律 |
| 性質 | 理念法・基本法 | 実施法・認定制度 |
| 公布 | 令和元年6月28日 | 令和5年5月26日 |
| 施行 | 令和元年6月28日 | 令和6年4月1日 |
| 主な役割 | 理念・責務・基本方針 | 機関認定・教員資格 |
推進法が日本語教育の理念・骨格を定めるのに対し、認定法は具体的な教育機関・教員の質保証を担う実施法です。両者は補完関係にあり、推進法を上位法、認定法を下位法として位置づけることで日本語教育の国家戦略が体系化されています。
よくある質問
Q. 日本語教育推進法は罰則を伴いますか?
A. いいえ、本法は罰則を伴わない理念法です。国・地方公共団体・事業主の責務を定めますが、違反に対する罰則規定はありません。
ただし、認定日本語教育機関の認定取消や登録日本語教員の登録取消など、関連する認定法には罰則・処分規定が含まれます。
事業主の責務は「努力義務」の性格をもちますが、外国人材を受け入れる以上、社会的責任として日本語学習支援に取り組むことが期待されています。
Q. 推進法は誰が立案したのですか?
A. 本法は超党派の議員立法として、自民党・公明党・立憲民主党などの議員連盟「日本語教育推進議員連盟」が中心となって立案しました。
2017年から検討が始まり、約2年の議論を経て2019年6月に成立しました。与野党合意で成立した経緯から、日本語教育を党派を超えた国家的課題として位置づける性格をもちます。
文化庁・出入国在留管理庁・外務省など関係省庁とも連携して条文整備が進められました。
Q. 推進法と育成就労制度の関係は?
A. 育成就労制度(2027年4月1日施行予定)は、外国人材の長期受入れと育成を制度化したもので、推進法と密接に関連します。
育成期間中の日本語学習支援は、推進法第6条(事業主の責務)の具体化として位置づけられ、監理支援機関・受入企業が日本語学習機会を提供する仕組みが整備される見込みです。
育成就労の日本語要件・育成計画には、推進法に基づく日本語教育の参照枠が標準的に使われる予定です。
Q. 在留外国人だけが対象ですか?
A. 国内在住外国人だけでなく、海外で日本語を学ぶ外国人も対象です。外務省・国際交流基金が所管する海外日本語教育の振興も、推進法の対象範囲に含まれます。
第3条の基本理念で「海外における日本語教育の振興」が明記されており、外国人材の出身国における日本語学習機会の整備も国の責務とされています。
送出国での出発前日本語教育、海外の日本語学校・大学への支援、JFT-Basicなどの海外試験の整備もこの枠組みに位置づけられます。
Q. 自治体の取組はどう確認できますか?
A. 都道府県・市区町村の国際課・多文化共生推進室が窓口です。多くの自治体が「地域日本語教育推進方針」を公表しています。
文化庁ウェブサイトでは、各都道府県・主要市町村の地域日本語教育推進体制が一覧化されており、地域日本語教室の実施状況が確認できます。
CLAIR(自治体国際化協会)の多文化共生ポータルサイトでも、地域日本語教育の好事例が継続的に紹介されています。