用語集 日本語教育・資格試験

日本語教育参照枠(CEFR準拠)にほんごきょういくさんしょうわく

日本語教育参照枠(にほんごきょういくのさんしょうわく)とは、日本語の学習・教授・評価のための共通の参照基準を示した枠組みです。

文化庁の文化審議会国語分科会で議論を重ね、2021年10月に最終報告として公表されました。欧州評議会のCEFR(Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠)の考え方を踏まえつつ、日本語教育の特性に合わせて独自にカスタマイズされた日本独自の枠組みです。

「全体的な尺度」「言語活動別の熟達度」「言語能力記述文(Can do)」の3層構造で、A1からC2までの6段階レベルと、合計493個のCan do文が整備されています。

2024年4月1日施行の日本語教育機関認定法に基づく認定日本語教育機関の教育課程は、この参照枠に沿って編成することが定められており、現在の日本語教育の中核的な指針となっています。

参照枠が整備された背景

背景には、外国人住民の急増と日本語学習ニーズの多様化があります。在留外国人数は2025年6月末で約395万人に達し、就労・留学・生活・家族帯同など、多様な目的の学習者が混在するようになりました。従来の日本語能力試験(JLPT)の5段階区分や、学校独自のカリキュラムだけでは、学習者のレベル把握と教育の質保証が難しくなっていました。

そこで文化庁は、国際的な評価枠組みであるCEFRをベースに、日本語固有の文法・音声・敬語などの要素を組み込んだ参照枠を策定しました。2019年6月28日施行の日本語教育推進法、2024年4月施行の日本語教育機関認定法と連動した、国の日本語教育政策の基盤となる枠組みです。

参照枠の構造

全体的な尺度(A1〜C2)

日本語の熟達度を6段階に区分した最上位の指標です。A1(入門)→ A2(初級)→ B1(中級前半)→ B2(中級後半)→ C1(上級前半)→ C2(上級後半)の順に難易度が上がります。CEFRと同じ6段階構造を採用しており、国際的な言語教育の枠組みと整合します。

言語活動別の熟達度

「聞くこと」「読むこと」「話すこと(やり取り)」「話すこと(発表)」「書くこと」の5つの言語活動それぞれに、A1〜C2の6段階で熟達度が示されています。総合得点だけでなく、技能別の到達度が把握できる設計です。

言語能力記述文(Can do)

「〜ができる」という形で具体的な能力を記述した493個のCan do文が整備されています。例えばA1には「ゆっくりはっきりと話してもらえれば、自分自身や家族に関する簡単な情報を聞き取ることができる」、B2には「自分の専門分野の議論を理解し、自分の意見をはっきりと述べることができる」といった具体的な記述が並びます。

日本語固有の要素

敬語・漢字・音便・授受表現など、日本語特有の言語要素が各レベルに組み込まれています。CEFRをそのまま流用するのではなく、日本語の構造的特性を反映している点が独自性です。

6レベルの到達目標

レベル到達目標JLPT目安
A1(入門)身近で日常的な表現の理解、簡単な自己紹介・質問応答N5
A2(初級)身近な話題での情報交換、日常生活の基本的やり取りN4
B1(中級前半)仕事・学校・余暇など身近な話題で明確な発言、要点把握N3
B2(中級後半)専門分野の議論への参加、要点を明確に説明できるN2
C1(上級前半)複雑な内容の理解と表現、長文の流暢な使用N1
C2(上級後半)幅広い情報源の理解と再構成、ニュアンスを含む表現N1超

JLPTのN1〜N5との対応関係は文化庁・JLPT運営側で公表されており、2025年からはJLPT合格証にもCEFRレベルが参考表示される予定です。これにより、国際的な評価軸と日本独自の試験を連動して活用できる環境が整いつつあります。

参照枠の主な活用場面

認定日本語教育機関のカリキュラム編成

認定日本語教育機関は、参照枠に沿った教育課程編成が法令で求められています。2025年5月の変更届出からは、各機関のカリキュラムで参照枠との対応関係を明示することが必須になりました。「就労」「生活」「留学」の3課程それぞれに、A1〜C2のどのレベルに対応するかが明記されます。

企業の社内研修・評価

外国人社員の日本語能力を評価する際の共通基準として、CEFR・参照枠が広く活用されています。JLPTの合格証だけでなく、参照枠ベースのCan doリストで現場で実際に何ができるかを評価することで、配置・昇格判断が現実に即したものになります。

学習者自身の自律学習

Can doリストを使って、学習者が自分の到達度を自己診断し、次の学習目標を立てることができます。「いま自分はB1のレベルだから、次は専門分野での発表ができるようになる」といった具体的な目標設定が可能になります。

教科書・教材開発

出版社・教材開発企業は、参照枠の各レベルに対応した教材を制作するようになっています。「A2対応」「B1向け」など、レベルが明示されることで、学習者・教師が目的に合った教材を選べる環境が整いつつあります。

CEFRとの違い

項目日本語教育参照枠CEFR
策定主体文化庁・国語分科会欧州評議会
策定時期2021年10月2001年初版/2018年補遺版
対象言語日本語欧州諸言語(汎用)
レベル構造A1〜C2の6段階A1〜C2の6段階
独自要素敬語・漢字・授受表現等仲介活動・複言語能力
Can do数493個数千個(補遺含む)

両者は基本構造を共有しつつ、それぞれ言語固有の特性を反映しています。日本語教育参照枠はCEFRの世界的な普及を踏まえた国際的な接続性をもちながら、日本語ならではの敬語・漢字などの要素を組み込んだ独自設計です。

受入企業に期待される対応

採用基準への組み込み

求人票・募集要項に「CEFR B1相当」「日本語教育参照枠B2相当」など、参照枠ベースのレベルを記載することで、応募者・送出機関との認識のズレを減らせます。JLPTだけでなく、Can doレベルでの基準明示が標準になりつつあります。

社内日本語研修の体系化

研修目標を「N4合格」ではなく「A2のCan doリスト達成」のように設定すると、現場業務で必要な具体的能力(電話応対・接客敬語など)に直結した学習設計ができます。日本語教師・登録支援機関との打ち合わせも、参照枠ベースで進めるとスムーズです。

類似概念との違い

項目日本語教育参照枠JLPTJF日本語教育スタンダード
性質評価・教育の基準能力測定試験教育内容の指針
運営文化庁国際交流基金等国際交流基金
主な用途カリキュラム編成・評価能力認定教科書・コース設計
レベル区分A1〜C2(6段階)N1〜N5(5段階)A1〜C2(6段階)

JLPTが「試験による合否判定」、JF日本語教育スタンダードが「教育内容の指針」であるのに対し、日本語教育参照枠はその両者を統合する「国の参照基準」として位置づけられています。三者は補完関係にあり、目的に応じて使い分けます。

よくある質問

Q. 参照枠はどこで入手できますか?

A. 文化庁の公式サイトで全文がPDF公開されています。「日本語教育の参照枠 報告」「Can doリスト」が無料でダウンロードできます。

文部科学省「日本語教育コンテンツ共有システム(NEWS)」でも、参照枠の解説資料・教材例が体系的に公開されています。

各都道府県・市町村の国際交流協会も、参照枠に基づいた地域日本語教育の手引きを公表しているケースが増えています。

Q. JLPTを取得していれば参照枠のレベルは決まりますか?

A. 目安として対応関係はありますが、厳密には別概念です。JLPTは「合否」を決める試験、参照枠は「何ができるか」を記述する基準です。

JLPT N4合格者でも、参照枠A2の「話すこと(やり取り)」のCan do項目をすべて満たしているとは限りません。技能別・場面別の運用力を確認するには、Can doリストでの自己評価や教師観察を併用する必要があります。

2025年からはJLPT結果にCEFRレベルが参考表示される予定で、両者の連動がより明確になります。

Q. 認定日本語教育機関では必ず使うのですか?

A. はい、必須です。2024年4月施行の日本語教育機関認定法により、認定機関は日本語教育参照枠に沿った教育課程を編成することが義務付けられています。

2025年5月の変更届で、各機関のカリキュラム記載に参照枠との対応が明示される運用が始まりました。生活・留学・就労の3課程それぞれに、対応レベルが明記されます。

2025年11月時点で64機関が認定されており、参照枠ベースの教育が急速に標準化されています。

Q. 育成就労制度との関係は?

A. 育成就労制度(2027年4月1日施行予定)の日本語要件は、参照枠でA1相当(JLPT N5相当)以上が想定されています。育成期間中はA2・B1へと段階的に到達することが目標です。

特定技能1号への移行要件は参照枠A2相当(JLPT N4以上)、特定技能2号への移行はB1〜B2相当が望まれます。長期キャリアパスを参照枠で設計することが標準になりつつあります。

受入企業・監理支援機関は、育成計画にCan doレベルで到達目標を明記することで、本人・送出機関・行政との認識共有がスムーズになります。

Q. CEFRと完全に同じですか?

A. 6段階のレベル構造はCEFRと共通ですが、日本語特有の敬語・漢字・授受表現・音便などが組み込まれた独自の枠組みです。

欧州ではCEFRが30か国以上の言語教育の共通基準として使われており、日本語教育参照枠は日本語版CEFRとして国際的に接続できる設計です。

欧州諸言語との対照学習・キャリア形成のうえでも、参照枠を経由してCEFRと連動する仕組みが整っています。

参考資料

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