最終更新:2026年10月 titp360.jp編集部
「外国人の社員は、社会保険に入れなくてもいいんですよね?」。初めて外国人を雇う会社で、総務の担当者がよく社内で聞かれる質問です。答えは「いいえ」です。健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険は、国籍に関係なく日本人と同じ条件で適用され、本人が「入りたくない」と言っても外すことはできません。ただし外国人ならではの確認ごともいくつかあり、そこを知らずに進めると、届出のやり直しや本人とのすれ違いが起きやすくなります。
この記事では、架空の会社の例を使って、入社前の説明から退職・帰国のときまでを順に追っていきます。例の会社は、地方で金属部品を作る従業員35名の工場です。外国人を雇うのは今回が初めてです。来年4月、海外から特定技能1号(工業製品の製造の仕事で働くための在留資格)でFさんとGさんの2人を迎え、どちらもフルタイムで機械加工の工程を担当してもらいます。(例は説明のための架空のものです)
内定後の面談で、2人からこんな質問が出ました。Fさんは「母国にいる妻と子ども2人を、会社の保険の扶養に入れたい」。Gさんは「5年で国に帰るので年金はいりません。その分、手取りを増やしてほしい」。総務担当のあなたは、どう答えればよいでしょうか。
本人が望んでも、外すことはできない
まずGさんへの答えからです。日本年金機構は、健康保険・厚生年金の適用事業所に常時使用される人は「国籍や性別、賃金の額等に関係なく」被保険者になると案内しています。加入するかどうかを本人や会社が選ぶ仕組みではありません。雇用保険と労災保険も、外国人だからという理由で外れることはありません。
では、加入させなかったら何が起きるのでしょうか。まず、日本年金機構は加入していない事業所や従業員の把握に努め、加入の指導を行っています。雇用保険の届出(後で説明します)を怠ると、30万円以下の罰金の対象にもなります。
特定技能の人を雇う会社には、もう一つ大きな影響があります。出入国在留管理庁の提出書類一覧では、会社が初めて特定技能の人を迎える申請のときに、会社が保険料を納めていることを示す証明を出します。年金事務所で取る「社会保険料納入状況回答票」と、労働局で取る「労働保険料等納付証明書」です。保険料をきちんと納めていない会社は、そもそも申請の書類がそろいません。
本人にも影響があります。在留期間の更新で、国民健康保険や国民年金に入っている人はその納付の証明を自分で集めて出しますが、会社の保険に入っていれば対象外です。
法律に基づいて厚生労働省が定めた「外国人雇用管理指針」も、加入の手続きを事業主の務めとし、募集の段階で加入する保険を書面で示すよう求めています。FさんとGさんの雇用条件書に、加入する保険と給料から引かれる保険料が書かれているか、この機会に確かめておきましょう。
では、パートの人や、海外の会社から来た人も同じなのでしょうか。次は、加入するかどうかを分ける決め手を見ていきます。
決め手は「会社」と「働き方」の2つ
加入するかどうかを分けるのは国籍ではなく、2つの点です。1つ目は、会社が健康保険・厚生年金の「適用事業所」(加入が義務づけられた事業所)かどうか。株式会社などの法人の事業所は、規模にかかわらずこれに当たります。2つ目は、その人が「常時使用される」かどうかです。かんたんに言えば、会社で継続して働き、その対価として給料を受け取っている人のことです。試用期間中でも、給料が払われていれば当たります。
例の工場は法人の適用事業所で、FさんもGさんもフルタイムで働きます。2つの点を両方満たすので、2人とも健康保険・厚生年金に入ります。雇用保険と労災保険も、日本人の社員と同じように適用されます。労災保険について指針は、仕事中のけがなどが起きたときに、本人や家族の相談に応じ、請求の手続きを手伝うよう事業主に求めています。
一方、週に数日だけ働くパートや、留学生のアルバイトは、労働時間などの条件で判断が変わります。外国人かどうかではなく日本人と同じ物差しで決まるので、詳しくは社会保険加入要件(週何時間等)で確認してください。
「社会保障協定がある国の人は、日本の年金に入らなくてよい」と聞いたことがあるかもしれません。厚生労働省によると、協定で保険料の二重払いを避けられるのは、相手国の会社から日本へ派遣されて働く人です。派遣が5年以内なら、母国の制度だけに入ります。FさんとGさんは、御社と直接雇用契約を結んで働くので、この免除には当たりません。ただし協定には、日本と母国の年金の加入期間を合わせて数える(通算する)決まりを持つものもあり、こちらは帰国のときに関わってきます。後の節で触れます。協定の中身は社会保障協定にまとめています。
加入が決まったら、次は届出です。入社日から数えて、何をいつまでに出せばよいのでしょうか。
入社日から数える、2つの届出
1つ目は、健康保険・厚生年金の「被保険者資格取得届」です。入社日から5日以内に、日本年金機構の事務センターか、会社を管轄する年金事務所へ出します。電子申請・郵送・窓口のどれでも出せます。届け方は日本人と同じですが、外国人ならではの点が2つあります。
まず、氏名の扱いです。外国人の氏名は、ローマ字で年金の記録に登録します。マイナンバーと年金の番号(基礎年金番号)がまだ結びついていない人は、資格取得届と一緒に「ローマ字氏名届」という1枚の届出も出します。海外から来たばかりで、日本の年金に入るのが初めてのFさんとGさんは、これに当たると考えて準備しましょう。初めて加入すると、あとで「基礎年金番号通知書」が届きます。日本の年金の番号が書かれた書類なので、本人に渡して大切に保管するよう伝えてください。
次に、マイナンバーです。資格取得届は、マイナンバーか基礎年金番号を書いて出すのが基本です。ところが入国してすぐの入社では、市区町村で住所を届け出たあと、マイナンバーが本人に知らされるまで時間がかかることがあります。届出の期限は入社から5日以内のままなので、番号が届くのを待って遅らせるのは避けましょう。日本年金機構は、マイナンバーのない外国人について、旅券の写しなどで本人を確認する方法と、先ほどのローマ字氏名届を案内しています。入社日の前に年金事務所へ「マイナンバーがまだない2人の届出には、何の写しを添えればよいか」と聞き、旅券と在留カードの写しを用意しておけば、入社の週に慌てずに済みます。
2つ目は、雇用保険の「被保険者資格取得届」です。入社した月の翌月10日までに、ハローワークへ出します。外国人の場合、この届出がそのまま「外国人雇用状況の届出」を兼ねます。在留資格や在留期間を書く欄があるので、在留カードを見ながら記入しましょう。届出の詳しい書き方は外国人雇用状況届出にあります。
ここまでで、2人の加入手続きは終わります。残るのは、面談で出たFさんの質問です。母国にいる家族は、扶養に入れられるのでしょうか。
母国の家族は、扶養に入れない
答えは、原則として「入れられない」です。健康保険の被扶養者になるには、2020年4月から「日本国内に住所(住民票)があること」が条件になりました。母国で暮らすFさんの妻と子どもは、この条件を満たしません。
例外はあります。海外へ留学している学生や、海外赴任に同行している家族など、日本に生活の基礎があると認められる場合です。ただ、母国にずっと住んでいる家族は、これに当たらないと考えておきましょう。
Fさんには、「会社の健康保険で医療を受けられるのは、日本で暮らすFさん本人です」と伝えます。扶養の条件は健康保険被扶養者で確認できます。
残るはGさんの「年金はいらない」です。加入は外せないと分かっても、本人が納得しなければ不満が残ります。次は、Gさんにどう説明するかを考えます。
「年金はいらない」と言われたら
まず、保険料の負担の仕組みから伝えましょう。厚生年金の保険料は、給料をもとに決める額(標準報酬月額)の18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します。Gさんの給料から引かれるのは9.15%分で、残りの半分は会社が払っています。健康保険料も会社と本人で分け合いますが、率は加入先(協会けんぽの都道府県支部や、会社の健康保険組合)によって違うので、自社の率で計算して見せると伝わりやすくなります。
次に、年金は老後のためだけではないことです。厚生労働省の指針は、加入している間のけがや病気で障害が残ったときに、障害年金が出る場合があることを伝えるよう事業主に求めています。工場で機械を扱うGさんにとって、これは身近な話です。
そして、帰国する人のための「脱退一時金」の制度です。日本国籍のない人が厚生年金に6か月以上入ってから出国すると、加入期間と給料をもとに計算した一時金を、帰国後にGさん本人が請求できます。計算式は日本年金機構のページで公開されています。請求の期限は、日本に住所がなくなってから2年以内です。金額の計算に使う期間には上限があり、今は60か月(5年)です。会社の役目は、請求の手続きではなく、制度があることを伝えることです。
ただし、受け取る前に考えてほしい点があります。指針は、脱退一時金を受け取ると、その計算に使った期間は加入していなかったものとみなされる、と説明しています。受け取らずにおけば、Gさんが将来また日本で働いたとき、今回の期間を日本の年金の加入期間に足していけます。前の節で触れた、期間を通算する決まりのある協定の国なら、母国の加入期間と合わせて数えられる場合もあります。「帰るときに、受け取るかどうかを選べます」と伝えるのが、いちばん誤解のない言い方です。
説明には、日本年金機構が用意している14言語のパンフレットが使えます。指針も、母国語など本人が分かる方法で説明するよう求めています。制度の詳細は脱退一時金にまとめています。

辞めるとき、帰国するときに会社がすること
Gさんが5年後に帰国するとき、会社にはまた出番があります。入社のときと対になる届出と、本人への声かけです。
健康保険・厚生年金は、退職してから5日以内に「被保険者資格喪失届」を出します。医療機関で健康保険を使うための書面(資格確認書)を本人に渡していれば、それも回収します。雇用保険は、退職日の翌日から10日以内に「被保険者資格喪失届」をハローワークへ出します。これが外国人雇用状況の届出(離職)を兼ねます。
届出のほかに、本人への声かけも大切です。指針は、退職して国民健康保険や国民年金の手続きが必要になるときはそれを教えること、帰国する人には脱退一時金を請求できることと年金事務所の窓口を伝えることを、事業主に求めています。日本で次の仕事を探す人には、雇用保険の離職票(失業手当の手続きに使う書類)を渡し、ハローワークの窓口を案内します。なお、特定技能の人が辞めるときは、社会保険とは別に、会社から入管への届出も必要です。転職の流れは特定技能外国人の転職手続きで確認できます。
ここまでの流れを、時期ごとに一覧にしておきます。
入社から帰国までの手続き一覧
| 時期 | 会社がすること | 期限・提出先 |
|---|---|---|
| 募集・内定 | 雇用条件書に加入する保険と保険料を書き、本人が分かる言葉で説明する | 内定時 |
| 特定技能の申請 | 社会保険料納入状況回答票と労働保険料等納付証明書をそろえる | 申請前/年金事務所・労働局 |
| 入社 | 健康保険・厚生年金の資格取得届(必要ならローマ字氏名届) | 5日以内/事務センター・年金事務所 |
| 入社 | 雇用保険の資格取得届(外国人雇用状況の届出を兼ねる) | 翌月10日まで/ハローワーク |
| 入社後すぐ | 多言語パンフレットで制度と脱退一時金を説明する | 入社時 |
| 在職中 | 仕事中のけがなどが起きたら、労災保険の請求を手伝う | その都度 |
| 退職 | 健康保険・厚生年金の資格喪失届、資格確認書などの回収 | 5日以内/事務センター・年金事務所 |
| 退職 | 雇用保険の資格喪失届(外国人雇用状況の届出を兼ねる) | 翌日から10日以内/ハローワーク |
| 帰国前 | 本人が脱退一時金を請求できること、受け取ると加入期間が消えることを伝える | 帰国前 |
表を見ると、外国人だから増える手続きはわずかです。違いが出るのは、説明の仕方と、家族や帰国にまつわる確認です。
今日から始める3つのこと
FさんとGさんを4月に迎えるまでに、今日から始められることは3つです。
1つ目は、2人の雇用条件書を開き、健康保険・厚生年金・雇用保険・労災保険の加入と、給料から引かれる保険料が書かれているかを確かめることです。書かれていなければ、母国語を併記して書き足します。
2つ目は、年金事務所に一度足を運ぶことです。特定技能の申請がこれからなら、社会保険料納入状況回答票をここで取れます。あわせて、マイナンバーがまだ分からない場合の資格取得届の書き方を聞いておきましょう。入社日が決まったら、5日以内の資格取得届と、翌月10日までの雇用保険の届出をカレンダーに入れておきます。
3つ目は、日本年金機構の多言語パンフレットを2人の母国語で印刷し、入社の日に説明する時間を15分ほど取ることです。Fさんには扶養の条件を、Gさんには保険料の割合と脱退一時金を伝えます。
それぞれの制度をもう少し詳しく知りたいときは、次の用語集が役に立ちます。
- 加入の条件:社会保険加入要件(週何時間等)
- 帰国時の年金:脱退一時金
- ハローワークへの届出:外国人雇用状況届出
- 分野の全体像:特定技能「工業製品製造業」
自社の場合はどの保険の扱いが変わるか、特定技能の申請とどう合わせて進めるか迷ったときは、外国人採用ツナガル24で無料で相談できます。
よくある質問
試用期間中も、社会保険に入れる必要がありますか?
はい。日本年金機構は、試用期間中でも報酬が支払われる場合は、加入の対象になる使用関係が認められると説明しています。フルタイムで働く人は、入社の日から加入します。日本人の社員と同じ扱いです。
本人の国が社会保障協定を結んでいるかは、どこで分かりますか?
厚生労働省の「社会保障協定」のページに、協定を結んでいる国の一覧(締結状況)が載っています。ただ、本文のとおり、御社が直接雇う人は協定の国の出身でも日本の厚生年金に入ります。協定の国かどうかが効いてくるのは、加入期間を合わせて数える決まりがある協定なら、日本と母国の加入期間を通算できるという点です。脱退一時金を受け取るかどうかを本人が考えるときの材料として、伝えておくとよいでしょう。