マンション清掃での技能実習生の雇用

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2021年4月26日号/5月31日号掲載「マンション清掃での技能実習生の雇用」の話題。

1.伸び悩むビルクリーニング職種

技能実習生2号移行対象職種にビルクリーニングが追加されてから、まもなく5年の月日が経とうとしている。2019年3月には、3号移行対象職種に追加されたが、令和元年度に発表された技能実習受け入れ総数約37万人のうち、ビルクリーニング職種は5473人と全体の1・5%にすぎない。

特定技能に至っては、令和2年12月の速報値において、14職種での総数約1万6千人のうち184人と、他職種に比べ圧倒的に少ない状況である。日本の深刻な人手不足を解消すべく、施行された特定技能に含まれているにも関わらず、受け入れが進まない理由は何か。

そのひとつに、外国人に対しての違和感があると考える。主要都市のコンビニや飲食店等で、外国人が接客していることは、ごく普通の風景になっているが、地方や身近な生活空間においてはまだなじみが薄い。

これは、業種や場所によって外国人雇用が浸透していないためでもあり、堂々巡りの状況が考えられるのではないだろうか。

2.念願のマンション清掃での受け入れ

今回、マンション清掃という外国人雇用のハードルが高いと思われる現場で、現在7名の技能実習生を受け入れているマンション管理受託実績業界最大手「日本ハウズイング株式会社」へ話を伺った。同社の技能実習生雇用の経緯を紹介することで、ビルクリーニング業界の外国人雇用活性化に繋げたい。

受け入れのきっかけは、他の業種同様、社員の高齢化と人手不足であった。

ビルクリーニングが技能実習へ追加されたのと同時期に、日本ハウズイング社はベトナム最大手の清掃会社「PAN SERVICES社」とM&Aを行っていたため、技能実習制度を活用する事で日本国内の人手不足解消を目指すとともに、実習で身につけたスキルを本国に戻った後、同社において技術移転する展開も念願にあった。

しかし、当初は住宅を除くビル清掃しか実習の対象にならなかった。

幅広い現場で実習を行うことが出来るよう、マンション管理業協会などが働きかけた甲斐もあり、3号移行対象職種に追加されるタイミングで専用部を除いた住宅も対象に加えられた。
そして2019年7月に1期生4名、2020年10月には2期生3名を受け入れている。

この人選は、帰国後に部下達を指導できる人材としてPAN SERVICES社のリーダー格を選出したそうだ。経験者とはいえ、日本の現場で受け入れるには障壁があったはずだ。

技能実習技術指導員の中島さん(写真右上)は、「普段外国人と接する機会がなかった上、技能実習制度の制約を聞き、腫物に触るような対応をイメージ」し、尻込みしていたと当時を振り返る。

暗中模索の状態で進めてきた指導であったが、実習を通じて彼らの国民性や勤勉さを目の当たりにし、考えが変わったという。

3.試行錯誤しながら進めた指導

技能実習指導員中島さん(写真真ん中)に、配属に関わる指導の要点を伺った。

まずは言葉の壁があったという。
現地で5カ月間ほど日本語の勉強をしたとはいえ、会話や説明の理解は十分ではなかった。そこで、現場で通訳に頼らず職務を遂行できるよう、座学講習で基本の業務内容を日本語で教えこむことにした。ベトナムの文法に沿って「食べたご飯?」などと語順を変えて話すと伝わりやすいことにも気づき、工夫を重ねるにつれ習得の速度が早くなったという。

次に技術面においては、日本特有の塵一つないといった隅々まで綺麗にする感覚や独特な機材の使い方を、実際の完成形や手法を一緒にやりながら見せることで体得してもらったそうだ。
また現場では作業時間が限られているため、チームワークが重要になる。各現場で異なる機材やルールをすぐ真似て覚える勤勉さにより、早い段階から作業員相互の連携がスムーズに出来たそうだ。
「とにかく新しい機械や難しい機械にチャレンジしようとするんだよ」と中島さんは言う。日本で学べることを積極的に自分のものにしようとする姿勢からも実習への熱意が伝わってきた。

最後に、マンション清掃では住民等一般の人と接することになるため、注意喚起の声掛けの仕方は指導を徹底したそうだ。
入国後講習の時点からシミュレーションを繰り返し、現場で必ず必要となるアクションは意図も含め浸透させた。

彼らの熱心な仕事ぶりと安全への配慮は、クライアント先で褒められるほどだそうだ。

4.実習終了後のそれぞれの想い

そんな彼らの帰国後への想いは様々だ。

1期生のトンさん(写真左から3番目)は、休日にはみんなに料理をふるまうなど母親的な存在だ。1年8カ月で不自由なく日本語を話せるまでに上達していることに驚いた。
それだけ日本での生活が充実しており、チャンスがあれば戻ってくることを望んでいるのだそうだ。

同じく1期生のラクさん(写真左から2番目)は、PAN SERVICES社の成長のために、日本で学んだ技術をベトナムで活かしたいと熱い眼差しで語る。日本で貯めたお金で結婚する予定だと幸せいっぱいの笑みも見せてくれた。

まだ入国間もない2期生の3名は、7月にある技能実習2号へ移行するための試験に向けて、意気込んでいるそうだ。

日本ハウズイング社としては、彼らが習得した技術を現地日系ビル等で発揮してくれることを願っていると伴に、さらに今後は技能実習生にとどまらず、1人でも就業可能な特定技能や留学生等、様々な外国人人材を起用していくことで、ビルクリーニング業界での外国人雇用を牽引し、業界全体の活性化を目指すという。

その姿勢に希望を見る思いだ。

(※このコラムは、ビル新聞2021年4月26日/5月31日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.27/28を加筆転載したものです。)