憧れの日本で芽生えた夢は”TOYOTA車”

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2021年8月23日号掲載「憧れの日本で芽生えた夢は”TOYOTA車”」の話題。

1.企業配属当日の想い

東京オリンピックに湧く7月のある猛暑日、長野県北部の鬼無里(きなさ)を訪れた。この地区は、裾花川源流沿いにある山々に囲まれた村落で、過疎化が進む場所だ。長野駅から車で40分ほど走って到着した小さな工場で、ベトナム人実習生ホアン・ニャット・ロンさん(22)(写真中央)とお会いした。

弾けるような笑顔で出迎えてくれたロンさんは、今年1月、コロナ影響で新規入国が停止される直前に滑り込みで来日した希少な実習生だ。生産用機械器具製造を行う工場で「機械加工職種」として働いている。就業から半年が経ち、少しずつ日本での生活に慣れてきたところだ。

聞けば、ベトナムから丸一日かけてはるばるやってきた鬼無里の第一印象は、ロンさんが想像していた「大都会日本」とはかけ離れた田舎で、少し戸惑ったそうだ。

「車がどんどん山奥へ向かうので、どこに連れて行かれるのか心配になりました(笑)」。

しかし最初に案内された寮を見て、その不安は一気に払拭された。ロンさんのために受入企業から用意された住まいは、2LDKの立派なアパートで、家電や家具まで設えられていたのだ。
「ベトナムの自宅よりも広い家に住めるなんて、日本はすごい国だと思いました」とロンさん。

2.来日のキッカケは家族

ベトナムでは両親とお姉さん、その子供2人と暮らす6人家族。家計の担い手として日々一生懸命働くものの、生活は困窮していた。

折しも友人から、「日本なら今の5倍は稼げる」という話しを聞き、初めて技能実習制度のことを知ったという。家族と三年間も離れて異国で暮らすことへの不安は大きかったが、今の生活から抜け出したいと一念発起し、実習生として出稼ぎに行くことを決意した。もともと機械加工の仕事をしていたので、その技術を活かせることも決め手となった。

監理団体の木村さん(写真左)によれば、勤務態度は極めて良好で、どんどん新しい業務の指導に入っているとのことだ。「機械操作は大体一人で出来るようになりましたが、みんなのスピードには、まだぜんぜんついていけないです」と苦笑いをするロンさんだが、受入企業からの評価は高い。

実習制度の本質的な趣旨とは異なる、いわゆる「出稼ぎ」目的での来日とはいえ、勤勉な姿勢と素直で真っすぐな性格は職場でも好印象のようだ。

3.夢に向かって一直進

現在は、本人の希望もあり、残業や夜勤もこなし、月給は約27万円程度と実習生の給与相場を大きく超えている。

毎月15万円をベトナムへ仕送りし、食事はすべて自炊、生活費は月2万円までに抑えるという倹約ぶりだ。そんなロンさんの夢は、帰国したら貯めたお金で「TOYOTA車」を買うことだと目を輝かせる。

二年半後、無事に実習を終えたロンさんが、ベトナムの街を日本車で颯爽と駆け抜ける日がやってくることはきっと間違いない。

 

(※このコラムは、ビル新聞2021年8月23日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.31を加筆転載したものです。)