中国介護市場に挑む日中架け橋ビジネス
1.中国経済の転換期~国内介護市場に挑戦~
中国は「世界の工場」から「世界の市場」へと変貌を遂げ、巨大な経済圏を形成してきた。しかし、コロナ禍や不動産不況の影響は深刻で、内需の低迷や経済成長の停滞など、国際都市としての輝きに陰りが見られる。
そんな逆境をバネに、新たな活路を見出す中国人ビジネスマンがいる。蘇州市で介護関連事業を展開する康家浩さん(通称:カンさん)だ。
カンさんは以前、中国・威海市で日本語学校を運営し、技能実習生や特定技能として日本へ介護人材を派遣する送出機関を手がけていた。中国人材は日本人に近い外見と高い日本語能力を持ち、日本の介護業界で重宝されてきた。
しかし、コロナ禍で事業は暗礁に乗り上げ、多額の損失を抱える苦境に陥った。
そこでカンさんは、中国国内の介護市場に目を向けた。
2.ビジネスチャンスと社会貢献を両立する事業モデル
高齢化が急速に進む中国では、65歳以上の人口が2億人に迫り、巨大な介護マーケットが形成されつつある。しかし、介護保険制度は未整備で、サービス内容も限定的。介護用品の種類や品質も発展途上だ。
ここにカンさんはビジネスチャンスを見出した。
「日本の介護サービスや機器は、中国にとって宝の山だ」。
そう確信したカンさんは、中国政府の支援を受けて、江蘇省蘇州市に延床6,000平米の建物を借り受け新会社を設立した。
そこには日本式の介護サービスや機器を展示・紹介するショールームがあり、中国市場への参入を目指す日本企業は、販売・営業の代行から市場情報の提供まで、包括的なサポートを受けられる。
さらに介護人材育成学校を併設し、日本から招聘した講師が介護技術を教えている。このビジネスモデルは、日本企業と中国市場の双方にメリットをもたらすだろう。
日本企業は低コストで中国市場に参入でき、一方中国では介護市場全体の活性化につながる。カンさん自身、事業を軌道に乗せつつ中国経済に貢献できる。
また、介護学校では、日本の介護サービスや機器に関する専門知識だけでなく、日本語教育も提供している。ここで学ぶ優秀な人材を、特定技能人材として日本へ派遣し、将来の幹部候補生に育てることも視野に入れているという。
これは、これまでにない斬新なビジネスモデルといえる。
3.介護を通じた国際貢献、日中両国の未来は…
介護事業で先行する日本のノウハウを中国の高齢者市場に取り込みながら、同時に日本へ人材を送り出し、その人材が将来の中国介護市場を担うという構図だ。
カンさんの挑戦は、日中両国の介護業界に新たな風を吹き込むだろう。
海外から求められる日本の高齢化社会への対応策を輸出し、同時に日本は足りていない人材を補うという、新たな国際協力の形を体現している。この相互補完的な仕組みは、日中両国にとって重要な鍵となるかもしれない。
私たちは、ここから貴重な示唆を得ることができるだろう。
(※このコラムは、ビル新聞2024年9月30日号掲載「中国介護市場に挑む日中架け橋ビジネス」Vol.57を加筆転載したものです。)