コロナ禍に生まれたベトナムの新しい風

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2024年7月29日号掲載「コロナ禍に生まれたベトナムの新しい風」の話題。

1.ベトナム実習生の課題に挑む、送出機関「TAKUMI」

技能実習生の送り出し国として、近年「ベトナム離れ」がささやかれている。

渡航前の高額な手数料や日本語能力の低下が来日後の暮らしを圧迫し、失踪問題や犯罪行為を引き起こしていると指摘され、また一方で経済格差の縮小や円安によりベトナムの若者たちは日本への夢を見失いつつある。

しかし、そんな逆境の中にあっても、新たな風を吹き込もうとする挑戦者がいる。

2021年コロナ禍真っ只中に設立された送出機関「TAKUMI(タクミ)」だ。設立からわずか3年、まだ実績は少なく知名度こそ低いが、志の高さと革新的なアプローチで注目を集めている。

2.日本での経験が原点、TAKUMI副代表の熱い想い

TAKUMIの副代表ブイ・ディン・クエットさんは、15年程前の大学時代に伊勢神宮近くのホテルでインターンシップを経験し、日本人のホスピタリティや勤勉さに感銘を受けた。

「時間を守る。約束を守る。人にやさしくする。」

多くの日本人が当たり前にしている仕事に臨む姿勢に衝撃を受けたという。

帰国後、日本とベトナムの架け橋となるべく送出機関へ就職。持ち前の頑張りでトップセールスとなったが、課題に直面する。

受入企業や監理団体からのクレームの多くには、実習生が抱える問題が根底にあり、悪循環を生んでいたのだった。

これらを目の当たりにしたクエットさんは、「ベトナムの人たちが安心して日本で働けるように、そして、日本企業が本当に求める人材を送りたい」と固く決意し、TAKUMIを立ち上げた。

3.”実習生ファースト”実践的教育と手厚いサポートで実習生を後押し

TAKUMIは、実習生の手数料を他のベトナム送出機関よりも大幅に安く設定し、多くの若者たちに門戸を開いている。

教育面では通常の日本語の授業の他に、日本の文化や習慣、ビジネスマナーまで踏み込んだ実践的な教育を提供する。

さらに、入国後も定期的なフォローアップを行い、週2回2時間ずつの無料オンライン日本語研修など、実習生が安心して生活できるようサポートを徹底している。

「私達は実習生ファーストを貫いています。彼らが日本で活躍できるよう、あらゆる面でサポートするのが私達の仕事です」。

クエットさんの言葉には、実習生一人ひとりを大切に思う気持ちが溢れている。

そして、実習生に経済的な負担をかけないよう監理団体と連携し、「実習生負担金ゼロ円」の画期的なスキームも計画中だ。

このプランはベトナムの若者たちに新たな希望を与え、日本企業にとっても優秀なベトナム人材を確保するチャンスになると確信している。「ベトナムの若者は、日本の発展に貢献できるポテンシャルを秘めている。

同時に、日本での経験は彼ら自身の人生を豊かにするだろう」そう語るクエットさんには、日本のベトナム人離れを払拭し、ベトナム人実習生の未来を変えるという信念がみなぎっている。

逆風に立ち向かおうとするその使命感に心からのエールを送りたい。

 

(※このコラムは、ビル新聞2024年7月29日号掲載「コロナ禍に生まれたベトナムの新しい風」Vol.55を加筆転載したものです。)