特定技能の転職・離職の現状をデータから探る
1.特定技能者数増加、その背景には・・・
2023年6月末時点で、特定技能資格を持つ外国人の数は前年同月比で約2倍となり、その数は173,809人に達している。
この増加について、出入国在留管理庁は、新型コロナの影響で減少していた海外からの受け入れが、入国規制の緩和により急増しているとの見解を示している。
確かに増加数からは順調に受け入れが進んでいるように見えるが、この数字の背後には、特定技能の転職・離職の現状が潜んでいる。
2.データから見える特定技能の実態
「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の配布資料を見ると、興味深いデータが明らかになっている。
特定技能外国人の自己都合による離職者数は、制度施行から令和4年11月までの累計で1万9,899人であり、特定技能在留外国人全体における割合は16.1%となっている。分野別では「宿泊」が32.8%、「農業」が20.1%と続く。
一概に日本人と比較することはできないが、国内の一般労働者の平均離職率11.9%(令和4年雇用動向調査)に比べると高い印象だ。おそらく、言語の壁や文化の違い、生活環境の変化など、日本での生活によるストレスも離職の要因となっていることだろう。
次に、自己都合による離職後の状況は、帰国が31.4%、特定技能での転職が30.3%と僅差で続く。転職者の実数は5,852人にのぼり、特定技能在留者の5%弱に相当する。
特定技能の労働者は、各職種の技能試験と日本語能力試験に合格しているか、技能実習生のOBであり、日本の労働環境や待遇に対する期待値が高い。
そのため、想定していたものとのギャップを感じたり、今より好条件の働き口が見つかったりすれば、転職を選択することになる。技能実習生のように、採用された会社で3年間留まることを約束されていないのだ。
3.特定技能の特性にどう対応するか
転職自体は労働者にとって当然の権利ではあるものの、受入企業や登録支援機関にとっては悩ましい問題だ。
愛知県のある登録支援機関は、「肌感覚として、現在はもっと転職率が高くなっていると思います。どの職種も東京や大阪へ移る傾向が強いですね」と話す。
当初から懸念されていた地方から東京・大阪への人材の流動は、やはり顕著になっているようだ。
一方、都内の登録支援機関でも、「都内でも特定技能人材のジョブホップは著しくなっている。好条件の仕事が見つかれば、半年単位で転職を繰り返す人も出てきている」という。
賃金以外の福利厚生の充実を図るなど、人材の定着化へ向けた仕組みを各方面で模索しているそうだ。
特定技能においては、賃金の公平性や、待遇の透明性の確保、地域間の経済格差を縮小するための施策など、まだいくつか課題がありそうだ。
新しい制度設計においては、これらの課題にしっかりと向き合い、地方創生にも寄与する仕組みを構築していただきたいと切に願う。
(※このコラムは、ビル新聞2023年10月23日号掲載「特定技能の転職・離職の現状をデータから探る」Vol.52を加筆転載したものです。)