技能実習における安全衛生管理の現実

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2023年7月24日号掲載「技能実習における安全衛生管理の現実」の話題。

1.技能実習生の労災件数は高止まり

5月下旬に厚生労働省が公表した「令和4年の労働災害発生状況」によれば、 外国人労働者の 死傷者数が増加の一途をたどっている。

労災により4日以上休業した外国人労働者の数は 4,808人にも上り、十年前と比較すると約3倍の記録を示し、 技能実習生に関しては、労災件数が増加傾向であるとともに、千人率(労災件数/千人)は日本人も含めた全労働者全体の平均と比べて1.6倍と突出して高い。

本来、技能実習制度は、成熟した技術や知識を有する日本から発展途上国へ技術移転を行うという意義深い制度だ。

それにも関わらず、現場では技能実習生が過酷な労働環境におかれているという実態がこういった安全衛生面のデータからも浮き彫りになってしまった。

2.安全衛生教育不足が失踪を誘発する

先日、この分野に詳しい中小企業診断士の宮木恵美子氏( 写真)に話を聞いた。

宮木氏は年間200社以上の中小企業の経営者らと面談し、外国人技能実習生・女性・高齢者等の人材確保や労働者の安全・健康を確保した組織活性化の支援、実習実施者の責任者等に義務付けされている法定研修の講師も務めている。

その傍ら、筑波大学大学院で労働分野を研究し、海外の送出機関へ自ら足を運び独自のリサーチで制度分析を行っている専門家でもある。

「労働災害は、技能実習生にとって大きな問題の一つです 。法令で定めがある安全衛生教育の不足が重大な影響を与えていることは間違いありません」と宮木氏。

そして 、この問題は技能実習生の失踪問題とも深く関連しているという。

「安全衛生教育の不足は技能実習生の安全が確保されていないことを示します。安全性がない職場は失踪の動機付けとなり、深刻です」と警鐘を鳴らす。

多くの技能実習生が従事する 製造業・建設業・農業・漁業等は、 そうでなくても 労働災害が起きやすい職種である。

加えて日本語能力の課題もあり、本来は日本人よりもさらに丁寧に安全衛生教育を実施する必要性があるはずだ。

3.世界基準での制度改革を

メディアでは技能実習の問題点として、とかく賃金の未払いや労働時間に関する違反行為がフォーカスされるが、 実は令和3年の実習実施者の労働基準関係法令違反の中で、「安全基準」は、全体の1/4を占めてダントツ一位であることはあまり知られていない事実だ。

そういった現状を踏まえてか、 令和4年の技能実習制度運用要領の改正により、「安全衛生教育」は入国後講習においても必ず実施するよう見直しがなされたが、 実施状況は十分なされているとは言い難いとのことだ。

「労働災害が多い国は、世界からみれば労働者を保護していない国と見なされます」(宮木氏)。

これまでの近視眼的な利益追求が数々の問題を引き起こしてきたことは否めない。

真の労働者を保護する国となるために、世界基準での制度改革が成し遂げられることを切に願う。

 

(※このコラムは、ビル新聞2023年7月24日号掲載「技能実習における安全衛生管理の現実」Vol.50を加筆転載したものです。)