コロナ渦での日本国内の外国人雇用事情

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2021年6月28日号/7月26日号掲載「コロナ渦での日本国内の外国人雇用事情」の話題。

1.新規入国停止による採用への影響

変異株によるパンデミックが広がり、令和3年3月18日からは、ビジネストラック及びレジデンストラックを活用し入国出来ていた国・地域さえも新規入国が停止された。

技能実習生や外国人労働者を当てにしている企業にとっては、入国解禁を切望しつつ、目先の人員をどのように工面するか、窮地が続いている。そんな中、外国人労働者の採用状況に、異変が起きているようだ。

発端は入国停止による人材不足だ。海外から人材を採用出来ないとなると、解決策は国内に留まっている技能実習生や外国人労働者の採用しかない。一方で外国人側も、帰国困難者や解雇者が続出し、身の置き所に苦慮することとなった。

2.特例措置の内容(技能実習生)

そこで日本政府は双方の問題を解決すべく、外国人に対して特例措置を設けた。

令和2年2月28日以降、日本に引き続き留まることが出来るための措置が在留資格別に講じられ、時を追うごとに要件が拡大している。この記事では、技能実習生への措置に注目し解説する。

1つ目は、本国への帰国が困難となった技能実習修了者への措置だ。定められた滞在期間が過ぎても、実習に関連する業務に限り、同一または異なる機関からの内定があれば、6カ月間の実習継続が可能となった。

これにより、受け入れ企業は新たな技能実習生の受け入れが出来ずとも、人材を確保出来るようになった。

2つ目は、コロナウィルスの影響により企業から解雇された技能実習生の救済措置だ。こちらは特定技能の14業種での就労を条件とした企業の内定があれば、最大1年間の就労が可能となった。

ここには帰国困難な技能実習生も含まれている。突然行き場がなくってしまった技能実習生たちも、働きながら特定技能の要件である技能試験に合格し、更に日本語資格N4(技能実習2号修了者は不要)を取得することで、帰国せずとも日本で働き続けることが出来るのだ。

特例措置の詳しい説明は、下記法務省のHPでご参照いただけます。
法務省 「新型コロナウイルス感染症の感染拡大等を受けた技能実習生の在留諸申請の取扱いについて」

特定技能人材を雇用できる企業にとっては、採用の幅が異業種にも広がったことで人材が確保しやすくなるという安堵感に繋がった。

しかし、思惑に反して採用はスムーズに進んでいない。その理由は、国内在留外国人の母数が限られる中、雇用の門戸が広がったことで求人票の数は増し、存在価値が高まった外国人側はより良い条件の仕事を選べるようになったからだ。

企業にとっては「少ないパイを奪い合う」というコロナ前では考えられなかった状況になっている。

最低賃金でも日本の求人というだけで採用出来た時代は終わりを告げ、労働力不足の担い手としてふさわしい対価が求められている。

今後は、同一労働同一賃金を真に目指す企業が選ばれる時代に向かうのではないだろうか。

3.1号技能実習生が日本で就職先を見つけるまで

海外からの新規入国が停止された現在、日本の外国人雇用状況は一変した。

これまで外国人材を当てにしていた企業は、国内在留外国人の採用へ切り替えを進めている。母数が限られる中、外国人求職者にしてみれば、就労先の門戸が広がったかのように思えるが、実際に希望の仕事に就くまでの道のりは決して平坦ではないようだ。

先日、技能実習1号から農業特定技能ビザへ移行し、農業派遣会社への就業を果たしたインドネシア実習生6名に話しを聞く機会を得た。

彼らは、2020年1月に、ソーラーパネル設置を行う1年職種の技能実習生として福島県の施工会社に採用された。わずか1年間という短期間の実習が前提ではあったが、あこがれの日本で働くことへの期待に大きく胸を膨らませての入国だった。「とにかく日本へ行けることがうれしくて、往きの飛行機ではまったく眠れませんでした。」と、6人の中でもリーダー格のマイドさん(写真右端)は、当時を振り返る。

そして、入国後間もなく新型コロナウイルス感染症が世界を席巻したわけだが、これが後に、6人の若者たちにとっては好機となる。

まず帰国困難者として認められたことにより、在留予定が6ヵ月間延長された。さらに条件付きではあるものの、特定技能資格取得のための猶予が1年間与えられるという特例措置の対象者にもなった。「このチャンスを何とか活かしたいと思いました。」とマイドさん。

6人で何度も相談した結果、特定技能資格を取得し、このまま日本に残って転職することを決意。職種は今と同じように太陽の下で働ける「農業」に照準を絞った。それからというもの、仕事が終わった夜の時間は、皆で協力しながら特定技能資格試験の受験勉強、そして転職先探しがルーティンとなった。

メンバーの中で最も日本語が堪能なアルサさん(写真右から2番目)は、主にスマホを使った調査担当。

―「インターネットで調べると、思ってたよりも特定技能の試験勉強法が書いてあったので、とても役に立ちました」―。その甲斐もあり、試験には揃って一発合格することができた。

一方、わずか1年半ほどの日本語能力での転職先探しは、かなり苦戦したそうだ。具体的な求人内容を理解し、勤務地や給与面などの諸条件を判断することが難しく、監理団体や勤め先の社員の協力を得ながら検討した。面接の練習も繰り返し、ついに全員が農業派遣会社での内定にこぎつけたのだった。

―「これから日本語もっとがんばります」―と謙虚でありながらも、自分たちの力で希望の仕事を掴みとった彼らは誇らしげだ。

既に6月から、5人は長野県、1人は群馬県の農園で存分に働いている。このパンデミックがもたらした彼らのジャパニーズ・ドリームは、今新たな一歩を踏み出した。

(※このコラムは、ビル新聞2021年6月28日/7月26日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.29/30を加筆転載したものです。)