介護技能実習生の受入れ事例 医療法人民善会(群馬県高崎)

コラム
COLUMN

介護施設で活躍する技能実習生

今回は高崎にある株式会社ホソヤ様の運営する介護施設への介護技能実習生の受入れ事例をご紹介します。 2025年度には34万人もの介護人材が不足すると言われる中で、2017年11月に技能実習生の対象職種に介護が追加されましたが、まだ国内での受入れ情報が少ない中、「尚久デイサービスセンター富岡中央」で実習中の王 愛紅さん(45)へインタビューさせていただく機会をいただきました。

1. 施設の概要と介護実習生の受入れまで

群馬県高崎市で事業展開している株式会社ホソヤ様は、4つの介護施設を運営しており、外国人技能実習生の受入れ前にも、多数の国からアルバイトスタッフの学生を採用していました。しかし、アルバイト勤務の場合、労働時間等の制限があるため、シフト管理が難しいと悩まされていました。

外国人技能実習制度を利用することで、同じ外国人でもアルバイトスタッフとは異なり、専門知識を持ち、且つ技術を身につけようと意欲のある人材を受入れることができることを知り、技能実習生の受入れを決断したそうです。2019年3月より、「尚久デイサービスセンター、尚久デイサービスセンター富岡中央、尚久デイサービスかんら、アットホーム尚久玉村」の各施設で、計10名の技能実習生を受入れることになりました。

実際は、外国人技能実習生を受入れる前は、肯定的な意見だけではなく、いくらアルバイトスタッフの外国人を雇用した経験があっても、施設スタッフの中で「意思疎通が上手くできるかしら?」「記録をしっかりつけられるか不安…」といった声が出ていたそうです。

日本語の理解力は外国人を雇用する上でもっとも課題となります。
入国前に日本語の勉強をしてきてとしても、方言やイントネーションに慣れるまでには時間を要します。今回、中国の実習生を選んだ理由は、介護職ではコミュニケーションも重要ですが、それと同じくらい記録作業も重要となるため、漢字圏である中国の方で、尚且つレベルの高い日本語教育を行っている送出機関を選んだそうです。

2. 技能実習(介護)の概要

冒頭でも触れた通り、日本の介護現場は人材が枯渇している状況です。しかし、外国人が日本へ来て、いきなり介護をすることが出来るのか?という疑問は、誰もが抱く想いかと思います。技能実習(介護)は、介護人材の確保を目的とするのではなく、技能実習生の趣旨である技術移転を目的として追加されました。
技能実習制度全体の要件に加えて、介護技能実習生は受入施設側や入居者の方たちに対して、問題なく受入れてもらえるよう、以下の要件を満たす必要があります。

※外国人技能実習制度の概要については、こちらをご参照ください。

2-1 介護職の固有要件

資料1

※「必要なコミュニケーション能力の確保」に記載してある、”2年目は「N3」程度が要件”については、当初は技能実習2年目に移行する際に、N3程度に到達していなければ帰国しなければいけないというルールでした。

しかし、この要件があることで、受入れ側のハードルが高くなり、円滑な受入れの妨げになるとともに、実習生のリスクに配慮する必要があると厚生労働省は再考し、N4レベルでも3年間の技能実習が行えるよう要件が緩和されました。

※入国時には、必ず介護の基礎的な事項や専門用語を学びます。
介護職種に関しては、日本語科目について240時間以上(N3取得者の場合は80時間以上)、介護導入講習について 42時間以上の講義を行う必要があります。
(入国前講習において、各科目について所定の時間数の2分の1以上の時間数の講義を行った場合には、入国後講習において2分の1を上限として各科目の時間数を短縮できます。)

※技能実習生5名に対し、1名以上の介護福祉士の方が指導する必要があります。
※技能実習生の人権擁護、適切な在留管理のために訪問系サービスは対象外です。

2-2 対象施設

資料2

※経営が一定程度安定していることが条件のため「原則、設立後3年が経過している機関に限定」されています。

資料1・2 出典元:厚生労働省「技能実習「介護」における固有要件について
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000182392.pdf

3. 技能実習の様子

実習の様子を見学しようと「尚久デイサービスセンター富岡中央」に到着した時、調度、実習生の王さんが入口で入居者の方を車いすに乗せ、車へ移動するところに遭遇しました。王さんは真剣な眼差しで、少し体に力が入っているように感じましたが、施設の日本人スタッフとともに、入居者の方をスムーズに車へ移動させ、笑顔で見送っていました。

王さんは、中国の介護施設で約5年間働いていた経験があります。
元々、日本に対して好印象を抱いていたこともあり、中国での介護経験を技能実習生として活かせることを知り、日本への実習を決意したそうです。

王さんは、日本語能力試験を受けN3レベルを取得して入国しました。しかし、「自分の日本語レベルがまだまだで意思疎通が不十分」と感じていて、現在も実習が終わってから「みんなの日本語」アプリを使って、毎日30分を目安に日本語の勉強を頑張って続けています。

現在、施設での3カ月の実習期間が経ちましたが、王さんはどのように感じているのでしょうか?
「中国の施設では、すべての事をやってあげていました。今実習を行っている施設は、出来るだけ入居者自身が自分でやるようにしてあげないといけないので、そこの違いに少し戸惑っています。」
※要介護施設と自立支援介護施設の違いがあります。

中国の介護理念と日本の介護理念は異なり、「介護=あらゆることをお世話する」というのが中国での介護理念だそうです。日本では入居者の介護レベル等によって、介護の体制を変えていることにとまどいながらも、力強い眼差しで「まずは日本語をしっかり習得し、日本式の介護を習得したい」と、これからの実習への強い意志を伝えてくれました。

日本ではどうしても介護へのイメージが暗くなりがちですが、王さんは「日本で自分の好きな仕事ができること、日本人の介護ができることがとても嬉しい」と素敵な笑顔で答えてくれました。
技能実習を3年間終えた後は「日本で得た専門知識と経験を中国へ持ち帰り、中国で介護が必要な人のために、自分の力を少しでも発揮していきたい。」と、日本で学んだ経験を中国で最大限に活かそうと考えているそうです。外国人技能実習制度の趣旨である技術移転が、介護を必要とする人口割合が増える中国にとって、同じように必要とされていることがわかりました。

4. 受入施設担当者からのコメント

中国の介護技能実習生を受入れてから、受入施設側でどのような反応があったかを介護技能実習生の指導員を担当している黒澤さんに聞いてみました。「実習生達は、いつも明るく、進んで仕事を行う姿勢や分からない事はしっかりとメモを取り、帰宅後に復習している姿を見て、予想以上のやる気と学習能力の高さにとても満足しています。また、積極的で礼儀正しく笑顔で対応している実習生は、レクリエーション等も利用者の方々と一緒になって楽しんでいます。これに対し、日本人スタッフも影響を受け、仕事へのやる気が向上し、良い相乗効果を生んでいます。」

まとめ

王さんのように、日本が好きで介護の仕事が好きな外国人の方が増えることにより、日本の介護業界における人材不足が解消され、さらには市場の活性化にもつながるのではないでしょうか。受入施設担当者の方に、受入れる際に気をつけるポイントを伺ったところ、「実習生導入の際には「日本語力の他に、日本でのルールや礼儀についても理解がある学生を選ぶことで、入国後スムーズに実習を進める事が出来る」とおっしゃっていました。また、受入施設側の体制としては、「外国人技能実習制度への十分な理解が必要」と実感されているようです。この外国人技能実習制度を正しく使用し、日本へ来る実習生が「日本へ実習に行ってよかった!」と言ってもらえるようなエピソードが増えて欲しいです。