変容するカンボジア人材市場

コラム
COLUMN
「外国人 人材活用リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2025年2月24日号掲載「変容するカンボジア人材市場」の話題。

1.期待の時代から一変、カンボジアの現場事情

2023年春に本コラムで取り上げた当時、カンボジアは技能実習生送り出し国として注目を集め、ベトナムの代替として期待が高まっていた。

しかし、それから二年近く経過した現在、状況は大きく様変わりしている。カンボジア人材の送出機関3TS社で日本部門を担当する中井和彦氏に、現地の最新事情を聞いた。

「給与や待遇面で条件がよくない求人では、募集人員が3名程度であっても候補者がなかなか集まらず、二~三ヶ月かけてようやく面接を実施できたという案件も出てきています」と中井氏は語る。

わずか二年前には、豊富な人材に期待する監理団体の視察が相次ぎ、一日で三組の見学案内をこなすほどの活況を呈していたが、今や様相は一変した。

2.様々な要因による影響が浮き彫りに・・・

その最大の要因は、円安による給与面での競合国との格差拡大だ。

例えば、建設職種の場合、韓国では手取りで1,500ドル(約22万円)が得られるのに対し、日本での手取りは1,000ドル(約15万円)前後の案件がほとんどだ。
新たな競合として隣国タイの台頭も目立ち、給与こそ700ドル程度だが、地理的な近さから若者たちの関心を集めている。

政策面での変化も顕著だ。
カンボジア労働省の新体制は韓国寄りの政策を打ち出し、韓国関連の情報は積極的に発信される一方で、日本についてのそれは停滞するばかりだという。

さらに、技能実習生の送り出しに関する規制が年々厳格化され、初期費用は1,000ドルまで、総額でも5,000ドルを上限とする規定も設けられた。

これにより送出機関の収益性は大きく低下することとなった。元々日本への送り出しには煩雑な手続きと多大な手間暇を要する。

他方、韓国の労働許可制度(EPS)は手続きが極めてシンプルで経済的負担も少なく、「第一希望は韓国、滑り止めで日本という選択が主流になりつつあります」と中井氏は指摘する。

3.仕組み作りがカギとなる!今一度、受入れ体制の見直しを。

ただし、この状況を打開する可能性も見えている。
中井氏は、受入れ企業の待遇改善と人材育成の仕組みを見直すことで、状況は変わり得ると提言する。

その核となるのが、職場リーダーの育成だ。
新しく始まる育成就労制度では、人材の定着がカギとなる。

そこで、実習生として就業したカンボジア人材に、特定技能への移行を促し、職場のリーダーとして経験を積ませる。そのリーダーの下で育成就労制度の人材を就業させることにより、安定的な人材確保の仕組みが構築できるのではないかという。

日本の受入れ体制は大きな転換期を迎えている。
日本社会においても、送り出し国の若者にとっても、価値のある変革となることが期待されている。

現場の声を生かした包括的な取り組みによって、カンボジアの若者たちが再び日本を目指す日がおとずれることを願ってやまない。

(※このコラムは、ビル新聞2025年2月24日号掲載「変容するカンボジア人材市場」Vol.62を加筆転載したものです。)