外食業を救う『食の侍』育成論
1.日本が誇る食文化。人材不足による影響は…?
日本を訪れる外国人観光客の目的のひとつに「食」がある。
日本の食文化が高く評価されることは誇りであるが、一方で飲食業界はかつてない苦境に立たされている。帝国データバンクの調査によれば、2024年7月時点で67.5%もの飲食店が非正社員不足に悩んでいるという。
コロナ禍で縮んでしまった現場に、インバウンド需要が急増したため供給が追い付かない状況だ。これを打破する力として期待されているのが外国人材だ。
実際、2024年5月時点で特定技能「外食業」の在留者数は約1万9千人に達し、今後も増加が見込まれている。しかし、ただ労働力を補うという労使関係では、日本の外食業のこれからを切り拓くことはできない。
外食業では、日本の文化や習慣、そして「おもてなし」の精神を体現しながら、最高のサービスを提供することが求められる。
お客様に満足してもらうためのノウハウを、丁寧な教育とサポートによって外国人材に浸透させる必要がある。
2.技術継承のみならず、日本の伝統・精神性の継承を目指す
そこで注目したいのが愛知県大府市にある「12バン協同組合」の取り組みだ。これまで建設業を中心に外国人材の育成、支援を行ってきた同組合が、新たに外食業というフィールドに挑んでいる。
代表理事の井村亮太氏は、自らも現役の料理人であり、日本食店を経営する実業家だ。
その経験を活かし、外国人材を単なる労働力ではなく、日本の外食文化を担う「食の侍」として育成することを目指している。同組合では、日本語教育やマナー研修に加え、海外の送出機関との連携を強化する新たな試みを進めている。
例えば、送出機関に日本食レストランを開業してもらい、外国人材が入国前に実践的なトレーニングを積むスキームを模索中だ。調理人材であれば「包丁の研ぎ方」や「出汁の取り方」といった基本技術を習得し、即戦力としての能力を備えることを目指している。
中でも特筆すべきは「ベトナム人蕎麦職人育成プロジェクト」だ。
蕎麦打ちの技術はもとより、蕎麦の歴史や文化、さらには日本人の精神性までも伝えることで、モチベーション向上と日本文化への深い理解を促している。
3.外国人材と共に歩む、日本の外食業のカタチ
このような育成過程を経た外国人材が、日本で磨いた技術を活かし、帰国後、人気の日本食レストランを運営し高収入を得る道も開かれている。
他にも外国人材のキャリアパス支援や生活面でのサポートなど、定着率向上に向けた幅広い取り組みを展開している。
2023年秋に特定技能2号が外食業にも適用され、長期就労や家族帯同が可能になった。
井村氏は、「外国人材は日本の外食業を救う貴重な存在。彼らが安心して働き、能力を最大限に発揮できる環境をつくることが私たちの使命だ」と語る。
この取り組みが日本の外食業の未来を支え、外国人材との真の共存共栄へとつながることを期待したい。
(※このコラムは、ビル新聞2025年1月16日号掲載「外食業を救う『食の侍』育成論」Vol.61を加筆転載したものです。)