クラークから羽ばたく送出機関「JP21」(フィリピン編)

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2019年6月24日/7月8日号掲載「フィリピン送出機関」話題。
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フィリピンの首都マニラから北西へ車で3時間ほどに位置するパンパンガ州アンヘレス市を初めて訪れた。
かつてはアメリカ軍のクラーク空軍基地があり、その関連産業で栄えていたが、今では『クラーク経済特別区』として、各種産業の誘致に積極的である。
年配の方であれば、第二次世界大戦当時大日本帝国海軍が占領し、神風特攻隊が最初に飛び立った地としてご存じの方も多いだろう。政府移転、新空港、高速鉄道の建設など、総額140億ドル(約1兆5千億円)の超巨大プロジェクトが進行中の注目エリアだ。



そんな転換期真っ只中のアンへレスで、外国人技能実習送出機関を立ち上げたサイトウ マリア エングラシアさんに出会った。
サイトウさんと日本との関わりは、大手企業向けのビジネス英会話の教師にはじまり、横浜のレストラン経営など20年にも及ぶ。
日本語が堪能なだけではなく、日本の文化や習慣も熟知している聡明な女性だ。
日本人の思想や仕事に対する姿勢は、サイトウさんにとっていつも大きな学びがあるという。


そして、ここ数年は、主にフィリピン国内で女性の自立支援活動に精力的に携わっている。フィリピン経済は出稼ぎ労働者からの送金が国内総生産(GDP)の1割近くに上るなど、約1,000万人の出稼ぎ労働者に支えられているといわれている。
一方国内においては、女性が定職について経済的に自立することは難しい。
フィリピンでは企業は従業員を半年間雇用すると、正社員として雇わなければならない法律がある。一旦正社員になると労働者優位の解雇規制がかかることから、解雇が難しくなる。雇用者はそれを回避するために、半年毎にパート雇用と解雇を繰り返すという悪習があるようだ。
その結果、特に女性の単純労働者は、ジョブホップを余儀なくされ、安定的な収入を得ることができないという側面がある。フィリピンは出生率が高く、子供を何人も抱えるシングルマザー率が高いことでも有名だが、そのような女性たちの貧窮が、フィリピン国内の犯罪や治安に影響を与えているかもしれないと、サイトウさんは憂慮する。
このような状況を打破しようと、女性の経済的な自立の道筋づくりとして、外国人技能実習送出機関『JP21』の設立に至ったのだ。
フィリピンの送出機関「JP21」の詳しい情報はこちら>

「実習生として日本へ渡り、日本語と確かな仕事の技術を習得することで、帰国後も、安定的な職につくことができるはず」

「フィリピン人のためだけではなく、お世話になった日本のために何か恩返しがしたい」

とサイトウさんは意気込む。
社名の由来は、日本(J)とフィリピン(P)の21世紀の未来へ向けてという願いを込めてのものだそうだ。


サイトウさんのもとには、既に日本に限らず様々な国からの引き合いが来ているという。
アメリカ、ドイツ、中東諸国、中国、台湾・・・。
日本人の立場としては、フィリピンから日本へ右肩上がりで人材が来続けてくれるような勝手な思い込みを抱きがちであるが、現実は決してそうではない。
確かに直近の数値をみると、日本に在留する外国人263万人のうち、10%以上がフィリピン人だ。外国人技能実習生送出し国としても、ベトナム、中国に続く第3位と、一見親日度は揺るぎないようにうつるが、フィリピン国内では確実に変化が起きているという。
例えば「介護職種」の実習生として日本へ入国するには、日本語能力試験N4の取得、同等業務従事経験などさまざまな要件を求められる。そのため出国までの学習期間が長くなるのだが、一方日本での給与は決して高いわけではなく、しかも楽な仕事ではない。
それに対して台湾では、語学力や介護技術は問われない。転職や家族帯同が可能で、最長12年の在留許可が認められるなど、メリットが大きい。
フィリピン人にとって、日本はさほど魅力的な国ではなくなってきているのかもしれない。こうして台湾に限らず、世界規模でのフィリピン人材争奪戦が始まりつつある。
しかし、サイトウさんは、そんな各国からのオファーを丁重にお断りしていると言う。
軸足はあくまで日本への送り出し、とぶれがない。
そしてサイトウさんが目下注力しているのが、妹のノネットさんが構想する教育機関「TERAKOTYA(寺小屋)」との連携だ。
ノネットさんは、向こう3年間でフィリピン全土に100箇所の小規模な地域密着型日本語学校の開設を目指している。
実習候補生は、まず地方にある自宅から通える「TERAKOTYA」分校で日本語の基礎学習を行い、N5レベルを目指す。
順次、提携先の監理団体から斡旋される企業の面接に臨み、合格した段階で卒業。その後はクラークの本校へ転入し、約4ヶ月間合宿方式でみっちりと実践的なトレーニングを行い、N4取得を図るというスキームだ。

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そして彼女たちは「ビルクリーニング職種」に注目している。
日本のビルクリーニング技術は高く、メンテナンス手法から道具の管理、細部にわたる清掃品質など、学ぶべきことが沢山あると言う。まさにこれからのフィリピンの経済発展に欠かせない分野だ。そして、何より女性が活躍できる場でもある。

「フィリピンの女性達が日本の建物を輝かせるなんて素敵じゃないですか!」

すでに本校ではビルクリーニング専用の訓練室も整い、準備は万全。
クラークから日本へ向けて、フィリピン人女性が羽ばたく日も近い。

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(※このコラムは、ビル新聞2019年6月24日/7月8日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.6/7を加筆転載したものです。)

この記事を書いたライター
川口 環

中央大学卒業後、TOTO株式会社を経てWebマーケティング会社 株式会社ジェイティップスを設立。約20年間多数の大手企業Webマーケティングに関与し、グロースハックさせる。昨今は、外国人技能実習の無料相談ポータルサイト「外国人技能実習360°」運営責任者として、海外送出機関のリサーチと受入企業の相談にあたっている。年間20回以上海外出張し、約150日間を東南アジア各国で活動する。