スリランカからの新風:パールベイの挑戦

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2024年8月26日号掲載「スリランカからの新風:パールベイの挑戦」の話題。

1.国を挙げた就労支援、活路は日本国

2027年の「育成就労」制度施行に向け、日本国内の環境整備が進んでいる。
一方で、送り出し国はそれぞれ情勢に変化が生じている。中でもスリランカの国を挙げての就労支援は注目株だ。

「インド洋の真珠」と称されるスリランカは、約2,200万の人口を抱え、農業や観光業を主要産業とし、多様な自然と豊かな歴史文化が調和する美しい島国だ。

しかし、2022年の経済破綻により、多くの国民が深刻な生活危機に直面し、海外への出稼ぎを希望するようになった。この流れを受け、2023年6月末時点での日本在留スリランカ人は約4万1千人と、前年末比9.8%増を記録。在留外国人の国別ランキングでも14位に浮上した。

この背景には、ウィクラマシンハ大統領が掲げた「5年間で34.5万人の労働者を日本へ」という壮大な目標が後押しとなっている。スリランカ政府は、義務教育課程への日本語科目導入を検討するなど日本への人材派遣に力を入れており、その成果は、日本語能力試験(JLPT)の受験者数にも表れている。

直近の7月試験では1万人を超え、国別ランキングで9位に入るほど、日本語学習熱の高まりが顕著である。

しかし、この潮流には課題も存在する。
スリランカ国内の日本語学校や送出機関の中には詐欺まがいの粗悪な事業者もあり、高額な費用を支払っても日本行きが叶わないケースが後を絶たず、社会問題となっている。

2.パールベイの”新たな取組み” 支援体制の強化

この課題解決に取り組んでいるのが、新たに日本語学校「パールベイ」を開校したチャトラ・マシンハさんだ。チャトラさんは、スリランカ経済復興のためには、将来有望な若者たちを一日も早く日本をはじめとする先進国へ派遣し、外貨を稼ぎつつ新しい技術や考え方を持ち帰らせることが重要であると考えている。

そのためにはスリランカ人同士で搾取し合うのではなく、海外就業を強力に後押しする仕組み作りが急務であると力説する。

パールベイでは、他の日本語学校や送出機関のような高額な費用は取らず、経済的な負担を軽減することで渡航のハードルを下げている。さらに、優良にカリキュラムを修了し、特定技能試験に合格したにもかかわらず日本で働くことができなかった場合には、学費を返金するなどの保障も導入した。

こうしたこれまでにない様々な処遇改善が話題を呼び、優秀な人材の募集につながっているという。

3.スリランカ就労支援の未来は…

日本の新しい制度のはじまりは、送り出し国においてもイノベーションを起こしているようだ。

インド洋に浮かぶ小さな島国で生まれた変革の波が、やがて大きなうねりとなり、スリランカと日本国内のみならず、世界へと広がっていくかもしれない。

正鵠を射た就労支援はモデルケースとなり得るだろう。
我々はこのスリランカからの風を確実に受け止めていく使命を担っている。

 

(※このコラムは、ビル新聞2024年8月26日号掲載「スリランカからの新風:パールベイの挑戦」Vol.56を加筆転載したものです。)