コロナ禍のフィリピン人材事情

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2021年01月25日号/2月15日号掲載「コロナ禍のフィリピン人材事情」の話題。
OneWorld教室

1.2回目の「緊急事態宣言」で、再び入国制限

年末から国内の新型コロナ感染は急拡大し、政府は1月7日に首都圏の1都3県に対して、13日にはさらに地方へ対象を広げた7府県を加え、2回目の緊急事態宣言を発令するにいたった。
一方、海外との往来についても、当初は継続が決定していた入国緩和策が、二転三転のすえ停止となった。中韓やベトナムなど11ヵ国・地域を対象に、ビジネス関係者などの新規入国を制限しない政策には、経済への影響を重視する菅義偉首相の強い意向があったとされる。しかし、変異型ウイルスの出現等により、全面的に遮断することとなった。

多くの人々がマスク姿で手を合わせて、コロナ収束を祈った2021年の始まりは、まさに波乱の幕開けとなってしまった。

2.コロナ禍のフィリピン状況

マニラ中心地


これまで当コラムにおいて、コロナ禍におけるベトナム、インドネシアの人材ビジネス事情について取り上げたが、今回から二回にわたり、フィリピンに注目する。日本へやってくる技能実習生の送り出し国第3位のフィリピンは、コロナ感染者数累計約49万人(1月11日時点)と、インドネシアと共にアセアン加盟10ヶ国の中ではワースト国としてあげられる。

しかしながら、インドネシアが依然右肩上がりの感染者数で、下げ止まりの気配がみえないのに対して、フィリピンは昨年夏以降、減少傾向を示している。回復者数を差し引けば、感染者は約3万6千人となり、現在の日本より抑え込みに成果を上げているといっても良いほどだ。
フィリピンのコロナ対策の特徴は、ロックダウン(都市封鎖)をはじめとした厳格な行動制限にある。

昨年の1回目のロックダウンは、3月中旬から5月まで行われたが、その後もマニラとその周辺の州を中心に、公共交通機関の停止や学校閉鎖等の規制が続き、世界最長のロックダウン国と言われている。
警戒レベルは4段階に分けられ、エリア毎に設定される。最も高いレベル「強化されたコミュニティ隔離措置」においては、「外出は週2日のみ」、「タクシー・ジプニー利用不可」、「夜間外出禁止」等、欧米並みに厳しく統制されている。その背景には、他国に比べて医療体制が脆弱であることや、多くの貧困層が、病気でも病院へ行くことができないという事情があるようだ。半面、その代償として、経済に与える打撃は甚大で、4月~6月期のGDPはマイナス16.5%と、1981年以来最悪の数値となった。雇用情勢も落ち込み、街には失業者が溢れ、治安も悪化している。

海外への出国にも大きく制限がかけられていることから、技能実習生、特定技能人材へのインパクトも大きい。

3.日本語学校は、未だオンライン授業のみ

OneWorld教室

 

フィリピン国内の日本語学校においては、未だ対面型の授業が禁止され、10ヵ月以上教室から生徒の姿が消えたままだ。実質的に休業状態を余儀なくされ、廃業に追い込まれた事業者も少なくないようだ。2月に入ってもフィリピンの日本語学校は対面での授業が禁止されたままで、オンラインによる遠隔授業しか認められていない。

日本行きを希望する実習生については、11月~12月にかけてようやく一定数の入国にこぎ着けたものの、年明けからは再度の入国制限措置により、また門戸を閉ざされてしまった。長引くコロナ禍でますます冷え込む経済の下、多くの実習生たちが生活に困窮しながら自宅待機を余儀なくされている状態だ。

4.コロナ逆境を跳ね返す「ONE World Japanese Language Center」

OneWorldスタッフ

マニラで日本語学校「ONE World Japanese Language Center」を運営している中津晃一さん【写真左端】によれば、実習生周辺事業を営む企業の経営状況はひっ迫しており、事業縮小や廃業に追い込まれる事業者も少なくないという。

まず、フィリピンの実習生送り出しのシステムは、他の東南アジア各国とでは様々な違いがある。
例えば、送出機関が担うエージェント機能と、日本語学校の行う教育機能が、明確に分離されており、それぞれ国が定めた厳格なルールの下に運営されている。
特に日本語学校は、共和国法の法令によってTESDA(テスダ)と呼ばれる組織の認可を受ける必要がある。これはスキルアップと雇用促進を目的としたもので、教育プログラムを審査する。

一方、実習生の授業料は無料で、実質的には日本の採用企業がそれを負担する仕組みだ。
他国とは異なるこの支払いの構造により、実習生は多額の借金を背負うことなく日本を目指すことが出来るのだ。しかし裏を返すと、実習生が採用されて出国しない限りは、日本語学校の収益はゼロということになる。

ONE Worldもコロナの影響は甚大で、一昨年末に新たに開校したダスマリニャス校を、6月に閉校する決断をした。
先行きが見通せない中、「撤退」の二文字が頭をよぎったこともあったそうだ。だが日本の企業からの熱い採用オファーや、スタッフたちの折れない心が力強い支えとなった。

もともと、社会的責任を果たすことをテーマとして臨んだこの事業。
今できることを精一杯やることで、必ず道は開けると思い直した。

その後も無収入のまま生徒を受け入れ、試行錯誤を重ねながら独自のオンライン授業を継続してきた。対面授業に比べ日本語習熟度が下がることを懸念したものの、結果は以前よりも好成績で、12月のNATテストではN4合格率91%と過去最高値をマークした。並行して職業訓練校とのネットワーク強化にも注力し、介護、飲食、ビルクリーニングと、対応できる職種の間口が広がったという。

「コロナで良かったことなんて何も無い。でも様々なことを考えるキッカケをくれたことは確か」

と中津さん。
逆境を跳ね返す気概あふれるフィリピンから、また弾けるような笑顔の若者たちが日本へ降り立つ日を待ちたい。

(※このコラムは、ビル新聞2021年1月25日/2 月15日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.25/26を加筆転載したものです。)