コロナ禍の“特定技能人材”採用事情

コラム
COLUMN
「外国人技能実習リアルタイム24時」 ー東南アジア各国からの現地報告ー ビル新聞2020年11月23日号/12月14日号掲載「コロナ禍の“特定技能人材”採用事情」の話題。

1.注目される「留学生」から「特定技能」への移行

10月より入国規制が徐々に緩和され、技能実習主力国であるタイ、ベトナム、ミャンマー、カンボジアなどからの入国も再開された。しかし、一日あたりの外国人入国枠が1,000人程度に抑えられているためか、実習生の入国者数は、目立って伸びてはいないようだ。レジデンストラックも監理団体や受入企業にとっては負担となり、円滑に進まない理由のひとつとなっていると言える。コロナ禍前の状況に戻るのは、相当先になるのではないだろうか。

一方、想定外の事態となっているのは「特定技能人材」でも同様である。出入国管理庁の6月末発表によれば、特定技能在留資格外国人の数は5,950名で、2023年末までの目標とされている約35万人に対して、進捗率は未だ2%を切っている状況だ。
特定技能人材として日本で就業するための手段は二つある。
ひとつは、対象となる14職種ごとに求められる日本語能力と技能評価の試験に合格する方法。
もう一つは、3年以上の実習経験を積んだ技能実習生が、試験免除で同一職種の特定技能労働者として5年間の在留が許可される道である。
前者の試験は、二国間協定を締結しているベトナム、フィリピン、インドネシア等の9か国と日本国内で実施されるものだが、コロナ禍により海外での試験が予定通りに進んでいないのだ。

そこで現在期待されているのが、日本国内での受験が可能な在留中の留学生や、特定活動ビザ取得者の移行である。

レジデンストラックについてのコラムはこちら>

2.留学生として来日したスリランカ国籍のパムさん

スリランカ人のシルワト パティランナハラゲ パムディカ サチンタナさん(26歳)も、そういった特定技能人材候補の一人だ【写真】。
この通称パムさんは、スリランカの首都コロンボの北東にあるガンパハの出身。日本語が堪能で、敬語も流暢に使いこなす好青年だ。パムさんは、子供の頃から日本への憧れが強かった。そのきっかけは「日本の自動車」だ。スリランカにおける日本車のシェアは70%以上であり、町には多くのトヨタ車が走り回る。最近ではハイブリッドカーも注目を集めているという。「日本の自動車はとても性能が良くて、安全で安心です」とパムさん。
そして念願が叶って”安全な国日本”へ留学生として入国した。

法務省の在留外国人統計によると、在留登録されているスリランカ人は27,367人で、南アジア諸国の中ではネパール、インドに次ぐ規模となっている。
ただ、特定技能は僅か5名と実績は少なく、実習生も700名程度に留まっており、外国人材においてはまだマイナー国である。(2019年12月時点)

勤勉なパムさんは、来日以来日本語学校を殆ど休まず、飲食業のアルバイトをしながら、日本語習得に没頭した。
そして、誰よりも日本語が上手なスリランカ人として、知り合った日本人の間で話題となっていった。居酒屋のホールスタッフとしての仕事は、決して楽なものではなかったが、お客さんとの会話から新しい日本語のフレーズを覚えることが、とにかく楽しくて、まったく苦に感じることはなかったそうだ。その甲斐あって、日本語はめきめきと上達し、多くの日本人の友人にも恵まれた。
そんな通称パムさんは、入国して一年が過ぎた頃に、もっと本格的に仕事をし、長く日本で生活したいと考えるようなった。
そして、かねてからの夢だった自動車整備に関わる仕事に就くため、留学ビザから就労ビザへの移行を試みた。しかし、ほどなくして、パムさんの就労ビザの取得が容易でないことがわかり、その道は閉ざされてしまう。

3.「特定技能」即戦力人材として期待される「留学生」

外国人の就業やビザ取得に詳しい人材コンサルティング会社、株式会社dialog 代表の久保田誠さん【写真右端】によれば、東南アジアの留学生においては、就労ビザ取得を目指して、まずは留学ビザで来日するものの、目的を達成できないまま帰国せざるを得ないケースが散見されるという。
特にスリランカの場合、現地の大学を卒業しても、日本での就労ビザ取得要件のひとつとなる専門学位が認められていない大学が数多くあるそうだ。
パムさんは、まさにそのケースであり、一旦帰国をして、日本で認められる機械系の大学をあらためて卒業するか、技能実習生や特定技能など、別のビザを取得する必要があるということだ。

こういったことは、留学生活が始まった後になってから判明する場合が多く、それが、優秀な外国人の日本定着の妨げになっていたり、結果的に不法就労を誘発したりしているのではないか、と久保田さんは懸念する。
そして、留学支援会社や日本語学校は、留学希望者に対して、事前にしっかりとカウンセリングし、情報提供を行った上で、責任を持った受入れをすることが重要だと続ける。一時は落ち込んだパムさんだったが、現在、dialog社のフォローを受けながら、特定技能人材として「飲食業」への就職を目指しているそうだ。

元々日本語能力が高く、飲食店の厨房やホールでの豊富なアルバイト経験があったパムさんは、特定技能「飲食業」の技能評価試験に見事一発合格。これで就職先が決まれば、晴れて日本に在留し続けることが可能となる。
久保田さんは、コロナ禍により海外との往来が滞っている今、パムさんのように即戦力として、留学生から特定技能人材へ移行する外国人は、貴重な人材だという。
これから採用面接が始まるパムさん。第2の夢となった飲食店スタッフとして、きっと永く日本へ居続けてくれることだろう。

(※このコラムは、ビル新聞2020年11月23日/12月14日号掲載「リアルタイム外国人技能実習24時」Vol.23/24を加筆転載したものです。)