特定技能制度

木材産業

技術継承とグローバル化を両立

住宅、家具、紙など、私たちの生活に欠かせない多様な製品の原材料となる木材を供給する木材産業は、森林資源の有効活用、地域経済の振興、そして炭素貯蔵による地球温暖化防止にも貢献する重要な産業です。

しかし、この分野もまた、就業者の高齢化や若年層の入職者減少により、労働力確保が大きな課題となっています。

特に「特定技能」制度は、即戦力となる外国人材を安定的に受け入れるための重要な選択肢です。
木材産業分野では特定技能1号が認められており、専門的な木材加工技術や機械操作技能を持つ外国人材の受け入れを通じて、日本の木材産業の持続的な発展と国産材利用の拡大に貢献することが期待されています。

本ガイドでは、特定技能制度を活用して外国人材を受け入れる際に、木材産業事業者が押さえておくべき最新情報と具体的なステップを分かりやすく解説します。

1. 受入れ可能な業務区分

木材産業分野は、現在、特定技能1号の在留資格のみが認められています。

現時点では特定技能2号への移行は認められておりませんが、制度運用状況により今後対象に追加される可能性があります。

特定技能1号

業務内容主な作業例作業内容例
木材・木製品の製造・加工(家具や建具などの装備品を除く)主要業務製材、単板(ベニヤ)製造、木材チップ・木質ペレット製造、合板製造、集成材製造、プレカット加工、銘木製造、床板製造
関連業務原材料の調達・受入れ、製品の検査、出荷作業(運搬・梱包・積込み)、作業場所の清掃

ポイント

上記の主な作業に付随する関連業務(機械の日常点検・簡単な整備、作業場の清掃・整理整頓、安全衛生管理など)も含まれます。各事業者の実際の業務内容に応じて、適切な業務区分を選択することが重要です。

2. 就業可能な場所

特定技能「木材産業」の在留資格で働くことができるのは、木材を加工・製造する一部の業種に限られます。

働ける場所

業種説明
製材業、木製品製造業木材を切断したり、乾燥させたり、加工する(一般製材業、単板製造業、木材チップ製造業、その他の特殊製材業など)
合板製造業薄い板状の木材を複数枚重ねて接着し、板状にした合板を製造する(LVL(単板積層材)を含む)
集成材製造業小さな木材を接着剤で接合して、大きな寸法の建築用材を製造する
建築用木製組立材料製造業建築物の骨組みや壁、床などに使用する、あらかじめ工場で加工された木製部品を製造する
銘木製造業美しい木目を持つ銘木を加工し、内装材や家具などに使用する材料を製造する
床板製造業床材として使用する板を製造する
出典:「木材産業における特定技能外国人の受入れに関するQ&A

働けない場所

業種説明
木製家具製造業木材を使用して家具を製造する
木製建具製造業木材を使用してドアや窓枠などの建具を製造する
パレット製造業輸送や保管に使用する木製パレットを製造する
出典:「木材産業における特定技能外国人の受入れに関するQ&A

特定技能「木材産業」の在留資格では、木材を加工・製造する一部の業種で働くことができます。

家具製造や建具製造など最終製品を製造する業種は含まれていませんが、事業の一部で対象業種を行っている場合は、特定技能外国人材を受け入れることができる可能性があります。

3. 受入事業者に求められる条件

外国人材を特定技能として受け入れる木材産業事業者には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。

基礎的な条件

チェック項目審査ポイント
木材産業事業者としての実態製材業、合板製造業、木材チップ製造業、木製品製造業など対象となる事業を適切に行っていること
経営・財務の安定債務超過・滞納なし
賃金支払能力日本人同等以上の賃金テーブル提示
社会保険加入厚生年金・雇用保険など完備
法令違反歴過去5年に重大違反がない/是正済証明あり
担当者体制特定技能専任責任者を配置

外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)

外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。

主な支援内容

事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(事業者都合離職の場合)、定期的な面談。

面談

支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。

労務・安全衛生体制

賃金水準

日本人と同等以上の処遇が必須です。

木材産業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)

地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。

労働時間

時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。

安全衛生教育

厚生労働省や林野庁が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で木材加工機械の安全な操作方法、防護具の使用、災害防止対策などの安全教育を徹底することが極めて重要です。木材産業は労働災害のリスクが比較的高い業種であるため、安全教育には特に力を入れましょう。

木材産業特定技能協議会への加入と各種届出

協議会への加入

  • 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
  • 主催: 林野庁が設置

誓約書の提出

「木材産業分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」を提出する必要があります。

年次報告

事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。

各種届出

雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。

リスク管理

木材産業は、製材機械による切断・巻込み事故、木材の落下、粉じんによる健康被害など様々な危険を伴います。これらのリスクを適切に管理し、外国人材にも安全作業手順を十分に理解させることが重要です。

また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。

4. 外国人材の要件

技能試験

試験実施機関

一般社団法人全国木材組合連合会など

特定技能1号の場合

「木材産業特定技能1号測定試験」に合格していること

試験内容

木材産業に関する基礎知識(木材の種類・性質、製材・加工方法、木材乾燥、木材加工機械、安全衛生、品質管理、関係法令など)基本的な木材加工技能や機械操作の安全性、品質判断など

※木材加工職種(機械製材作業)の技能実習2号を良好に修了した者は、この技能試験が免除されます。

日本語要件

「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。

ただし、木材加工職種(機械製材作業)の技能実習2号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。

キャリアパス

現在、木材産業分野では特定技能1号のみが認められており、最長5年間の在留が可能です。この間に日本の高度な木材加工技術や品質管理手法を習得し、木材産業の即戦力人材として成長することが期待されます。

また、日本で習得した技術や経験は、母国に戻った後も活かすことができ、グローバルな木材産業の発展にも貢献できるでしょう。

5. 外国人材の主な採用ルート

ルート概要標準所要期間※主なメリット
① 人材紹介会社の活用木材産業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。3~6か月採用ノウハウがなくても迅速に進められる
② 登録支援機関の活用本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。4~8か月法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる
③ 業界団体を通じたマッチング全国木材組合連合会や地域の木材組合などを通じたマッチングを行います。3~6か月業界団体のネットワークを活用できる/専門性の高い人材と出会える
④ 技能実習生からの移行自社または他社で「木材加工職種(機械製材作業)」の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。1~3か月即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている
⑤ 試験合格者との直接マッチング木材産業特定技能1号測定試験に合格した人材と直接マッチングを行います。2~4か月既に必要な技能を有することが確認されている人材を採用できる
※必要書類が全て揃い、候補者が試験に合格している場合の、手続き開始から就労開始までの標準的な目安期間です。

ルート選定のポイント

  • スピードを重視するなら
    → ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行
  • 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
    → ② 登録支援機関
  • 業界団体とのつながりを重視するなら
    → ③ 業界団体を通じたマッチング
  • 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
    → ⑤ 試験合格者との直接マッチング
  • 木材加工経験がある人材を採用したいなら
    → ④ 技能実習からの移行(特に機械製材作業経験者)

6. 採用から就労開始までの流れ

1.人員計画・業務区分の確定

どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。

2.採用ルート選定・求人開始

上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。

3.候補者の面接・能力確認

面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。

4.協議会への加入申請

「木材産業特定技能協議会」への加入申請を行います。

5.雇用契約締結・誓約書の提出

採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 「木材産業分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」を提出します。

6.在留資格(特定技能1号)の申請

必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)

 注意

書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。

7.受入れ準備・支援計画の開始

在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。

8.入国・就労開始 (海外からの場合)

来日時の空港への出迎えを行います。就労開始前に、安全教育や工場内のルールの説明などをしっかり実施しましょう。

7. 木材産業特有の留意点とコンプライアンス

特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。

機械安全対策の徹底

木材産業では、製材機械や木工機械による労働災害が多く発生しています。外国人材に対しては特に以下の安全教育を徹底しましょう。

  • 機械の安全装置
    各種安全装置の機能と使用方法の教育
  • 作業手順の徹底
    安全な操作手順の教育と遵守確認
  • 防護具の使用
    安全帽、保護メガネ、耳栓、安全靴等の適切な着用
  • 非常停止方法
    緊急時の機械停止方法の教育と訓練
  • 作業開始前点検
    日常点検の方法と異常発見時の対応

粉じん対策と健康管理

木材加工時に発生する粉じんは、肺疾患などの健康障害を引き起こす可能性があります。

  • 集じん装置の使用
    適切な集じん設備の活用方法
  • 呼吸用保護具の着用
    防じんマスクの正しい選択と着用方法
  • 換気の確保
    作業場の適切な換気方法
  • 健康診断の実施
    定期的な健康診断と結果のフォロー
  • 粉じん教育
    粉じん障害防止規則に基づく教育

木材特性の教育

木材は樹種や産地によって性質が異なり、加工方法も変わります。これらの知識は安全で効率的な作業に不可欠です。

  • 樹種別特性
    主要樹種の硬さ、加工性、乾燥特性などの教育
  • 含水率管理
    含水率の測定方法と重要性の理解
  • 欠点の見分け方
    節、割れ、腐れなどの欠点と影響の教育
  • 木取り計画
    効率的な木取り方法と歩留まり向上
  • 品質基準
    JASなど各種規格・基準の理解促進

労働環境と季節要因への配慮

木材産業の作業環境は、季節や天候の影響を受けることがあります。

  • 夏季の熱中症対策
    水分補給、休憩、空調設備の活用
  • 冬季の暖房対策
    適切な暖房と火災予防の両立
  • 雨天時の対応
    濡れた木材の取扱い注意点
  • 照明環境
    作業に適した照明の確保
  • 騒音対策
    防音・遮音対策、耳栓の使用法

まとめ

持続可能な森林資源を活かし、日本の木材産業を支える上で、外国人材の専門技能と働く意欲は、大きな戦力となります。

国産材の利用拡大、CLT(直交集成板)などの革新的な木質材料の開発・普及、木造建築の推進など、持続可能な社会の実現に欠かせないこの産業において、外国人材の活躍が強く期待されています。

しかし、初めて外国人を受け入れる事業者が制度を適切に活用するためには、正確な制度理解、入念な事前準備、そして受け入れ後のきめ細やかなサポートが必須です。
特に、木材加工の現場では、安全に関わる教育・訓練を徹底して繰り返し実施し、労働災害の防止を最優先することが重要です。

本ガイドで得た情報を基に、自社の状況に即した採用計画を策定してください。法令を遵守しつつ、特定技能人材の潜在能力を最大限に引き出す環境を整え、共に発展していける体制を築き上げましょう。

お問い合わせ 03-5772-7338平日(10:00~19:00)
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