1. 受入れ可能な業務区分
造船・舶用工業分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。
特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。
特定技能「造船・舶用工業」分野では、2024年3月29日の閣議決定により業務区分が再編され、以下の3区分に整理されました。
特定技能1号
| 区分 | 業務内容 | 主な作業内容例 |
|---|---|---|
| 造船区分 | 船舶の製造工程作業 | 溶接、塗装、鉄工、とび、配管、船舶加工 |
| 関連業務 | 読図作業、作業工程管理、検査、機器・装置・運搬機の運転、資材運搬 | |
| 舶用機械区分 | 舶用機械の製造工程作業 | 溶接、塗装、鉄工、仕上げ、機械加工、配管、鋳造、金属プレス加工、強化プラスチック成形 |
| 関連業務 | 読図作業、作業工程管理、検査、機器・装置・運搬機の運転、資材運搬 | |
| 舶用電気電子機器区分 | 舶用電気電子機器の製造工程作業 | 機械加工、電気機器組立て、金属プレス加工、電子機器組み立て、プリント配線板製造、配管 |
| 関連業務 | 読図作業、作業工程管理、検査、機器・装置・運搬機の運転、資材運搬 |
特定技能2号
| 区分 | 業務内容 | 主な作業内容例 |
|---|---|---|
| 全区分共通 | 特定技能1号の業務に加え、現場管理・指導業務 | 製造工程の計画・改善指導、熟練技能の実践 |
| 品質・安全管理 | 品質・安全管理、他の作業員への指導 |
ポイント
業務区分の再編により、より実態に即した形で外国人材の専門性が明確になり、受け入れが円滑化されました。各区分に応じた専門的な技能が求められます。
2. 就業可能な場所
特定技能「木材産業」の在留資格で外国人材が働ける場所は、木材を加工・製造する事業所に限定されています。
働ける場所
| 施設の種類 | 説明 | 施設例 |
|---|---|---|
| 製材所 | 木材の製材を行う工場 | 一般製材所、プレーナー加工場 |
| 木製品製造工場 | 木製品を製造する工場 | 単板製造工場、木材チップ工場 |
| 合板製造工場 | 合板を製造する工場 | 合板工場、LVL製造工場 |
| 集成材製造工場 | 集成材を製造する工場 | 集成材工場、CLT製造工場 |
| プレカット工場 | 木材の事前加工を行う工場 | プレカット加工場 |
| 銘木製造工場 | 銘木の製造加工を行う施設 | 銘木製材所 |
| 床板製造工場 | フローリング材を製造する工場 | フローリング製造工場 |
特定技能「木材産業」を取得した外国人材は、これらの場所で自分のスキルや経験を活かして働くことができます。
各施設では、製材、単板製造、木材チップ製造、合板製造、集成材製造、プレカット加工、銘木製造、床板製造など、様々な木材加工作業が行われています。
働けない場所
| 施設の種類 | 説明 | 施設例 |
|---|---|---|
| 家具製造工場 | 家具を製造する工場 | 木製家具工場、椅子製造工場 |
| 建具製造工場 | 木製建具を製造する工場 | 木製ドア工場、障子・襖製造工場 |
| 小売店舗 | 木材・木製品の販売店 | 木材問屋、材木店 |
| 森林・林業現場 | 木を伐採する現場(林業分野) | 伐採現場、植林地 |
注意点
特定技能「木材産業」分野と「林業」分野は別の分野です。林業分野の特定技能外国人は伐採作業などができますが、木材産業分野の特定技能外国人は工場での加工作業が中心となります。
事業の一部で対象業種を行っている場合(例:家具工場でプレカット加工も行っている場合)は、該当する木材産業分野の業務に限って特定技能外国人を受け入れることができる可能性があります。
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる造船・舶用工業事業者には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 事業者としての確認 | 国土交通省海事局船舶産業課への「造船・舶用工業事業者の確認申請書」提出と確認取得 |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(企業都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。
造船・舶用工業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や国土交通省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で造船・舶用工業特有の危険作業(高所作業、溶接、塗装、重量物の取扱いなど)の安全対策について徹底した教育を行うことが極めて重要です。
造船・舶用工業分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 国土交通省が設置
誓約書の提出
「造船・舶用工業分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」など、国土交通省が定める分野参考様式に基づく誓約書の提出が必要です。
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
造船・舶用工業は、高所作業、溶接、塗装、重量物の取扱いなど多くの危険作業を伴います。これらのリスクを適切に管理し、外国人材にも安全作業手順を十分に理解させることが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般財団法人日本海事協会
特定技能1号の場合
「造船・舶用工業分野特定技能1号試験」に合格していること
試験内容
各業務区分(造船、舶用機械、舶用電気電子機器)に応じた専門知識と実技能力を評価
※造船・舶用工業分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、関連する業務区分においてこの技能試験が免除されます。
| 区分 | 作業 |
|---|---|
| 造船溶接 | 手溶接、半自動溶接 |
| 造船塗装 | 建築塗装、金属塗装、鋼橋塗装、噴霧塗装 |
| 造船鉄工 | 構造物鉄工 |
| 造船とび | |
| 造船配管 | 建築配管、プラント配管 |
| 舶用機械溶接 | 手溶接、半自動溶接 |
| 舶用機械塗装 | 建築塗装、金属塗装、鋼橋塗装、噴霧塗装 |
| 舶用機械鉄工 | 構造物鉄工 |
| 舶用機械仕上げ | 治工具仕上げ、金型仕上げ、機械組立仕上げ |
| 舶用機械機械加工 | 普通旋盤、数値制御旋盤、フライス盤、マシニングセンタ |
| 舶用機械配管 | 建築配管、プラント配管 |
| 舶用機械鋳造 | 鋳鉄鋳物鋳造、非鉄金属鋳物鋳造 |
| 舶用機械金属プレス加工 | |
| 舶用機械強化プラスチック成形 | 手積み積層成形 |
| 舶用機械機械保全 | 機械系保全 |
| 舶用電気電子機器機械加工 | 普通旋盤作業、数値制御旋盤、フライス盤、マシニングセンタ |
| 舶用電気電子機器電気機器組立て | 回転電機組立て、変圧器組立て、配電盤・制御盤組立て、開閉制御器具組立て、回転電機巻線製作 |
| 舶用電気電子機器金属プレス加工 | |
| 舶用電気電子機器電子機器組立て | |
| 舶用電気電子機器プリント配線板製造 | プリント配線板設計、プリント配線板製造 |
| 舶用電気電子機器配管 | 建築配管、プラント配管 |
| 舶用電気電子機器機械保全 | 機械系保全 |
特定技能2号の場合
「造船・舶用工業分野特定技能2号試験」に合格していること
試験内容
より高度な専門知識と技能、現場での指導能力などを評価
日本語要件
特定技能1号の場合
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。 ただし、造船・舶用工業分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
特定技能2号の場合
特定技能2号試験の中で、必要な日本語能力が確認されます。
キャリアパス
造船・舶用工業分野では、特定技能1号から2号へのステップアップが可能です。
特定技能1号で基本的な技能を習得し、2号試験に合格することで、より高度な専門技能者としてのキャリアアップが期待できます。特定技能2号では在留期間の更新に上限がなく、家族帯同も可能となるため、長期的なキャリア形成が可能になります。
また、日本での経験を積んだ後、母国や世界の海洋産業で専門技能者として活躍する道も開かれています。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 造船・舶用工業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 業界団体を通じたマッチング | 造船・舶用工業関連団体を通じたマッチングを行います。 | 3~6か月 | 業界団体のネットワークを活用できる/専門性の高い人材と出会える |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で造船・舶用工業分野の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、関連する業務区分において技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 試験合格者との直接マッチング | 日本海事協会の試験に合格した人材と直接マッチングを行います。 | 2~4か月 | 既に必要な技能を有することが確認されている人材を採用できる |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - 業界団体とのつながりを重視するなら
→ ③ 業界団体を通じたマッチング - 特定の専門技能を持つ人材を求めるなら
→ ⑤ 試験合格者との直接マッチング - 適応力の高い人材を求めるなら
→ ④ 技能実習からの移行(日本の職場に馴染んでいる)
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務区分の確定
どの業務区分(造船、舶用機械、舶用電気電子機器)で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.造船・舶用工業事業者としての確認申請
国土交通省海事局船舶産業課に「造船・舶用工業事業者の確認申請書」を提出し、事業者としての確認を受けます。申請は原則として郵送で行います。
3.協議会への加入申請
「造船・舶用工業分野特定技能協議会」への加入申請を行います。
4.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
5.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
6.雇用契約締結・誓約書の提出
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。
「造船・舶用工業分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」など、国土交通省が定める分野参考様式に基づく誓約書を提出します。
7.在留資格(特定技能1号または2号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
8.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
9.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。 就労開始前に、安全教育や造船所・工場内のルールの説明などをしっかり実施しましょう。
7. 造船・舶用工業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
安全管理の徹底
造船・舶用工業は、労働災害のリスクが比較的高い業種です。外国人材に対しては特に以下の安全教育を徹底しましょう。
- 高所作業の安全対策
足場の使用方法、安全帯の着用、転落防止措置 - 溶接・切断作業の安全
火気使用のルール、保護具の着用、換気の徹底 - 重量物取扱いの安全
クレーン操作、玉掛け作業、合図の方法 - 塗装作業の安全
有機溶剤の取扱い、防毒マスクの使用、火災予防 - 閉所作業の安全
酸素濃度測定、換気、救助体制の確認
専門用語・技術用語の教育
造船・舶用工業には独特の専門用語や技術用語が多く、これらの理解不足は作業ミスや安全上のリスクにつながります。
- 専門用語集の作成
各業務区分に応じた多言語の専門用語集 - 図面記号の解説
船舶設計図面で使用される記号の説明資料 - 作業指示書の多言語化
重要な作業指示書の多言語版作成 - 視覚的な教材の活用
写真や動画を活用した技術教育 - OJTとの組合せ
座学だけでなく実際の作業現場での指導
作業環境への適応支援
造船所や舶用工業の工場は、特殊な作業環境であり、適応をサポートする必要があります。
- 気象条件への対応
屋外作業が多い造船所での暑さ・寒さ対策 - 騒音対策
工場内の騒音レベルとその対策方法の教育 - 交代制勤務への対応
シフト勤務がある場合の健康管理支援 - 工場内レイアウト
安全通路、避難経路、危険区域の説明 - 緊急時対応
事故・災害発生時の避難方法、通報方法の徹底
技術継承への取り組み
造船・舶用工業は高度な技術が求められる分野であり、技術継承を意識した受け入れ体制づくりが重要です。
- 段階的な技能習得計画
レベル別の技能習得目標と評価制度 - ベテラン技能者との組合せ
技術伝承を意識したチーム編成 - 作業記録の活用
作業の標準化と品質維持のための記録方法 - 改善提案の奨励
外国人材ならではの視点を活かした改善活動 - 資格取得の支援
技能検定など各種資格の取得支援
まとめ
特定技能「造船・舶用工業」分野は、人手不足に悩む造船・舶用工業事業者にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。2024年の業務区分再編により、より実態に即した形での外国人材の受け入れが可能になり、各専門分野でのマッチング精度も向上しています。
日本の海洋産業を支えるため、外国人材の専門技能は大きな戦力となります。特に特定技能2号の制度により、長期的なキャリア形成と技術伝承が可能となり、日本の造船・舶用工業の技術力と国際競争力の維持・強化に貢献することが期待されます。
しかし、初めて外国人を受け入れる事業者向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。特に安全に関わる教育・訓練は繰り返し実施し、安全文化を着実に浸透させることが重要です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人従業員と外国人材が互いに尊重し合い、協力して高品質な船舶や舶用製品を生み出していくことが、日本の造船・舶用工業の未来を明るく照らす鍵となるでしょう。