1. 受入れ可能な業務区分
介護分野は、現在、特定技能1号の在留資格のみが認められています。
2号への移行が認められていないのは、介護分野には、すでに「介護」という国家資格に基づく永続的な在留資格が存在し、こちらをキャリアパスとして推奨されているためです。
現時点では特定技能2号への移行は認められておりませんが、人材確保の状況に応じて、今後2号対象業種に追加される可能性があります。
特定技能1号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 身体介護等(入浴、食事、排せつを助けること等)のほか、関連する援助 | 身体介護 | 入浴、食事、排せつの介助、移乗・移動の介助 |
| 関連業務 | レクリエーションの実施、リハビリテーションの補助、掲示物の管理、物品の補充や管理 |
ポイント
2025年4月より、訪問系サービスへの従事も可能になりました。
一定の要件を満たすことで、訪問介護サービスにも従事できるようになり、外国人材の活躍の場がさらに広がっています。
2. 就業可能な場所
特定技能「介護」を取得した外国人材が日本で働くことができる場所は、介護福祉士の国家試験を受けるために必要な実務経験を積むことができる事業所です。
具体的には、特別養護老人ホームや老人保健施設、病院などです。
働ける場所
| 場所 | サービス内容説明 |
|---|---|
| 特別養護老人 ホーム | 常時介護が必要な高齢者のための施設。食事、入浴、排泄などの介助、レクリエーション、機能訓練などを提供。 |
| 介護老人保健施設 | 病状が安定している要介護高齢者のための施設。リハビリテーション、看護、介護、日常生活の支援などを実施。 |
| 介護医療院 | 長期療養が必要な高齢者のための施設。医療ケア、リハビリテーション、介護、日常生活の支援などを行う。 |
| デイサービスセンター | 日帰りで介護サービスを提供する施設。食事、入浴、排泄などの介助、レクリエーション、機能訓練などを実施。 |
| グループホーム | 認知症高齢者のための共同生活の場。食事、入浴、排泄などの介助、日常生活の支援、認知症ケアなどを提供。 |
| 訪問系サービス | 利用者の自宅に訪問して介護サービスを提供。身体介護、生活援助などを実施。(2025年4月より) |
働けない場所・形態
| 場所・形態 | サービス内容説明 |
|---|---|
| 派遣労働 | 派遣会社に雇用され、派遣先で働く形態。特定技能1号ビザでは、外国人介護人材は派遣労働者として働くことはできません。 |
特定技能「介護」分野の外国人材は、訪問系サービスを含む幅広い介護業務に従事することが可能となりましたが、派遣労働形態での就労は引き続き認められていません。
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる介護事業者には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 介護保険法等の関連法規の適用 | 老人福祉法・介護保険法に規定される施設・事業所であること(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、認知症グループホーム、訪問介護事業所など) |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(事業者都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 介護分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。介護現場ではシフト制勤務が一般的ですが、適切な労働時間管理が重要です。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で感染症対策、腰痛予防、医療的ケアの安全な実施方法などの安全教育を徹底することが極めて重要です。
介護分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 厚生労働省が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
介護現場には、利用者の急変対応、感染症リスク、腰痛などの身体的負担、メンタルヘルスの問題など様々なリスクがあります。外国人材に対しても、これらのリスクを適切に管理し、安全な業務遂行ができるよう支援することが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
介護技能評価試験と介護日本語評価試験
特定技能「介護」分野で就労するためには、以下の二つの試験に合格する必要があります。
介護技能評価試験
試験内容
介護に関する基本的な知識や技術を評価。「介護の基本」「こころとからだのしくみ」「コミュニケーション技術」「生活支援技術」など。
介護日本語評価試験
試験内容
介護現場で必要とされる日本語コミュニケーション能力を評価 。 「介護のことば」「介護の会話・声かけ」「介護の文書」など。
試験免除
以下の要件を満たす場合は、上記試験が免除されることがあります。
- 介護福祉士養成施設を修了した者
- EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者としての在留期間を満了した者
- 介護職種の技能実習2号を良好に修了した者 など
日本語要件
特定技能1号取得のためには、上記の介護日本語評価試験に加え、以下のいずれかの試験に合格する必要があります。
- 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)、日本語能力試験(JLPT)N4以上
※上記の試験免除要件に該当する場合は、これらの日本語試験も免除されることがあります。
キャリアパス
現在、介護分野では特定技能1号のみが認められており、最長5年間の在留が可能です。ただし、介護福祉士の国家資格を取得することで、在留資格「介護」への移行が可能となり、在留期間の上限なく就労を継続できるようになります。また、家族の帯同も認められるようになります。
特定技能外国人が日本で働きながら介護福祉士を目指すことは、長期的なキャリア形成にとって大変有意義です。受け入れ側も、国家試験に向けた学習支援を行うことで、人材の定着と専門性の向上に繋がります。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 介護に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 介護福祉士養成施設等の卒業生採用 | 国内の介護福祉士養成施設を卒業した留学生などを採用します。 | 2~3か月 | 専門的な知識・技能を有している/日本語能力が高い場合が多い |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で介護職種の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ EPA介護福祉士候補者からの移行 | EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者としての在留期間を満了した人材の採用。 | 1~3か月 | 高い専門性と日本語能力を有している/長期就労の意欲が高い |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - 介護知識・技術レベルを特に重視するなら
→ ③ 介護福祉士養成施設等の卒業生採用 - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ③ 介護福祉士養成施設等の卒業生採用 または ⑤ EPA介護福祉士候補者 - 即戦力として期待するなら
→ ④ 技能実習からの移行 または ⑤ EPA介護福祉士候補者
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務内容の確定
何名の特定技能人材が必要か、どのような業務に従事してもらうかを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な介護技能や日本語能力(特に利用者とのコミュニケーション能力)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 重要: 在留資格の申請前に、「介護分野特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5.在留資格(特定技能1号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。 就労開始前に、介護理念・方針の説明や、施設内オリエンテーション、安全教育などをしっかり実施しましょう。
7. 介護特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
利用者・家族とのコミュニケーション支援
介護は利用者や家族との信頼関係が基本です。外国人材が円滑にコミュニケーションを取れるよう、以下のような支援を行いましょう。
- 介護用語・方言集の作成
地域特有の言葉や高齢者がよく使う表現をまとめた用語集の提供 - コミュニケーションボード
絵や写真を使った意思疎通ツールの活用 - 日本人スタッフの同行
初期段階での日本人スタッフの同行によるフォロー - 定期的なフィードバック
利用者・家族からのフィードバックを伝え、改善につなげる機会の提供
文化・習慣の相互理解促進
文化や宗教的背景の違いによる誤解を防ぎ、お互いを尊重した関係を築くための取り組みが重要です。
- 文化研修の実施
日本の文化・習慣と外国人材の母国の文化についての相互理解研修 - 多文化イベントの開催
外国人材の母国料理や文化を紹介する機会の創出 - 宗教的配慮
礼拝の時間や食事制限などへの理解と配慮 - 多様性を認め合う職場風土
異なる視点や考え方を尊重する組織文化の醸成
介護技術・知識の継続的な向上支援
特定技能外国人がさらに専門性を高め、将来的に介護福祉士を目指せるよう支援することが、人材の定着と介護の質向上につながります。
- OJT(現場訓練)の充実
段階的・計画的な技術指導の実施 - 定期的な内部研修
認知症ケア、感染症対策など専門分野の研修機会の提供 - 外部研修への参加促進
地域の研修会や勉強会への積極的な参加支援 - 介護福祉士国家試験対策
学習時間の確保、模擬試験の実施、専門講師による指導など
訪問系サービスへの従事に関する配慮
2025年4月から訪問系サービスへの従事も可能になりましたが、単独での訪問に際しては以下の点に特に注意が必要です。
- 段階的な導入
まずは同行訪問から始め、徐々に単独訪問へ移行 - 緊急時対応の徹底
異変時の連絡方法、緊急時マニュアルの多言語化 - 移動手段の確保
訪問のための自転車・車両の提供、公共交通機関の利用方法の説明 - 地域特性の理解促進
担当地域の特徴や注意点の説明、地図アプリの活用支援など
まとめ
特定技能「介護」分野は、人手不足に悩む介護事業者にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
超高齢社会を支えるため、外国人材の専門技能やホスピタリティは大きな戦力となります。また、多様な文化的背景を持つスタッフの参画は、介護サービスに新たな視点をもたらし、組織全体の活性化にも繋がる可能性を秘めています。
しかし、初めて外国人を受け入れる事業者向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人スタッフと外国人材が互いに尊重し合い、協力して質の高い介護サービスを提供していくことが、利用者の幸福と介護業界の持続的な発展に繋がるでしょう。
そして何より、外国人材一人ひとりが専門性を高め、将来的には介護福祉士などの国家資格を取得し、長期的に日本の介護現場で活躍していくことを支援していくことが、多文化共生社会の実現への大きな一歩となります。