1. 受入れ可能な業務区分
林業分野は、現在、特定技能1号の在留資格のみが認められています。
現時点では特定技能2号への移行は認められておりませんが、制度運用状況により今後対象に追加される可能性があります。
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 森林において樹木を育てて丸太を生産し、苗木を植える等の作業 | 主要業務 | 育林作業(地拵え・植栽、下刈り、除伐・間伐)、素材生産作業(伐木、造材、集材、運材)、林業機械の運転・操作 |
| 関連業務 | 生産した丸太の加工、副産物を使用した製造、機器・装置・工具等の保守管理、資材の管理・運搬、清掃作業 |
ポイント
上記の主な作業に付随する関連業務(資材運搬、作業道の簡易な整備・補修、安全確認等)も、主たる業務と同じ区分の作業として従事することが可能です。
2. 就業可能な場所
特定技能「林業」を取得した外国人材は、様々な場所で働くことができます。
働ける場所
| 就労先 | 説明 |
|---|---|
| 林業事業体 | 木材生産や森林整備を主に行う民間企業や林業経営体 |
| 森林組合 | 森林所有者などが共同で設立した組織で、地域内の森林所有者から林業作業を請け負い、特定技能外国人に業務に従事させることが可能 |
| 地方公共団体 | 国有林や公有林を管理する自治体(地方公社等も含む) |
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる林業事業体には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 林業経営の実態 | 適切に林業経営を行っていること(森林経営計画の認定を受けていることが望ましい) |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(山間地での就労が多いため、住環境への配慮が特に重要)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応(母国語対応可能な体制が望ましい)、日本人従業員や地域住民との交流促進、転職支援(事業体都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 林業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や林野庁が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語でチェーンソーや刈払機などの林業機械の安全な操作方法、急傾斜地での作業方法、熊などの野生動物対策、熱中症対策などの安全教育を徹底することが極めて重要です。林業は労働災害のリスクが高い業種のため、安全教育には特に力を入れましょう。
林業分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 林野庁が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
林業は、急斜面での作業、チェーンソー等の危険工具の使用、大径木の伐倒、重量物の運搬、自然災害(落雷、強風など)のリスク、野生動物との遭遇など、様々な危険が伴います。これらのリスクを適切に管理し、外国人材にも安全作業手順を十分に理解させることが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般社団法人 林業技能向上センター
特定技能1号の場合
「林業技能測定試験(林業分野特定技能1号評価試験)」に合格していること
試験内容
育林、素材生産等について基本的な知識と技能。
試験免除
※林業分野の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
| 区分 | 職種名 | 作業名 |
|---|---|---|
| 林業 | 育林 | 育林作業 |
| 素材生産 | 素材生産作業 |
日本語要件
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。
ただし、林業分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
キャリアパス
現在、林業分野では特定技能1号のみが認められており、最長5年間の在留が可能です。この間に日本の先進的な林業技術や森林管理手法を習得し、将来的には母国の林業振興にも貢献できる人材となることが期待されます。
また、日本国内では「林業作業士(フォレストワーカー)」、「現場管理責任者(フォレストリーダー)」などの林業技術者育成体系に沿った知識・技能の習得も可能です。チェーンソー作業従事者安全衛生教育修了証、小型車両系建設機械運転特別教育修了証など、各種資格の取得も技能向上に役立ちます。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 林業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 業界団体を通じたマッチング | 林業関連団体(森林組合連合会など)を通じたマッチングを行います。 | 3~6か月 | 業界団体のネットワークを活用できる/専門性の高い人材と出会える |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で林業分野の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(林業関連の教育機関など)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - 業界団体とのつながりを重視するなら
→ ③ 業界団体を通じたマッチング - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 山間地での生活に適応できる人材を求めるなら
→ ④ 技能実習からの移行(特に中山間地域での実習経験者)
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できますが、可能であれば実際の作業現場も見学してもらうと、双方の理解が深まります。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。
重要
在留資格の申請前に、「林業分野特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
6.在留資格(特定技能1号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
7.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。特に山間地での就労の場合は、買い物、通院、公共交通機関へのアクセスなど、生活面での配慮が重要です。
8.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。 就労開始前に、林業特有の安全教育や作業手順の説明などをしっかり実施しましょう。
7. 林業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
安全管理の徹底
林業は労働災害発生率が高い業種です。外国人材に対しては、言語の壁を考慮した丁寧な安全教育が不可欠です。特に以下の点に注意しましょう。
- チェーンソー等の安全な使用
キックバック対策、安全装備の着用、正しい姿勢での操作など - 伐倒時の退避
適切な退避場所の確保、声掛けの徹底、周囲の作業者との連携 - 傾斜地での安全対策
滑落防止、落石対策、安全な移動経路の確保 - 天候による作業中止判断
強風、雷、大雨時などの作業中止基準の明確化と徹底 - 野生動物対策
クマ等の出没情報の共有、対処方法の教育、忌避用具の携行
多言語での安全教育資材の活用
林野庁や林業・木材製造業労働災害防止協会(林災防)などが提供する多言語の安全教育資材を積極的に活用しましょう。映像資料や絵を多用した資料は、言語の壁を越えて理解を深めるのに効果的です。
また、実際の現場での実地訓練(OJT)を丁寧に行うことも重要です。
山間地での生活支援
林業の就労場所は山間地が多く、都市部と比べて生活環境が整っていない場合があります。以下のような支援を検討しましょう。
- 移動手段の確保
公共交通機関が少ない地域では、通勤手段や買い物・通院のための移動手段の確保 - 医療へのアクセス
最寄りの医療機関の情報提供、緊急時の対応方法の説明 - 買い物の支援
食料品や日用品の購入方法、地域の商店情報の提供 - 気象条件への対応
豪雪地帯等では、冬季の生活支援(除雪、暖房等) - 地域社会との交流
地域行事への参加促進、地域住民との交流機会の創出
季節変動への対応
林業は季節によって作業内容や作業量が変動します。積雪期には作業が制限される地域もあるため、年間を通じた就労計画を立て、閑散期の業務内容や、天候不良時の代替業務についても検討しておくことが重要です。
また、気象条件による作業中止の場合の賃金の取扱いについても、事前に明確にしておきましょう。
まとめ
豊かな日本の森林資源を育て、持続可能な社会を支える上で、外国人材の専門的な技能と働く意欲は、大きな力となります。
日本の森林が持つ多面的な機能を維持・向上させ、木材の安定供給を確保するためにも、彼らの受け入れと育成は極めて大きな意義を持っています。
しかし、初めて外国人を受け入れる事業体がこの制度を成功させるためには、制度の正確な理解、入念な準備、そして受け入れ後の継続的なサポート体制の構築が不可欠です。特に、山間地での仕事や生活には特有の課題があるため、これに配慮しながら、安全管理を徹底することが重要になります。
このガイドで得た情報を基に、貴社の状況に合った現実的な採用計画を立ててください。法令を遵守し、特定技能人材の能力を最大限に引き出す環境を整え、共に成長できる組織を築きましょう。