1. 受入れ可能な業務区分
外食分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。
特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。
特定技能1号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 飲食物調理、接客、店舗管理 | 飲食物調理 | 食材仕込み、加熱調理、盛付け、調製(調理、調味) |
| 接客 | 席への案内、注文、配膳、会計、食器回収、苦情等への対応 | |
| 店舗管理 | 衛生管理、シフト・求人・研修管理、売上・会計事務、機器メンテナンス、食材・備品の補充・発注 | |
| 関連業務 | 店舗で使用する農林水産物の生産、調理品以外の物品販売 |
特定技能2号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 特定技能1号の業務に加え、現場管理業務 | 調理指導・監督 | スタッフの指導、複雑な調理技術の実践、メニュー開発補助 |
| 接客指導・監督 | ホールスタッフの指導、高度な接客スキルの実践、クレーム対応(責任者) | |
| 店舗運営管理 | 売上・原価管理、シフト管理、品質管理、問題解決 |
ポイント
主たる業務である飲食店運営業務の他、関連業務(食材発注、メニュー表示作成、広告宣伝物作成補助など)にも従事することが可能です。
2. 就業可能な場所
働ける場所
| 店舗種類 | 主な業務例 |
|---|---|
| 食堂 | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| レストラン | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| ファーストフード店 | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| カフェ | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| 喫茶店 | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| 居酒屋 | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| ラーメン店 | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| 寿司店 | 調理、接客、店舗管理関連業務 |
| 弁当店 | 調理、店舗管理関連業務 |
| ケータリングサービス | 調理、配送準備、店舗管理関連業務 |
| 給食事業所 | 調理、配膳、店舗管理関連業務 |
ホテル内レストランでの受入れ形態
ホテル内のレストランで特定技能外国人を雇用する場合の分野区分は、経営主体によって異なります。
| 経営主体 | 対象分野 | 特定技能外国人が従事する業務 |
|---|---|---|
| ホテルとレストランが同じ(ホテル直営) | 宿泊分野または外食業分野 | 宿泊分野: フロント、企画・広報、接客、レストランサービスなど 外食業分野: 飲食物調理、接客、店舗管理など |
| ホテルとレストランが異なる(テナントなど) | 外食業分野のみ | 飲食物調理、接客、店舗管理など |
出典: 農林水産省「外食業分野における外国人材の受入れについて」
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる事業者には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 食品衛生法等の関連法規の遵守 | 食品衛生法に基づく営業許可を取得し、HACCPの考え方を取り入れた衛生管理を実施していること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(事業者都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 外食業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。
外食業では特に深夜営業や変則シフトなどがあるため、適正な労働時間管理が重要です。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や農林水産省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で包丁・調理器具の安全な使用法、火気の取扱い、食品衛生などの安全教育を徹底することが極めて重要です。
飲食料品製造業・外食業特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 農林水産省が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
外食業では、食品衛生や労働時間(深夜営業など)に関するリスク管理が特に重要です。適切な衛生管理教育、食品アレルギー対応の徹底、また変則シフトによる健康管理への配慮などを、外国人材にも分かりやすく指導・実施することが求められます。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般社団法人外国人食品産業技能評価機構(OTAFF)
特定技能1号の場合
「外食業特定技能技能測定試験(1号)」に合格していること。
試験内容
外食業全般に関する基礎的な知識(飲食物調理、接客、衛生管理、労働安全など)を問う学科試験と、基本的な調理・接客技能を評価する実技試験
※外食業分野の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
| 技能実習職種 | 作業名 | 試験免除の有無 |
|---|---|---|
| 医療・福祉施設給食製造 | 医療・福祉施設給食製造 | 技能・日本語試験ともに免除 |
特定技能2号の場合
「外食業特定技能技能測定試験(2号)」に合格していること
試験内容
より高度な専門知識(店舗管理、人材育成、高度な調理・接客理論など)を問う学科試験と、指導・監督能力や問題解決能力を評価する実技試験
日本語要件
特定技能1号の場合
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。 ただし、外食業分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
特定技能2号の場合
特定技能2号評価試験の中で、必要な日本語能力が確認されます。
キャリアパス
外食業分野では、特定技能1号から2号へのステップアップが可能です。
特定技能1号で調理・接客スタッフとして経験を積み、2号評価試験に合格することで、店舗運営の中核を担うリーダーとしてのキャリアアップが期待できます。また、調理師免許などの資格取得を通じて、より専門的な技能の習得も可能です。
特定技能2号を取得すれば在留期間の上限がなくなり、家族の帯同も可能になるため、長期的な視点でのキャリア形成が可能になります。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 外食業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ マッチングイベントへの参加 | 農林水産省や業界団体が主催するマッチングイベントに参加し、直接面接を行います。 | 3~6か月 | 複数の候補者と直接会える/業界団体のサポートを受けられる |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で外食業関連職種の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(アルバイト等)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
※必要書類が全て揃い、候補者が試験に合格している場合の、手続き開始から就労開始までの標準的な目安期間です。
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - コストを抑えたい、独自の採用要件があるなら
→ ③ マッチングイベントへの参加 - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 実務経験がある人材を採用したいなら
→ ④ 技能実習からの移行
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に注文対応や安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 重要: 在留資格の申請前に、「飲食料品製造業・外食業特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5.在留資格(特定技能1号または2号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。
7. 外食業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
業務範囲の遵守
特定技能で許可された業務区分以外の作業に従事させることはできません。
例えば、調理や接客が主たる業務ですが、これに関連しない一般事務業務や配送業務のみに従事させることは認められていません。
主たる業務に付随する関連業務は認められていますが、明らかに別分野の業務は不可です。
食品衛生管理の徹底
外食業では、食品衛生管理が最も重要な責務の一つです。
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理手順、食品アレルギー対応、異物混入防止対策などについて、外国人材にも理解しやすい言語や視覚資料を用いて徹底的に教育する必要があります。
シフト制勤務への配慮
外食業は、早朝・深夜営業や繁閑の差が大きいなど、シフト制勤務が一般的です。
外国人材の健康管理や生活リズムにも配慮したシフト作成、適切な休憩時間の確保、連続勤務の制限などに留意しましょう。また、日本の祝日と母国の祝日が異なる点にも理解を示し、配慮することが望ましいでしょう。
お客様対応の丁寧な指導
日本の「おもてなし」の心や接客マナーは、文化的背景によって理解が難しい場合もあります。
挨拶、言葉遣い、表情、身だしなみ、お客様への接し方など、日本特有の接客文化について、実際の場面を想定したロールプレイングなども取り入れながら丁寧に指導することが重要です。
まとめ
特定技能「外食業」分野は、人手不足に悩む外食事業者にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
日本の多様な食文化と「おもてなし」の心を体現し、国内外からの顧客に満足度の高い食体験を提供するため、外国人材の調理技術や接客スキルは大きな強みとなります。特に特定技能2号の導入により、経験を積んだ外国人材が店舗運営の中核を担うリーダーとして活躍し、より長期間にわたり日本の外食シーンを支える道が開かれました。
しかし、初めて外国人を受け入れる事業者向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人スタッフと外国人材が互いに尊重し合い、協力して最高の食体験を顧客に提供することが、外食産業の持続的な発展と国際競争力の強化に繋がるでしょう。