1. 受入れ可能な業務区分
特定技能「ビルクリーニング」分野では、以下の業務に従事する外国人材を受け入れることができます。
| 区分 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
|---|---|---|
| 業務内容 | 建築物内部の清掃業務全般 | 特定技能1号の業務に加え、現場管理業務 |
| 主な作業例 | 床面清掃:日常清掃、定期清掃(ワックス塗布など) カーペット清掃:バキューム掛け、シャンプークリーニングなど 窓ガラス清掃:窓、サッシ、ブラインドの清掃 トイレ・洗面所清掃:便器、洗面台、鏡などの清掃、消耗品補充 ゴミ収集・分別:各種ゴミの回収、分別、その他、什器備品清掃、壁面・天井清掃など | 作業管理:複数の作業員を指導しながらの清掃業務 現場管理:清掃業務の計画作成、進行管理 品質管理:清掃品質の確認、改善指導 安全管理:作業の安全確保、事故防止、その他、顧客対応、報告書作成など |
ポイント
主たる業務である建築物内部の清掃の他、関連業務(清掃用機材の点検・整備、清掃用資機材の在庫管理など)にも従事することが可能です。
2. 就業可能な場所
特定技能「ビルクリーニング」の外国人材は、多様な場所で清掃業務をすることができます。
働ける場所
| 場所 | 説明 |
|---|---|
| オフィスビル | 企業や団体が使用する建物の内部 |
| 官公庁 | 国や地方公共団体の庁舎内部 |
| 病院 | 医療を提供する施設の内部 |
| 銀行 | 金融機関の店舗内部 |
| 商業施設 | デパート、ショッピングモールなどの内部 |
| ホテル | 宿泊施設の内部 |
| レストラン | 飲食を提供する施設の内部 |
| 建物内部の設備 | 上記建物の床、天井、内壁、トイレ、洗面所など |
| 共同住宅の共用部分 | マンションやアパートなどのロビー、廊下など |
| 建物外部の清掃 | 高所作業を伴わない範囲の外壁や屋上など |
| ホテル客室の清掃 | アメニティ交換、ベッドメイキング(一連の流れの中の作業) |
出典:ビルクリーニング分野における特定技能制度に関する啓発資料
働けない場所
| 場所 | 説明 | 備考 |
|---|---|---|
| 住宅内部・民泊 | ハウスクリーニングに該当 | マンションの専有部分の清掃はできませんが、共用部分の清掃は対象になります |
| ホテル・レストラン | 接客やレストランサービスが伴う場合 | 「宿泊業」や「外食業」の業務内容になります |
| マンション居住者退去後の部屋清掃 | 前後で住人が異なる住宅(住居) | 住宅扱いのため対象外 |
| 新幹線、飛行機、豪華客船 | これらの乗り物の清掃 | 建築物ではないため対象外 |
| ネズミや衛生害虫駆除 | 専門的な知識や資格が必要なため | 専門性が高いため対象外 |
| 廃棄物処理 | 廃棄物処理法に基づいた処理が必要なため | 専門性が高いため対象外 |
| 建築物総合管理 | 警備や設備管理など、清掃以外の業務 | 清掃以外の業務はビルクリーニングの対象外 |
| ビルのガラス外装 | 高所作業を伴う場合 | 安全面の理由から対象外 |
| 機器や設備の内部 | 専門的な知識や技術が必要なため | 専門性が高いため対象外 |
これらの場所は、住宅扱い、専門的な知識や資格が必要、清掃以外の業務が含まれるなどの理由から、特定技能「ビルクリーニング」の対象外となっています。
特定技能外国人材を採用される際は、上記の業務範囲を遵守し、対象外の業務に従事させることのないよう注意が必要です。業務範囲の逸脱は、在留資格の取消事由となる可能性がありますので、十分にご注意ください。
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる企業には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 建築物衛生法に基づく事業登録 | 「建築物清掃業(1号)」または「建築物環境衛生総合管理業(8号)」の登録を受けていること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(企業都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 ビルクリーニング分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で清掃用資機材の取扱い、薬剤使用時の注意点、高所作業の安全対策などの安全教育を徹底することが極めて重要です。
ビルクリーニング分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期:外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催:厚生労働省が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
ビルクリーニング業務では、化学薬品の取扱いや高所作業など、安全面でのリスクも存在します。適切な安全教育、保護具の提供、作業手順の明確化などを通じて、事故防止に努めることが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
公益社団法人全国ビルメンテナンス協会
特定技能1号の場合
「ビルクリーニング特定技能1号評価試験」に合格していること。
試験内容
ビルクリーニングに関する知識と実技能力を測定
※ビルクリーニング職種の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
特定技能2号の場合
「ビルクリーニング特定技能2号評価試験」に合格していること。
または「ビルクリーニング技能検定1級技能試験」の合格と2年以上の現場管理業務の実務経験があること。
試験内容
現場管理能力や指導力など、より高度なスキルを評価
日本語要件
特定技能1号の場合
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。
ただし、ビルクリーニング分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
特定技能2号の場合
特定技能2号評価試験の中で、必要な日本語能力が確認されます。
キャリアパス
ビルクリーニング分野では、特定技能1号から2号へのステップアップが可能です。
特定技能1号で実務作業者として経験を積み、2号評価試験に合格することで、現場管理者としてのキャリアアップが期待できます。また、「ビルクリーニング技能検定」などの資格取得を通じて、より専門的な技能の習得も可能です。
日本で習得した技能や経験は、母国に戻った後も活かすことができ、グローバルな視点を持つビルクリーニング専門家としての活躍が期待されます。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | ビルメンテナンス業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ マッチングイベントへの参加 | 全国ビルメンテナンス協会や関係省庁が主催するマッチングイベントに参加し、直接面接を行います。 | 3~6か月 | 複数の候補者と直接会える/業界団体のサポートを受けられる |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社でビルクリーニング職種の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(アルバイト等)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
※必要書類が全て揃い、候補者が試験に合格している場合の、手続き開始から就労開始までの標準的な目安期間です。
<ルート選定のポイント>
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - コストを抑えたい、独自の採用要件があるなら
→ ③ マッチングイベントへの参加 - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 業界理解度がある人材を採用したいなら
→ ④ 技能実習からの移行
6. 採用から就労開始までの流れ
1. 人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2. 採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3. 候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4. 雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 重要: 在留資格の申請前に、「ビルクリーニング分野特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5. 在留資格(特定技能1号または2号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意: 書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6. 受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7. 入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。
7. ビルクリーニング特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
業務範囲の遵守
特定技能で許可された業務区分以外の作業に従事させることはできません。ビルクリーニング分野特定技能協議会は、「ビルクリーニング分野特定技能外国人が従事できる業務について」という決定事項を公開しており、これに従う必要があります。主たる業務に付随する関連業務は認められていますが、明らかに別分野の業務は不可です。
安全衛生管理の徹底
ビルクリーニング業務では、高所作業や化学薬品の使用など、安全面でのリスクが存在します。外国人材には、母国語でも理解できる安全教育を行い、適切な保護具の着用や作業手順の遵守を徹底させることが重要です。
顧客施設内での業務への配慮
ビルクリーニング業務は顧客施設内で行われるため、セキュリティ対策(入退室管理、機密情報保護など)や、顧客マナー(挨拶、身だしなみ、言葉遣いなど)についても丁寧な指導が必要です。外国人材には、日本特有のビジネスマナーや施設利用者への配慮についても教育しましょう。
夜間・早朝勤務への対応
ビルクリーニング業務では、施設利用者の少ない夜間や早朝に作業を行うことが多いため、労働時間管理や安全確保に特に注意が必要です。勤務シフトや休日設定は、外国人材の生活リズムや健康にも配慮したものにしましょう。
まとめ
特定技能「ビルクリーニング」分野は、人手不足に悩むビルメンテナンス企業にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
現代社会における快適な都市環境を支え、公衆衛生の向上に貢献するビルクリーニング業務は、社会インフラの維持に不可欠な存在です。外国人材の受け入れは、人手不足の解消に貢献するだけでなく、多様な視点や文化を職場にもたらし、業界全体の活性化に繋がる可能性を秘めています。
しかし、初めて外国人を受け入れる企業向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人スタッフと外国人材が互いに尊重し合い、協力して快適な都市環境を創造していくことが、ビルメンテナンス業界の持続的な発展に繋がるでしょう。