1. 受入れ可能な業務区分
航空分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。
特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。
特定技能1号
| 区分 | 業務内容 | 主な作業内容例 |
|---|---|---|
| 空港グランドハンドリング | 航空機の地上走行支援業務、手荷物・貨物取扱業務等 | 航空機地上走行支援、手荷物・貨物取扱、航空機搭降載、航空機内外の清掃整備 |
| 関連業務 | 事務作業、作業場所の整理整頓・清掃、除雪 | |
| 航空機整備 | 国家資格整備士等の指導・監督の下、機体、装備品等の整備業務のうち基礎的な作業 | 運航整備、機体整備、装備品・原動機整備(簡単な点検や交換作業等) |
| 関連業務 | 事務作業、作業場所の整理整頓・清掃、除雪 |
特定技能2号
| 区分 | 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|---|
| 全区分共通 | 特定技能1号の業務に加え、現場管理及び高度な技能を要する業務 | 業務管理・指導 | 複雑な状況判断、イレギュラー対応、他の作業員への指導・監督、安全・品質管理 |
| 高度技能 | 高度故障探求、専門的な修理・復旧作業 |
ポイント
上記の主な作業に付随する関連業務(準備・片付け、記録作成、品質確認など)も、主たる業務と同じ区分の作業として従事することが可能です。
2. 就業可能な場所
特定技能「航空業」を取得すると、空港や航空会社はもちろん、航空機に関わる様々な場所で働くことができます。
働ける場所
| 場所例 | 業務例 |
|---|---|
| 空港 | 成田国際空港、羽田空港、関西国際空港、地方空港など |
| 航空会社 | 日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)など |
| 航空機整備会社 | 国土交通大臣から認定を受けた整備会社、またはその会社から仕事を請け負っている会社 |
| グランドハンドリング会社 | 空港の管理者から許可を受けた会社、航空会社などが運営するグランドハンドリング会社 |
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる航空関連企業には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 航空法規等の遵守 | 航空法をはじめとする関連法規を遵守し、安全管理体制を確立していること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
| 専門的なOJT体制 | 継続的な技能教育体制が整備されていること |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(企業都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 航空分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域や業務区分によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。航空業界は早朝・深夜勤務も多いため、適切なシフト管理が重要です。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
国土交通省や厚生労働省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で航空機周辺の安全ルール、危険区域の認識、機材・装置の取扱いなどの安全教育を徹底することが極めて重要です。航空分野は安全が最優先事項であり、継続的な安全教育が不可欠です。
航空分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 国土交通省が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
航空業務は安全が最優先される分野です。外国人材に対しても、言語の壁を考慮した丁寧な安全教育、危険予知活動、ヒヤリハット事例の共有などを通じて、安全意識の徹底を図ることが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般財団法人日本航空技術協会(JAEA)
特定技能1号の場合
「航空分野特定技能評価試験(空港グランドハンドリングまたは航空機整備)」に合格していること
※航空分野の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
| 特定技能分野 | 技能実習職種 | 作業名 | 試験免除の有無 |
|---|---|---|---|
| 空港グランドハンドリング | 空港グランドハンドリング(社内検定型) | 航空機地上支援 | 試験免除で移行可能 |
| 空港グランドハンドリング | 空港グランドハンドリング(社内検定型) | 航空貨物取扱 | 技能試験合格が必要 |
| 空港グランドハンドリング | 空港グランドハンドリング(社内検定型) | 客室清掃 | 技能試験合格が必要 |
| 航空機整備 | ―(対応する技能実習職種なし) | ― | 技能試験合格が必要 |
特定技能2号の場合
「航空分野特定技能2号評価試験(空港グランドハンドリングまたは航空機整備)」に合格していること
日本語要件
特定技能1号の場合
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。ただし、航空分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
特定技能2号の場合
特定技能2号評価試験の中で、必要な日本語能力が確認されます。
キャリアパス
航空分野では、特定技能1号から2号へのステップアップが可能です。
特定技能1号で基本的な技能を習得し、2号評価試験に合格することで、より高度な技能と管理能力を持つ人材としてのキャリアアップが期待できます。さらに、航空業界固有の資格(航空特殊無線技士、航空整備士国家資格など)の取得を通じて、専門性を高めていくことも可能です。
特定技能2号では在留期間の更新に上限がなく、家族帯同も可能となるため、長期的なキャリア形成が可能になります。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 航空業界に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 業界団体を通じたマッチング | JAEAや航空業界団体が実施するマッチングイベントなどを活用します。 | 3~6か月 | 業界団体のネットワークを活用できる/専門性の高い人材と出会える |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で航空分野の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(航空系専門学校など)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能/航空知識を有している |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - 業界団体とのつながりを重視するなら
→ ③ 業界団体を通じたマッチング - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 国際対応力(多言語能力など)を重視するなら
→ ① 人材紹介会社を通じた海外人材の採用
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 重要: 在留資格の申請前に、「航空分野特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5.在留資格(特定技能1号または2号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。 就労開始前に、安全教育や空港・整備場内のルールの説明などをしっかり実施しましょう。
7. 航空業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
安全最優先の理念浸透
航空業界では「安全が全てに優先する」という理念が最も重要です。
外国人材に対しても、この理念を理解・実践してもらうため、繰り返し教育し、日常業務の中で安全意識を高める工夫をしましょう。
安全に関するコミュニケーションには特に配慮し、言語や文化の違いによる誤解が生じないよう、視覚的な資料や実演なども活用してください。
制限区域内での行動規範
空港や整備場には、一般立入禁止の制限区域が多く存在します。
外国人材には、各区域の立入制限や行動ルール、IDカードの携行・提示方法などを丁寧に説明し、セキュリティ上の問題が発生しないよう徹底指導することが重要です。
不規則勤務への配慮
航空業界は、早朝・深夜勤務や不規則なシフトが多い業種です。
外国人材の健康管理や生活リズムに配慮したシフト作成に努め、十分な休息時間の確保や、連続勤務の制限などに留意しましょう。また、通勤手段の確保(特に早朝・深夜)も重要な配慮事項です。
多言語コミュニケーション力の活用
外国人材の多言語能力は、国際空港などでは大きな強みとなります。
特に訪日外国人旅客への対応や、外国語での案内・情報提供など、彼らの語学力を活かせる場面があれば積極的に機会を提供し、仕事のやりがいや成長につなげましょう。
技術進化への対応
航空技術は常に進化しています。新型機材の導入や新たな運航方式の変更などに伴い、外国人材に対しても継続的な教育訓練の機会を提供し、最新の知識・技能を習得できるよう支援することが重要です。
特に安全に関わる重要な変更については、確実な理解を確認するプロセスを設けましょう。
まとめ
特定技能「航空」分野は、人手不足に悩む航空関連企業にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
航空輸送の安全と定時性を支えるため、外国人材の専門技能や多言語能力は大きな戦力となります。特に特定技能2号の導入により、経験を積んだ外国人材が現場のリーダーとして活躍し、より長期間にわたり日本の航空業界を支える道が開かれました。
しかし、初めて外国人を受け入れる企業向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人スタッフと外国人スタッフが互いに尊重し合い、チームとして最高の安全とサービスを提供していくことが、航空業界の持続的な発展と国際競争力の強化に繋がるでしょう。