1. 受入れ可能な業務区分
自動車運送業分野は、現在、特定技能1号の在留資格のみが認められています。
現時点では特定技能2号への移行は認められておりませんが、制度運用状況により今後対象に追加される可能性があります。
特定技能1号
| 区分 | 業務内容 | 主な作業内容例 |
|---|---|---|
| バス運転者 | 一般乗合・貸切・特定旅客運送事業における車両点検、旅客輸送、乗務記録、乗客対応等 | 車両点検、旅客輸送、乗務記録作成、乗客対応 |
| 関連業務 | 車内・営業所内清掃、運賃精算・管理 | |
| タクシー運転者 | 一般乗用旅客運送事業における車両点検、旅客輸送、乗務記録、乗客対応等 | 車両点検、旅客輸送、乗務記録作成、乗客対応 |
| 関連業務 | 車内・営業所内清掃、運賃精算・管理 | |
| トラック運転者 | 貨物自動車運送事業における車両点検、貨物輸送、乗務記録、荷崩れを起こさない積付け等 | 車両点検、貨物輸送、乗務記録作成、荷崩れ防止積付け |
| 関連業務 | 車内清掃、洗車、営業所内清掃 |
ポイント
上記の業務に従事するためには、日本国内で有効な該当車種の運転免許取得が必須です。また、運転業務の他に付随する業務(接客、荷役、点検整備など)も含まれます。
2. 就業可能な場所
特定技能「自動車整備業」の外国人材が働くことができるのは、地方運輸局長の認証を受けた認証工場です。認証工場とは、国土交通省が定めた基準を満たし、自動車の点検や整備を行うための設備と人員を備えた工場のことです。
働ける場所
| 種類 | 説明 |
|---|---|
| 四輪自動車を扱う認証工場 | 乗用車やトラックなど、四輪自動車の整備を行います。 |
| 二輪自動車のみを扱う認証工場 | バイクなどの二輪自動車の整備を行います。 |
| 装置の種類が限定されている認証工場 | 特定の種類の装置の整備に特化した認証工場です。 |
ガソリンスタンド、カー用品店、中古車販売店であっても、認証工場として認可を受けており、外国人材が上記の整備業務に従事するのであれば、特定技能人材として雇用することができます。
しかし、認証工場であっても、給油や洗車など、整備以外の業務ばかりをさせると、法律違反となり罰則の対象となる可能性がありますのでご注意ください。
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる運送事業者には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 各種許認可 | 貨物自動車運送事業法、道路運送法に基づく事業許可を受けていること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(事業者都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
自動車運送業特有の支援
運転免許取得支援
外国人材が日本の運転免許を取得するための支援(教習所の手配、費用補助など)が必要です。
専門用語・交通ルール教育
業務に必要な専門用語や日本の交通ルールなどに関する教育も重要です。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。
自動車運送業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)
地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)を含む労働関係法令を遵守する必要があります。
特に、2024年問題(時間外労働の上限規制の適用)に対応した労働時間管理が重要です。適切な労務管理 が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や国土交通省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で安全運転のルール、事故防止対策、緊急時の対応などの安全教育を徹底することが極めて重要です。
自動車運送業分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
運転業務は、交通事故のリスク、長時間労働によるストレス、天候不良時の運行リスクなど様々な危険を伴います。これらのリスクを適切に管理し、外国人材にも安全運転の重要性を十分に理解させることが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
公益財団法人 運行管理者試験センター
特定技能1号の場合
「自動車運送業分野特定技能1号評価試験」に合格していること。
試験内容
「バス」「タクシー」「トラック」のいずれかの分野に関する、安全運転、道路交通法規、日常点検、事故・災害時の対応、輸送の安全に関する知識、顧客対応などの基礎知識と技能。 トラック、バス、タクシーの分野ごとに試験を実施。
運転免許取得
日本国内で有効な該当車種の運転免許を取得している必要があります。
日本語要件
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。
ただし、日本の自動車運転免許(業務に必要な種類)を既に取得している場合は、日本語能力試験等は免除される場合があります。
キャリアパス
現在、自動車運送業分野では特定技能1号のみが認められており、最長5年間の在留が可能です。この間に日本の高度な運転技術や安全管理手法を習得し、より熟練したドライバーとして成長することが期待されます。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 自動車運送業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 業界団体を通じたマッチング | 自動車運送業関連団体(トラック協会、バス協会、タクシー協会など)を通じたマッチングを行います。 | 3~6か月 | 業界団体のネットワークを活用できる/専門性の高い人材と出会える |
| ④ 日本語学校の留学生からの採用 | 日本語学校の留学生で特定技能試験に合格し、運転免許を取得(または取得見込み)の人材を採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
| ⑤ 技能試験合格者との直接マッチング | 試験実施機関などを通じて試験に合格した人材と直接マッチングを行います。 | 2~4か月 | 既に必要な技能を有することが確認されている人材を採用できる |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - 業界団体とのつながりを重視するなら
→ ③ 業界団体を通じたマッチング - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ④ 日本語学校の留学生からの採用 - 運転技能が高い人材を求めるなら
→ ⑤ 技能試験合格者との直接マッチング
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務内容の確定
どの業務区分(トラック・バス・タクシー)で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に交通ルールや安全指示の理解度)を確認します。運転免許の有無や取得見込みも確認しましょう。
4.協議会への加入申請
自動車運送業分野特定技能協議会への加入申請を行います。国土交通省のウェブサイトから申請フォームをダウンロードし、必要事項を記入の上、提出します。
5.雇用契約締結
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。改善基準告示を遵守した労働条件であることを確認しましょう。
6.在留資格(特定技能1号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
7.運転免許取得支援(未取得の場合)
外国人材が日本の運転免許を未取得の場合は、教習所の手配、費用補助などの支援を行います。
8.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
9.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。労開始前に、交通法規や安全運転に関する教育、社内ルールの説明などをしっかり実施しましょう。
7. 自動車運送業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
安全運転教育の徹底
自動車運送業では、安全運転が最優先事項です。外国人材に対しては特に以下の安全教育を徹底しましょう。
- 日本の交通ルールの理解
出身国と異なる交通ルールの徹底教育 - 安全確認の方法
安全確認の手順や視点、見落としやすい危険の教育 - 危険予測訓練
様々な交通状況での危険を予測する能力の育成 - 運転特性の把握
車両特性(死角、制動距離など)の理解促進 - 緊急時対応
事故発生時や車両故障時の対応手順の教育
体調管理と過労防止
自動車運転者は長時間の集中力維持が必要で、体調不良は重大事故につながります。
- 健康管理
定期健康診断の実施、体調不良時の報告体制整備 - 休憩時間の確保
適切な休憩取得の徹底、休憩施設の案内 - 睡眠時間の確保
十分な睡眠時間確保の重要性教育 - 生活リズム管理
規則正しい生活の推奨と支援 - ストレス管理
業務ストレスへの対処法指導、相談窓口の設置
天候・交通状況への対応
日本特有の気象条件や交通状況への対応も重要なポイントです。
- 降雨・降雪時の運転
滑りやすい路面での運転技術教育 - 台風・豪雨対応
台風接近時の運行判断、冠水時の対応など - 交通渋滞対応
渋滞時の時間管理、迂回ルート判断方法 - 山間部・都市部運転
地域特性に応じた運転方法の教育 - 季節変化への対応
四季による交通環境変化への対応方法
顧客対応・接客マナー(特にバス・タクシー)
旅客運送では、安全運転に加えて適切な接客スキルも求められます。
- 基本的な接客用語
乗客対応での必要な日本語表現の習得支援 - 多言語対応
外国人乗客対応のための基本フレーズ習得 - 障がい者・高齢者対応
バリアフリー対応、乗降介助の方法 - トラブル対応
クレーム対応の基本、エスカレーション方法 - 地理案内
主要目的地や観光地への案内方法(特にタクシー)
まとめ
特定技能「自動車運送業」分野は、人手不足に悩む運送事業者にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
日本の物流・旅客輸送ネットワークの維持と国民生活の安定のため、外国人材の運転技能や安全意識は大きな戦力となります。特に、EC拡大による小口多頻度輸送の増加、外国人観光客増加に伴う多言語対応など、変化する社会ニーズに応えるためにも、多様な人材の活躍が期待されています。
しかし、初めて外国人を受け入れる事業者向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。特に安全に関わる教育・訓練は繰り返し実施し、安全運転の文化を着実に浸透させることが重要です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人ドライバーと外国人材が互いに尊重し合い、協力して安全で効率的な運送サービスを提供していくことが、自動車運送業の持続的な発展に繋がるでしょう。