1. 受入れ可能な業務区分
自動車整備分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。
特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。
特定技能1号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 自動車の日常点検整備、定期点検整備、特定整備、および基礎的な付随業務 | 主要業務 | 日常/定期点検 特定整備 故障修理の基礎業務 |
| 関連業務 | 整備説明 部品販売/発注 ナビ/ETC取付 洗車 清掃 |
特定技能2号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 特定技能1号業務に加え、より高度な業務 | 高度診断・修理 | 先進技術車両の診断 高難度修理 複合的故障対応 |
| 工程管理・指導 | 整備工程の計画・進行管理 技術指導 |
ポイント
特定技能1号では基本的な整備作業が中心ですが、付随する業務(洗車、車両の移動、部品受領など)も行うことができます。特定技能2号では、より高度な専門性に加え、現場のリーダーとしての役割も期待されます。
2. 就業可能な場所
特定技能「自動車整備業」の外国人材が働くことができるのは、地方運輸局長の認証を受けた認証工場です。 認証工場とは、国土交通省が定めた基準を満たし、自動車の点検や整備を行うための設備と人員を備えた工場のことです。
働ける場所
| 種類 | 説明 |
|---|---|
| 四輪自動車を扱う認証工場 | 乗用車やトラックなど、四輪自動車の整備を行います。 |
| 二輪自動車のみを扱う認証工場 | バイクなどの二輪自動車の整備を行います。 |
| 装置の種類が限定されている認証工場 | 特定の種類の装置の整備に特化した認証工場です。 |
| 事業種別 | 特定技能外国人の雇用可否 | 条件 |
|---|---|---|
| ガソリンスタンド | 〇 | 認証工場として認可を受けており、整備業務に従事する場合 |
| カー用品店 | 〇 | 認証工場として認可を受けており、整備業務に従事する場合 |
| 中古車販売店 | 〇 | 認証工場として認可を受けており、整備業務に従事する場合 |
注意事項
認証工場であっても、給油や洗車など、整備以外の業務ばかりをさせると、法律違反となり罰則の対象となる可能性がありますのでご注意ください。
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる整備事業者には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 事業認証 | 地方運輸局長の認証を受けた自動車特定整備事業場または指定自動車整備事業場であること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(企業都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 自動車整備分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や国土交通省が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で整備用機器・工具の安全な使用法、リフトの操作方法、有機溶剤の取扱いなどの安全教育を徹底することが極めて重要です。
自動車整備分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 国土交通省が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
自動車整備業務では、リフト作業、重量物の取扱い、溶接作業、有機溶剤の使用など、様々な危険作業があります。これらのリスクを適切に管理し、外国人材にも安全作業手順を十分に理解させることが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般社団法人日本自動車整備振興会連合会(JASPA)
特定技能1号の場合
「自動車整備分野特定技能1号評価試験」に合格していること
試験免除
以下の方は、技能試験が免除されます。
- 自動車整備士技能検定試験3級または2級(ガソリン自動車、ジーゼル自動車、二輪自動車のいずれか)に合格した者
- 自動車整備士養成施設の課程を修了した者
- 自動車整備分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者
特定技能2号の場合
「自動車整備分野特定技能2号評価試験」に合格していること
試験免除
以下の方は、技能試験が免除されます。
- 自動車整備士技能検定試験1級または2級(ガソリン自動車、ジーゼル自動車、二輪自動車のいずれか)に合格した者
- 外国人技能養成講習を修了した場合は、実技試験のみ免除される場合あり(JASPAのウェブサイトで最新情報を確認)
日本語要件
特定技能1号の場合
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。 ただし、自動車整備分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
特定技能2号の場合
特定技能2号評価試験の中で、必要な日本語能力が確認されます。
キャリアパス
自動車整備分野では、特定技能1号から2号へのステップアップが可能です。
特定技能1号で基本的な整備技術を習得し、2号評価試験に合格することで、より高度な整備技術と管理能力を持つ人材としてのキャリアアップが期待できます。さらに、自動車整備士国家資格(3級、2級、1級)の取得を通じて、専門性を高めていくことも可能です。
特定技能2号では在留期間の更新に上限がなく、家族帯同も可能となるため、長期的なキャリア形成が可能になります。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 自動車整備に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 業界団体を通じたマッチング | JASPAや地域の整備振興会などが実施するマッチングイベントなどを活用します。 | 3~6か月 | 業界団体のネットワークを活用できる/専門性の高い人材と出会える |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で自動車整備分野の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(自動車整備系専門学校など)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能/整備知識を有している |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - 業界団体とのつながりを重視するなら
→ ③ 業界団体を通じたマッチング - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 整備知識やスキルを特に重視するなら
→ ④ 技能実習からの移行 または ⑤ 留学生からの採用
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に整備用語や安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 重要: 在留資格の申請前に、「自動車整備分野特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5.在留資格(特定技能1号または2号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。 就労開始前に、安全衛生教育や整備工場内のルールの説明などをしっかり実施しましょう。
7. 自動車整備特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
整備作業の安全確保
自動車整備は、リフト作業、重量物の持ち上げ、回転部品の取扱い、溶接作業など、様々な危険が伴います。
外国人材に対しては、言語の壁も考慮し、実際の作業を交えながら丁寧に安全教育を行いましょう。特に、安全装置の使用法や緊急時の対応については繰り返し教育することが重要です。
危険物や有機溶剤の取扱い
整備現場では、燃料、オイル、溶剤など多くの危険物や有機溶剤を使用します。
これらの適切な取扱い方法、保管方法、廃棄方法についても、外国人材が理解できる言語や視覚的な資料を用いて教育しましょう。
整備記録と点検表の作成指導
自動車整備は、法令に基づいた適切な整備記録や点検表の作成が必要です。
外国人材が日本語での記録作成に不安がある場合は、記入例の提示や、チェックリスト形式の採用など、記録作成を支援する工夫を行いましょう。
整備技術の変化への対応
電気自動車(EV)、ハイブリッド車(HV)、先進運転支援システム(ADAS)など、自動車技術は急速に進化しています。
外国人材に対しても、定期的な技術研修や新技術の学習機会を提供し、変化する技術に対応できるよう支援することが重要です。
顧客対応時の配慮
整備現場では、顧客と直接やり取りする機会もあります。
外国人材の言語能力に応じて、日本人スタッフとの役割分担を明確にしたり、よく使う説明フレーズ集を作成したりするなど、円滑な顧客対応ができるよう工夫しましょう。
まとめ
特定技能「自動車整備」分野は、人手不足に悩む自動車整備事業者にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
日本の安全なモビリティ社会を支えるため、外国人材の専門技能や意欲は大きな戦力となります。特に特定技能2号の導入により、経験を積んだ外国人材が現場のリーダーとして活躍し、より長期間にわたり日本の自動車整備業界を支える道が開かれました。
しかし、初めて外国人を受け入れる事業者向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人整備士と外国人整備士が互いに尊重し合い、協力して安全・安心なカーライフを支えていくことが、自動車整備業界の持続的な発展に繋がるでしょう。