1. 受入れ可能な業務区分
宿泊分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。
特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。
特定技能1号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 旅館やホテルにおけるフロント、企画・広報、接客及びレストランサービス等の宿泊サービスの提供業務 | フロント業務 | チェックイン/アウト、予約管理、会計、観光地情報の案内 |
| 接客サービス | 顧客案内、情報提供、手荷物運搬、問い合わせ対応 | |
| レストランサービス | 注文応対、配膳・片付け、料理の下ごしらえ・盛りつけ | |
| 企画・広報 | キャンペーン立案、館内案内チラシ作成、HP・SNS情報発信 | |
| 関連業務 | 施設内販売、備品の点検・交換 |
特定技能2号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 特定技能1号の業務に加え、現場管理業務 | 現場管理 | 施設の運営管理(在庫、衛生、設備)、売上管理、シフト管理 |
| 企画・指導 | サービス改善の企画立案、スタッフへの指導・育成、クレーム対応(責任者) |
ポイント
上記の主な作業に付随する関連業務(備品管理、清掃の指示・確認など)も、主たる業務と同じ区分の作業として従事することが可能です。
2. 就業可能な場所
外国人材は、宿泊施設で働くことができますが、旅館業法に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けた施設であることが条件です。
働ける場所
| 種類 | 説明 | 施設例 |
|---|---|---|
| 旅館 | 日本の伝統的な宿泊施設。和室や畳、布団など、日本文化を体験できる。 | 温泉旅館、老舗旅館、民宿など |
| ホテル | 洋室を中心とした宿泊施設。様々な種類がある。 | シティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテル、カプセルホテルなど |
ホテル内のレストランで特定技能外国人を雇用する場合、「宿泊分野」と「外食業分野」のどちらで受け入れるべきか、迷うケースは少なくありません。 実は、ホテルとレストランの経営主体が同じか異なるかによって、受け入れ可能な分野が変わります。
| 経営主体 | 対象分野 | 特定技能外国人が従事する業務 |
|---|---|---|
| ホテルとレストランが同じ(ホテル直営) | 宿泊分野、外食業分野 | 宿泊分野:フロント、企画・広報、接客、レストランサービスなど 外食業分野:飲食物調理、接客、店舗管理など |
| ホテルとレストランが異なる(テナントなど) | 外食業分野 | 飲食物調理、接客、店舗管理など |
働けない場所
| 種類 | 説明 | 施設例 |
|---|---|---|
| 風俗営業法に規定する「施設」 | 性的サービスを提供する施設 | ラブホテルなど |
| 簡易宿所 | 宿泊設備が簡素な施設 | ドミトリー、カプセルホテルなど |
| 下宿 | 家主が居住する住宅の一部の部屋を貸し出す形態の宿泊施設 | 学生向けの下宿、会社員向けの下宿など |
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる宿泊施設には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 旅館業法上の許可 | 旅館・ホテル営業、簡易宿所営業、または下宿営業の許可を受けていること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(会社都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 宿泊分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省が提供する14言語対応の教材や、マンガ形式の教材などを活用し、外国人材が理解できる言語で安全教育を徹底することが極めて重要です。
宿泊分野特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、オンラインで加入申請を完了させる必要があります。
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会(経済産業省)へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
過去の技能実習制度では、法令違反の発生率が高い状況がありました。 特定技能制度においても、同様に厳しい監督・指導が行われることが想定されます。
賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般社団法人宿泊業技能試験センター
特定技能1号の場合
「宿泊分野特定技能評価試験」に合格していること。
試験内容
宿泊サービス提供に必要な基礎知識と技能。「フロント業務」「企画・広報業務」「接客業務」「レストランサービス業務」「安全衛生その他基礎知識」の5つの分野。
※以下の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
| 特定技能区分 | 対応する技能実習職種 |
|---|---|
| 宿泊分野 | 接客・衛生管理職種、レストランサービス職種など |
特定技能2号の場合
「飲食料品製造業特定技能技能測定試験(2号)」に合格していること。2年以上の実務経験が必要。
試験内容
宿泊サービスの提供に加え、現場の指導者として必要な熟練した技能と高度な専門知識。 1号の業務に加えて、「管理・マネジメント業務」に関する知識、複数の従業員への指導・監督能力、問題解決能力。
日本語要件
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。ただし、技能実習2号または3号を良好に修了した者は、この日本語試験は免除されます。
キャリアパス
特定技能1号から2号へ移行することで、在留期間の更新上限がなくなり、要件を満たせば永住許可申請や家族の帯同も可能になります。
特定技能2号では、より高度な専門性と管理能力が求められ、複数のスタッフを指導・監督する能力、クレーム対応や業務改善に関する企画立案・実行能力などが期待されます。
5. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 宿泊業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 海外からの直接採用 | 施設が自らSNSや現地の大学等を通じて募集し、オンライン面接等を経て採用。在留資格申請も自社で行います。 | 6~12か月 | 採用コストを抑制できる/自社の要件に合う人材を探しやすい |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(アルバイト等)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - コストを抑えたい、独自の採用要件があるなら
→ ③ 直接海外採用 - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用
6. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・対象区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。
重要
在留資格の申請前に、「宿泊分野特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5.在留資格(特定技能1号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。
7. コンプライアンスと留意点
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
業務範囲の遵守
特定技能で許可された業務区分以外の作業に従事させることはできません。例えば「フロント業務」の区分で在留資格を取得した外国人を「レストランサービス業務」のみに従事させることは認められていません。主たる業務に付随する関連業務(備品管理、清掃確認など)は認められていますが、明らかに別区分の業務は不可です。
派遣形態の禁止
特定技能外国人を派遣労働者として雇用することは原則禁止されています。直接雇用が基本で、第三者への労働力提供は認められていません。
まとめ
特定技能「宿泊」分野は、人手不足に悩む宿泊業にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
日本が世界に誇る「おもてなし」の心を体現し、国内外からの旅行者に快適な滞在と素晴らしい思い出を提供するため、外国人材の多言語能力や異文化理解力は大きな強みとなります。
しかし、初めて外国人を受け入れる施設向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。