【宿泊業×特定技能】宿泊業界の深刻な人材不足問題。外国人材雇用で解決!
日本の観光業はコロナ禍から回復しつつあり、円安の影響もありインバウンド需要が増加している一方で、宿泊業界では深刻な人材不足が課題となっています。
人材不足は、サービスの質低下に繋がり、お客様へのきめ細やかなサービス提供を難しくしています。
また、人件費の高騰や2024年問題への対応など、宿泊業界の経営環境は厳しさを増しており、人材確保と育成、労働環境の改善が急務となっています。インバウンド需要の拡大に対応しつつ、国内旅行の回復を促進するためにも、人材不足の解消は最優先で対処すべき課題です。
例えば、京都の老舗旅館では、仲居不足により、お客様へのきめ細やかなサービス提供が難しくなり、予約を制限せざるを得ない状況だったり、北海道のリゾートホテルでは、清掃スタッフ不足から客室の清掃が間に合わず、お客様をお待たせしてしまうケースも発生しています。
「求人を出しても応募が来ない…」
「従業員の負担が大きくなってしまい、離職率が高い…」
「サービスレベルを維持するのが難しい…」
など、多くの企業が共通の悩みを抱えているのではないでしょうか?
その解決策の一つとして、近年注目されているのが外国人材の活用です。
2019年4月に始まった特定技能制度により、宿泊業でも外国人材の採用が可能になりました。
この制度を活用することで、人材不足を解消し、サービス向上や多言語対応による集客増加など、様々なメリットが期待できます。
例えば、フロントスタッフ不足に悩んでいた都心のビジネスホテルが、ベトナム人材を採用した結果、ベトナム語対応が可能になり、顧客満足度が向上、業務効率化も実現したり、客室清掃スタッフ不足に悩んでいた地方のリゾートホテルが、フィリピン人材を採用したところ、清掃がスムーズになりお客様をお待たせすることがなくなり、顧客満足度が向上したという事例があります。
これらの事例から、外国人材の活用は人材不足解消だけでなく、顧客満足度向上にも繋がります。
この記事では、特定技能「宿泊分野」の詳細要件や、外国人材の雇用プロセスをわかりやすく解説します。
ぜひ、最後まで読んで、特定技能の外国人材採用について理解を深めてください。
特定技能「宿泊業」は、どのような業務内容?
特定技能「宿泊分野」とは、外国人材に旅館やホテルで働いてもらうための在留資格です。
すでにご存じの方も多いと思いますが、具体的には、以下のような業務内容が該当します。
<主な業務内容>
項目 | 業務内容 |
---|---|
フロント業務 | チェックイン・チェックアウト対応、予約受付、お客様対応、観光案内など |
企画・広報業務 | 宿泊プランの企画・立案、広告宣伝、ウェブサイト管理、SNS運用など |
接客業務 | 館内案内、客室への案内、荷物運び、お客様対応など |
レストランサービス業務 | 配膳、下膳、オーダーテイク、ドリンクサービスなど |
これらの業務に加え、付随的な業務として、館内販売や備品の点検・交換なども行うことができます。
どのような場所で働ける?
外国人材は、宿泊施設で働くことができますが、旅館業法に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けた施設であることが条件です。
<働く事が出来る場所>
種類 | 説明 | 施設例 |
---|---|---|
旅館 | 日本の伝統的な宿泊施設。和室や畳、布団など、日本文化を体験できる。 | 温泉旅館、老舗旅館、民宿など |
ホテル | 洋室を中心とした宿泊施設。様々な種類がある。 | シティホテル、リゾートホテル、ビジネスホテル、カプセルホテルなど |
ホテル内のレストランで特定技能外国人を雇用する場合、「宿泊分野」と「外食業分野」のどちらで受け入れるべきか、迷うケースは少なくありません。
実は、ホテルとレストランの経営主体が同じか異なるかによって、受け入れ可能な分野が変わります。
経営主体 | 対象分野 | 特定技能外国人が従事する業務 |
---|---|---|
ホテルとレストランが同じ(ホテル直営) | 宿泊分野、外食業分野 | 宿泊分野:フロント、企画・広報、接客、レストランサービスなど外食業分野:飲食物調理、接客、店舗管理など |
ホテルとレストランが異なる(テナントなど) | 外食業分野 | 飲食物調理、接客、店舗管理など |
<働く事が出来ない場所>
種類 | 説明 | 施設例 |
---|---|---|
風俗営業法に規定する「施設」 | 性的サービスを提供する施設 | ラブホテルなど |
簡易宿所 | 宿泊設備が簡素な施設 | ドミトリー、カプセルホテルなど |
下宿 | 家主が居住する住宅の一部の部屋を貸し出す形態の宿泊施設 | 学生向けの下宿、会社員向けの下宿など |
外国人材を採用すると、どんなメリットがある?
宿泊業界における外国人材雇用は、人材不足の解消に役立つだけでなく、施設全体の活性化やサービスの質向上、収益増加に繋がる可能性が秘めています。
1.人材不足の解消とサービスレベルの維持
慢性的な人手不足を解消することで、従業員一人ひとりの負担が軽減され、より質の高いサービス提供に集中できる環境を作れる可能性があります。
具体的には、これまで手が回らなかった細やかな気配りや、お客様一人ひとりに合わせたサービス提供などが可能になるかもしれません。また、労働環境の改善は離職率の低下にも繋がり、従業員の定着率向上に役立つと考えられます。
ベテラン従業員が育成した外国人材が、新たなサービスを提供するなど、人材の多様化はサービスの幅を広げることにも繋がる可能性があります。
2.多言語対応による集客増加
多言語対応可能なスタッフを配置することで、外国人観光客は安心して宿泊施設を利用できるようになり、快適な滞在を提供することで、顧客満足度向上に繋がり、リピーター獲得にも期待できる可能性があります。
また、外国人スタッフによる母国語での情報発信やプロモーション活動は、新たな顧客層の開拓に有効であると考えられます。
丁寧な多言語対応は、外国人観光客からの高い評価に繋がり、SNSなどでの口コミ効果による集客増加も見込めることでしょう。
3.国際的な視点の導入
外国人材の視点やアイデアは、既存のサービスを見直し、改善する上で貴重な意見となる可能性があります。文化や習慣の違いを理解することで、よりきめ細やかなサービス提供が可能になります。
外国人スタッフから、母国の宿泊施設で提供されているサービスや、外国人観光客が日本で困ったことなどをヒアリングすることで、新たなサービスのアイデアが生まれる可能性があり、多様な文化背景を持つ人材との交流は、日本人スタッフの国際的な視野を広げ、異文化理解を深め、組織全体の活性化に繋がる可能性があります。
これらのメリットを享受するためには、外国人材の採用だけでなく、彼らが安心して働き、能力を最大限に発揮できるような環境づくりも重要です。
そもそも特定技能制度とは、どんな制度?
特定技能制度は、2019年に始まった制度で、人材不足を解消し、日本の経済を活性化させることを目的としています。一定の技能と日本語能力を持つ外国人材を受け入れ、即戦力として活用することができます。
技能レベルに応じて、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2つの在留資格が設けられています。
項目 | 特定技能1号 | 特定技能2号 |
---|---|---|
対象分野 | 16分野全て | 介護分野を除く11分野 |
在留期間 | 最長5年 | 期限なし |
技能レベル | 各分野の技能試験に合格 | より高い技能・知識を持ち、1号の要件を満たす |
家族の帯同 | 不可 | 可能 |
- 転職の自由
同じ職種内であれば、自由に転職することができます。
誰でも特定技能人材になれる?
宿泊業の特定技能人材は、以下の試験に合格し、必要な技能を習得している必要があります。
- 宿泊分野特定技能1号評価試験
この試験は、宿泊施設で働くために必要な知識や技能を測るもので、接客、客室清掃、ベッドメイキング、館内案内、予約受付などに関する内容が出題されます。
※宿泊業の技能実習2号・3号を良好に修了している場合は、この試験は免除されます。 - 日本語能力試験 (N4)
日常生活で必要な基本的な日本語力があることを証明する試験です。
※技能実習2号・3号を良好に修了している場合は、日本語能力試験は免除されます。
外国人材を採用する際は、これらの内容をすべてクリアできているか必ず確認しましょう。
特定技能人材の採用はどうするの?
外国人材を採用する方法は、いくつかあります。
1.人材紹介会社を活用する
特定技能に特化した人材紹介会社を利用することで、適切な人材のマッチングからビザ申請手続き、入国時の対応までサポートを受けることができます。
初めて特定技能外国人を採用する場合に効果的です。
2.登録支援機関を利用する
登録支援機関は、特定技能外国人の生活支援や就労支援を行う専門機関です。 人材紹介会社が登録支援機関を担っているケースもあります。
人材紹介から支援計画の作成、在留手続きのサポートまで幅広いサービスを提供しています。
3.直接外国人材を採用する
海外に住んでいる外国人を直接採用する方法です。 企業が自ら海外の人材と連絡を取り合い、オンライン面接などを通して採用候補者を選考します。
ビザの申請など、必要な手続きもすべて企業自身で行う必要があります。
4.技能実習生から移行する
技能実習生として雇用している外国人を特定技能に変更することができます。
ただし、すべての技能実習生が特定技能「ビルクリーニング業」に移行できるわけではありません。
「ビルクリーニング職種」の技能実習2号を良好に修了した方、または技能実習3号の実習計画を満了した方が対象となります。
5.留学生を採用する
現在アルバイトとして雇用している留学生がいる場合、特定技能の試験に合格すれば、特定技能に変更することができます。
外国人材を受け入れるための準備内容
外国人材を採用するには、受け入れ企業にもいくつかの条件をクリアする必要があります。
・旅館業法に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けている
外国人材を受け入れる企業が、 適法に旅館やホテルを運営していること を証明するためのものです。
旅館業法に基づいた許可を取得しているかどうかを確認しましょう。許可を受けていない場合は、都道府県知事への申請が必要です。
・風俗営業法に規定する「施設」に該当しない
外国人材を 風俗営業を行う施設で雇用することは禁止 されています。
風俗営業とは、性的サービスを提供する営業のことで、ラブホテルやソープランドなどが該当します。
・特定技能外国人に対して風俗営業法に規定する「接待」を行わせない
外国人材に、 お客様の飲食に侍る、遊興に付き合う、客と寝具を共にする といった行為をさせてはいけません。これらの行為は風俗営業法で禁止されている「接待」に該当し、法律違反となります。
・ 国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」に加入し、必要な協力を行う
「宿泊分野特定技能協議会」は、外国人材の受け入れや支援を行うために設立された組織です。
協議会に加入することで、外国人材の採用に関する情報提供や相談・支援を受けることができます。
協議会への加入は、外国人材の受け入れを検討している企業にとって必須となります。
加入を希望する場合は、協議会に必要書類を提出し、審査を受ける必要があります。
・サポート体制
外国人材が安心して働けるよう、生活や仕事のサポート体制を整える必要があります。
例えば、住居の提供、日本語教育の支援、生活に必要な情報の提供などを行うことが大切です。
外国人材を採用する流れ
ここまで読んでいただき、すぐにでも外国人材の採用を進めたい!と思っていただけたホテル・旅館関係の方もいるかと思います。
しかし、外国人材の採用は日本人採用とは異なる点がありますので、スムーズに外国人材を採用するために、事前準備からの流れを紹介します。
いずれ受け入れを検討している経営者・人事担当者の方にも、前知識として役立つ情報です。
ステップ | 内容 | 備考 |
---|---|---|
事前準備 | 就業規則、賃金システム、住居、生活環境の整備 | 外国人材を受け入れるための準備を整える |
人材募集 | 人材紹介会社や現地機関の活用、求人サイト、ハローワークなど | 適切な方法で候補者を探す |
面接 | 書類選考、面接(日本語能力、技能、コミュニケーション能力などを評価) | 日本人材の採用と同様の選考プロセス |
雇用契約 | 雇用契約書締結(労働条件を明確にし、外国人材にも理解できるように説明) | 労働条件は法律に基づき、外国人材にもわかりやすく説明する |
ビザ申請 | 特定技能ビザ申請(必要な書類を揃えて申請) | ビザ取得のためのサポートを行う |
入社前準備 | 住居確保、生活環境整備 | 来日前に必要な準備を支援する |
入社オリエンテーション | 会社規則、業務内容、安全衛生教育など | 会社や仕事内容を理解してもらう |
業務開始 | 実際の業務開始、日本人スタッフとのコミュニケーション促進 | 円滑なコミュニケーションを図る |
定期的な面談 | 業務や生活面での課題を早期に発見するための面談 | 定期的な面談で問題を早期に解決する |
外国人材を雇用する上での3つのポイント
外国人材の雇用は、人手不足解消の有効な手段となります。しかし、採用する際には注意すべき点もあります。
これらの注意点を理解しておくことで、外国人材とより良い関係を築き、スムーズに業務を進めることができるでしょう。
1.就労可能な業務範囲
特定技能「宿泊分野」の在留資格を持つ外国人材は、旅館・ホテルで働くことができますが、就労可能な業務範囲は決められています。
- 許可されている業務
フロント業務、接客業務、客室清掃、レストランサービスなど、旅館・ホテルにおける一般的な業務 - 許可されていない業務
風俗営業等の仕事、アルバイトや副業など
外国人材に許可されていない業務をさせてしまうと、法律違反となります。
採用前に就労可能な業務範囲をしっかりと確認し、外国人材にも理解させましょう。
また、外国人材に対して、以下の行為も禁止されています。
- 風俗営業法に規定する「接待」
お客様の飲食に侍る、遊興に付き合う、客と寝具を共にするといった行為
- 派遣労働者として受け入れる
特定技能制度では、外国人材と企業が直接雇用契約を結ぶことが求められています。
2.適切な就労状況の管理
外国人材の就労状況を適切に管理することは、企業の責任です。
- 在留管理局への届出
採用時や離職時など、外国人材の就労状況に変更があった場合は、入国管理局への届出が必要です。 - 不正就労の防止
許可されていない業務や就労時間外の労働をさせてはいけません。
外国人材が安心して働けるよう、就労状況を適切に管理し、必要なサポートを提供しましょう。
3.日本語レベルの確認
外国人材を採用する際は、日本語レベルをよく確認しましょう。
日本語能力試験に合格しているからといって、必ずしも仕事を問題なくできる日本語レベルに達しているとは限りません。 業務に必要な日本語レベルを習得しているか、面接の際に、実際に日本語で会話をして確認することが大切です。
もし、日本語レベルが不十分な場合は、日本語教育のサポートなどを強化しましょう。
外国人材が日本語を習得することで、結果的にコミュニケーションが円滑になり、業務効率の向上や安全確保にもつながります。
まとめ
この記事では、人材不足に悩む宿泊業の企業の皆様に向けて、特定技能制度を利用した外国人材の雇用がいかに有効な解決策となるかをご紹介しました。
外国人材の採用は、単なる人手不足の解消だけでなく、サービスの質向上、企業イメージの向上、従業員のモチベーション向上など、様々なメリットをもたらす可能性があります。
ぜひ、この記事を参考にして、外国人材の受け入れを検討してみてはいかがでしょうか?
新たな視点や発想を取り入れることで、今までにないサービスやビジネスチャンスが生まれるかもしれません。
外国人材の活躍が、宿泊業の未来を明るく照らしてくれることを願っています。