1. 受入れ可能な業務区分
漁業分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。
特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。
特定技能1号
| 区分 | 業務内容 | 主な作業内容例 |
|---|---|---|
| 漁業 | 漁具の製作・補修、漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保等 | 釣り・網・カゴによる魚介類の捕獲、漁具の修理、魚群探索、漁労機械の操作 |
| 漁獲物処理 | 漁獲物の選別、函詰め、冷凍、下処理、荷揚げ | |
| 関連業務 | 漁具・漁労機械の点検・換装、船体の補修・清掃、資材の仕込み、炊事・賄い | |
| 養殖業 | 養殖資材の製作・補修、水産動植物の育成管理、収獲・処理、安全衛生の確保等 | 魚類・貝類・藻類などの育成、給餌、水質管理 |
| 収獲・処理 | 養殖水産動植物の収獲、運搬、殻剥き | |
| 関連業務 | 養殖筏の製作・補修、種苗の生産・採捕、機械・設備の清掃・保守 |
特定技能2号
| 業務内容 | 主な作業例 | 作業内容例 |
|---|---|---|
| 特定技能1号の業務に加え、現場管理業務 | 漁業・養殖管理の監督 | 漁獲・養殖計画の作成補助、作業の指示・監督 |
| 品質・安全管理 | 漁獲物・養殖物の品質管理、漁船・作業現場の安全確保 |
ポイント
上記の主な作業に付随する関連業務も、主たる業務と同じ区分の作業として従事することが可能です。
2. 就業可能な場所
特定技能「漁業」分野では、基本的に全国の漁業・養殖業を営む事業所で就労可能です。ただし、以下の要件を満たす必要があります。
働ける場所
| 地域区分 | 内容 |
|---|---|
| 全国の漁業地域 | • 漁業法に基づく許可や漁業権を有している事業者であること • 漁業特定技能協議会に加入していること • 適切な労務・安全管理体制を整えていること |
| 半島・離島地域 | • 上記条件に加え、外国人の生活支援体制が整っていること • 派遣形態の場合は、派遣元の責任者が日帰りで適切な雇用管理が行える範囲内であること |
働けない場所・業務
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 業務区分による制限 | • 許可された業務区分以外の作業(例:漁船漁業の区分で取得した外国人を養殖業のみに従事させることは不可) • 関連業務のみに特化した業務(関連業務は主たる業務に付随する場合のみ可能) |
| 従事不可ポジション | • 船長 • 漁労長 • その他の主体的な指揮・監督ポジション(特定技能1号の場合) ※特定技能2号では「操業または養殖を指揮する者の補佐、作業員の指導及び作業工程の管理」が可能 |
| その他の不適切業務 | • 水産加工業のみの業務(※水産加工業は飲食料品製造業分野に含まれる) • 派遣先が認められた地域外の場合 • 受入れ機関が漁業特定技能協議会に未加入の場合 • 法令違反のある事業所 • 債務超過・賃金支払能力に問題のある事業所 |
3. 雇用形態の種類
特定技能「漁業」での就業は、全国の漁業地域で可能ですが、漁業特定技能協議会への加入や適切な支援体制の整備など、一定の条件を満たす必要があります。
業務区分(漁船漁業・養殖業)に応じた適切な就業場所での就労が求められ、特に派遣形態の場合は派遣元の責任者が適切に管理できる範囲内での就業となります。
直接雇用
特徴
- 漁業者・養殖業者が直接雇用
- 外国人は雇用主の指揮命令下で就労
就業場所の条件
- 雇用主が漁業法に基づく許可や漁業権を有していること
- 漁業特定技能協議会に加入していること
派遣雇用
特徴
- 派遣事業者が雇用主となり漁業者・養殖業者に派遣
- 派遣元は一定の要件を満たす必要あり(漁業関連業務者、地方公共団体出資団体等)
就業場所の条件
- 派遣先は日帰りで雇用管理が可能な範囲内であること
- 派遣先も協議会構成員に対する必要な協力が必要
- 対象魚種や漁法による繁閑に応じた柔軟な就労が可能
4. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる漁業経営体には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
| チェック項目 | 審査ポイント |
|---|---|
| 漁業経営の実態 | 漁業法に基づく許可や漁業権などを有していること |
| 経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
| 賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
| 社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
| 法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
| 担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(特に漁村部での住居確保に配慮)、生活オリエンテーション(日本の生活習慣、漁業特有のルール、安全指導など)、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応(母国語対応可能な体制が望ましい)、日本人従業員や地域住民との交流促進、転職支援(経営体都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 漁業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。また、船員法が適用される場合は、船員法に基づく労働時間管理が必要です。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や水産庁が提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で海上作業の安全対策、救命設備の使用法、緊急時の対応などの安全教育を徹底することが極めて重要です。
漁業特定技能協議会への加入と各種届出
協議会への加入
- 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 主催: 水産庁が設置
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
漁業は自然環境の影響を受けやすく、海上での危険作業も多いため、特に安全管理に注力する必要があります。適切な安全教育、救命設備の整備、緊急時の対応訓練などを、外国人材にもわかりやすく実施し、定期的に確認することが重要です。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
5. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般社団法人大日本水産会など
特定技能1号の場合
「漁業技能測定試験(漁船漁業または養殖業)」に合格していること
試験内容
「漁業」(漁具の取扱いや漁獲物の処理・鮮度管理など)および「養殖業」(種苗の生産、養殖管理、施設管理など)に関する基礎知識と技能。
※以下の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
| 業務区分 | 対応する技能実習職種 |
|---|---|
| 漁船漁業 | 漁船漁業職種(かつお一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、底曳網漁業、流し網漁業、かに・えびかご漁業) |
| 養殖業 | 養殖業職種(ほたてがい・まがき養殖、ほや養殖、くろまぐろ養殖、真珠養殖) |
特定技能2号の場合
「漁業技能測定試験(2号)」に合格していること。
試験内容
漁業分野の現場で指導・監督者として働くために必要な熟練した技能と高度な専門知識。1号の業務に加え、管理・マネジメント(作業工程管理、労務管理、品質管理、安全管理)に関する知識や、指導・監督能力が問われます。
日本語要件
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。ただし、技能実習2号または3号を良好に修了した者は、この日本語試験は免除されます。
キャリアパス
特定技能「漁業」分野は現在のところ特定技能1号のみとなっています。外国人材は最長5年間の在留が可能です。
日本で習得した漁業技術や資源管理の考え方を活かして、母国での漁業振興や関連産業での活躍も期待されています。また、日本の漁業分野の高度化や6次産業化に対応できる人材としての成長も見込まれます。
6. 外国人材の主な採用ルート
| ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
|---|---|---|---|
| ① 人材紹介会社の活用 | 漁業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。 | 3~6か月 | 採用ノウハウがなくても迅速に進められる |
| ② 登録支援機関の活用 | 本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。 | 4~8か月 | 法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる |
| ③ 海外からの直接採用 | 経営体が自らSNSや現地の漁業学校等を通じて募集し、オンライン面接等を経て採用。在留資格申請も自社で行います。 | 6~12か月 | 採用コストを抑制できる/自社の要件に合う人材を探しやすい |
| ④ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
| ⑤ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(アルバイト等)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
ルート選定のポイント
- スピードを重視するなら
→ ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 - 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
→ ② 登録支援機関 - コストを抑えたい、独自の採用要件があるなら
→ ③ 直接海外採用 - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 漁業経験者を採用したいなら
→ ④ 技能実習からの移行 または ③ 海外の漁業従事者からの直接採用
7. 採用から就労開始までの流れ
1.人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2.採用ルート選定・求人開始
上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3.候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4.雇用契約締結・協議会への入会
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。
重要
在留資格の申請前に、「漁業特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。
5.在留資格(特定技能1号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意
書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6.受入れ準備・支援計画の開始
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。
7.入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。
8. 漁業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
業務範囲の遵守
特定技能で許可された業務区分以外の作業に従事させることはできません。
例えば「漁船漁業」の区分で在留資格を取得した外国人を「養殖業」の業務のみに従事させることは認められていません。
主たる業務に付随する関連業務は認められていますが、明らかに別区分の業務は不可です。
漁業・海上作業の安全確保
漁業は特に安全面でのリスクが高い業種です。天候不良時の出漁判断、船上での安全確保、落水・海難事故防止、救命胴衣の着用徹底など、安全管理には特に注意が必要です。
外国人材には、日本語と母国語の両方で安全教育を実施し、十分に理解してもらうことが重要です。
漁村社会への融合
漁村は地域コミュニティのつながりが強い地域が多いため、外国人材が地域社会に溶け込めるよう、地域行事への参加機会の提供や、地域住民との交流イベントの開催などを積極的に行いましょう。
孤立を防ぎ、地域の一員として受け入れられることが、長期的な就労継続にもつながります。
季節変動への対応
漁業は季節や海況により出漁日数や漁獲量が変動します。
繁忙期・閑散期に応じた適切な労務管理と、年間を通した安定した雇用・収入の確保に留意しましょう。
特に、悪天候で出漁できない日の賃金や作業内容などについて、事前に雇用契約で明確にしておくことが重要です。
まとめ
特定技能「漁業」分野は、人手不足に悩む漁業経営体にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
日本の食料安全保障を支え、持続可能な漁業生産体制を維持するためには、外国人材の知識や技能、そして意欲を最大限に活かすことが重要です。
しかし、初めて外国人を受け入れる経営体向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人漁業者と外国人材が互いに尊重し合い、協力して豊かな海の恵みを守り育てていくことが、日本の漁業の持続的な発展と食料安全保障の確立に繋がるでしょう。