特定技能制度

農業

長期雇用・安定化。農業の「担い手不足」解消!

就農者の高齢化と後継者不足が深刻化する中、外国人材の活躍は日本の農業の持続的発展に不可欠な要素となっています。

特に「特定技能」制度は、即戦力となる外国人材を安定的に受け入れるための重要な選択肢です。
耕作放棄地の増加も懸念される中、持続可能な農業生産体制を維持し、食料自給率の向上を図るためには、 新たな担い手の確保が不可欠です。

本ガイドでは、特定技能制度を活用して外国人材を受け入れる際に、農業経営体が押さえておくべき最新情報と具体的なステップを分かりやすく解説します。

1. 受入れ可能な業務区分

農業分野は、特定技能1号および特定技能2号の両方の在留資格が認められています。

特定技能1号では現場の即戦力として、そして特定技能2号では熟練した技能を持つリーダー人材として、長期的な就労が可能です。

特定技能1号

区分業務内容主な作業内容例
耕種農業栽培管理、農産物の集出荷・選別等の農作業土壌づくり、施肥、種子・苗木の取扱い、資材・装置の取扱い、安全衛生業務
収穫・出荷収穫、運搬、選別、計量、箱詰め、包装
関連業務生産物の製造・加工、運搬・陳列・販売
畜産農業飼養管理、畜産物の集出荷・選別等の農作業器具の取扱い、個体の取扱い・観察、給餌、清掃
生産物取扱い搾乳作業、集卵作業、生産物の運搬・選別
関連業務生産物の製造・加工、運搬・陳列・販売

特定技能2号

業務内容主な作業例作業内容例
特定技能1号の業務に加え、現場管理業務栽培・飼養管理の監督栽培計画・飼養計画の作成補助、作業の指示・監督
品質・安全管理農畜産物の品質管理、作業現場の安全確保

ポイント

上記の主な作業に付随する関連業務も、主たる業務と同じ区分の作業として従事することが可能です。

2. 就業可能な場所

働ける場所

就労場所説明
耕種農業野菜や植物などを育てる仕事露地栽培、施設園芸、野菜、果樹、稲作など
畜産農業動物を飼育する仕事養豚、養鶏、酪農、養牛など
関連事業農畜産物の製造・加工、運搬、販売など農産物加工場、パックセンター、直売所など
出典:新たな外国人材受入れ制度に関するQ&A(農業)

働けない場所

就労場所説明
ゴルフ場ゴルフ場における芝・樹木の栽培管理は、娯楽業に該当するため
きのこ栽培(原木)原木を切り出してきのこを出荷する場合は林業に該当するため
造園業原則として対象外ですが、主な業務が耕種農業で関連業務として造園作業があり、日本人も通常業務として造園作業を行っている場合は従事可能
GPセンターでの卵の仕分け飲食料品製造業に該当
競馬・乗馬目的の馬の飼育畜産局競馬監督課に相談が必要
出典:新たな外国人材受入れ制度に関するQ&A(農業)

外国人を農業で雇う場合、耕種農業と畜産農業のどちらで受け入れるか迷う場合、その外国人材がどんな仕事をするかで決まります。

例えば、コントラクターやTMRセンターで働く場合を考えてみましょう。

  • 主に飼料作物を作っているなら 「耕種農業」
  • 家畜の世話や管理がメインなら 「畜産農業」 となります。

ただし、畜産農業で外国人を雇う場合は、必ず家畜の世話や管理の仕事が含まれていなければなりません。その他の例としては、養鶏場で鶏を捕まえるだけの仕事では、畜産農業で外国人を雇うことはできません。

このように、外国人を雇う際には、その人が実際に行う仕事内容をしっかり確認し、耕種農業と畜産農業のどちらで受け入れるべきかを判断する必要があります。

3. 雇用形態の種類

特定技能「農業」の外国人材は、大きく分けて、直接雇用と派遣形態の2つの働き方があります。

雇用形態概要特徴
直接雇用農家や農業法人に直接雇用される働き方雇用主と従業員の関係が明確。雇用された農場・法人で継続的に働く。
派遣形態派遣会社に雇用され、複数の農家に派遣されて働く形態雇用主は派遣会社。様々な農場での業務を経験できる。

派遣の場合、例えばある時期はイチゴ農家で収穫作業を行い、別の時期はトマト農家で栽培管理を行うなど、様々な農作業を経験することができます。
農業は季節によって仕事量が変動しますが、このように複数の農家で働くことで、年間を通して安定して就労できる可能性があります。

ただし、複数の場所で働くには、就労する場所や雇用形態によって条件がありますので、ご注意ください。

雇用形態働き方条件・注意点
直接雇用同一地域内での転職雇用契約終了後、同一地域内の別の農業者と雇用契約を結び、入管で手続き
直接雇用全国各地に圃場を持つ雇用主雇用主を変えずに全国各地で働ける
派遣複数の派遣先派遣会社に雇用され、複数の農家に派遣される
派遣全国規模の派遣農業団体の全国組織が派遣会社となり、全国各地に派遣される
直接雇用時期ごとに別の農場で働く時期ごとに働く農場と雇用契約を結び、入管の許可が必要
派遣時期ごとに別の農場で働く派遣元と派遣先で契約を結び、入管の許可が必要。新しい派遣先は都度届け出
その他JA等を通じた場合JA等が複数の農家から仕事を受託し、外国人は複数の農家の圃場で働く。農家は外国人に直接指示できず、JA等が指示を出す
全てのケース重要な注意点雇用契約で決められた仕事内容と場所で働く。複数の場所で働く場合は、それぞれの場所で働くための手続きが必要。労働基準法や出入国管理法などの法律を守る。
出典:新たな外国人材受入れ制度に関するQ&A(農業)

農業の現場で働く人材を雇用できる事業者は、農家だけではありません。
農業の生産・流通を支える多様な事業者が、農業に関連する業務で人材を雇用できます。

区分該当する事業者例業務例
農業関連業務を自ら行う事業者農機具の販売・修理業者、農業資材の販売業者、種苗販売業者 など農業資材や農機具の管理、販売、修理、顧客への指導 など
農家から請負って業務を行う事業者農作業受託(請負)業者、収穫物の運搬業者、農産物の加工業者 など耕うん・田植え・収穫などの農作業の実施、収穫物の集荷・運搬、簡易な加工 など
農家などを構成員とする団体農業協同組合(JA)、農業共済組合、土地改良区 など組合員(農家)への指導や資材供給、共済事務、地域の農地・水利管理 など

4. 受入企業に求められる条件

外国人材を特定技能として受け入れる農業経営体には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。

基礎的な条件

チェック項目審査ポイント
農業経営の実態適切に農業経営を行っていること
経営・財務の安定債務超過・滞納なし
賃金支払能力日本人同等以上の賃金テーブル提示
社会保険加入厚生年金・雇用保険など完備
法令違反歴過去5年に重大違反がない/是正済証明あり
担当者体制特定技能専任責任者を配置

外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)

外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。

主な支援内容 

事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(適切な住環境の提供または斡旋)、生活オリエンテーション(日本の生活ルール、交通ルール、ゴミ出し、銀行口座開設など)、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応(母国語対応可能な体制が望ましい)、日本人従業員や地域住民との交流促進、転職支援(経営体都合離職の場合)、定期的な面談。

面談 

支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。

労務・安全衛生体制

賃金水準 

日本人と同等以上の処遇が必須です。 農業分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。

労働時間 

時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。 適切な労務管理が求められます。

安全衛生教育 

厚生労働省や農林水産省が提供する多言語対応の安全衛生教材やリーフレットを活用し、外国人材が理解できる言語で農作業事故防止、熱中症対策などの安全教育を徹底することが極めて重要です。

農業特定技能協議会への加入と各種届出

協議会への加入 

  • 時期: 外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
  • 主催: 農林水産省が設置

 年次報告 

事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、協議会へ報告が必要です。

各種届出

雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。

リスク管理

適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。

5. 外国人材の要件

技能試験

試験実施機関

一般社団法人全国農業会議所など 

特定技能1号の場合

「農業技能測定試験(耕種農業または畜産農業)」に合格していること。

試験内容

「耕種農業全般」(栽培管理、農作業安全など)および「畜産農業全般」(飼養管理、衛生管理など)に関する基礎知識と技能。

※以下の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。

業務区分対応する技能実習職種
耕種農業全般耕種農業(施設園芸、畑作・野菜、果樹など)
畜産農業全般畜産農業(酪農、養豚、養鶏など)

特定技能2号の場合

「農業技能測定試験(2号)」に合格していること。

試験内容

農業分野の現場で指導・監督者として働くために必要な熟練した技能と高度な専門知識。1号の業務に加え、管理・マネジメント(作業工程管理、労務管理、品質管理)に関する知識や、指導・監督能力が問われます。

日本語要件

「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。ただし、技能実習2号または3号を良好に修了した者は、この日本語試験は免除されます。

キャリアパス

特定技能「農業」分野は現在のところ特定技能1号のみとなっています。外国人材は最長5年間の在留が可能です。

日本で習得した農業技術や経営ノウハウを活かして、母国での就農や関連産業での活躍も期待されています。また、日本の農業分野のスマート化や6次産業化に対応できる人材としての成長も見込まれます。

6. 外国人材の主な採用ルート

ルート概要標準所要期間※主なメリット
① 人材紹介会社の活用農業に特化した紹介会社などが、候補者探しから入管手続きのサポートまで代行します。3~6か月採用ノウハウがなくても迅速に進められる
② 登録支援機関の活用本来の支援業務(10項目)に加え、人材紹介機能を持つRSOも多く存在します。4~8か月法令遵守(コンプライアンス)を担保しやすい/支援業務を委託できる
③ 海外からの直接採用経営体が自らSNSや現地の大学等を通じて募集し、オンライン面接等を経て採用。在留資格申請も自社で行います。6~12か月採用コストを抑制できる/自社の要件に合う人材を探しやすい
④ 技能実習生からの移行自社または他社で技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。1~3か月即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている
⑤ 留学生からの採用(在留資格変更)日本国内の留学生(アルバイト等)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。2~4か月日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能
※必要書類が全て揃い、候補者が試験に合格している場合の、手続き開始から就労開始までの標準的な目安期間です。

ルート選定のポイント

  • スピードを重視するなら
    → ① 人材紹介会社 または ④ 技能実習からの移行 
  • 社内の採用・支援リソースが不足しているなら
    → ② 登録支援機関 
  • コストを抑えたい、独自の採用要件があるなら
    → ③ 直接海外採用
  •  日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
    → ⑤ 留学生からの採用

7. 採用から就労開始までの流れ

1.人員計画・業務区分の確定 

どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。

2.採用ルート選定・求人開始 

上記の「5つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。

3.候補者の面接・能力確認 

面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。

4.雇用契約締結・協議会への入会 

採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結します。 

重要

在留資格の申請前に、「農業特定技能協議会」への加入手続きを完了させておく必要があります。

5.在留資格(特定技能1号)の申請 

必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」) 

注意

書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。

6.受入れ準備・支援計画の開始 

在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。

7.入国・就労開始 (海外からの場合)

来日時の空港への出迎えを行います。

8. 農業特有の留意点とコンプライアンス

特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。

業務範囲の遵守

特定技能で許可された業務区分以外の作業に従事させることはできません。
例えば「耕種農業全般」の区分で在留資格を取得した外国人を「畜産農業全般」の業務のみに従事させることは認められていません。
主たる業務に付随する関連業務は認められていますが、明らかに別区分の業務は不可です。

派遣形態の活用

農業分野では、季節による作業量の変動に対応するため、労働者派遣契約に基づく受け入れも一定の条件下で認められています。
この場合、派遣元となる労働者派遣事業者が支援義務などを負うことになります。派遣可能な期間や条件については、農林水産省の最新の指針を確認してください。

季節変動への対応

農業は季節により作業量や内容が大きく変動します。繁忙期・閑散期に応じた適切な労務管理と、年間を通した安定した雇用・収入の確保に留意しましょう。

地域との共生

農業経営体は地域社会と密接に関わっています。外国人材が地域の一員として受け入れられるよう、地域行事への参加や交流機会の創出など、地域住民との共生を促進することが重要です。

まとめ

特定技能「農業」分野は、人手不足に悩む農業経営体にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。

日本の食料安全保障を支え、持続可能な農業生産体制を維持するためには、外国人材の知識や技能、そして意欲を最大限に活かすことが重要です。

しかし、初めて外国人を受け入れる経営体向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。

本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。

言語や文化の違いを乗り越え、日本人農業者と外国人材が互いに尊重し合い、協力して豊かな実りを生み出していくことが、日本の農業の持続的な発展と食料安全保障の確立に繋がるでしょう。

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