在留資格「技術・人文知識・国際業務」とは
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格は、高度な専門性や技術を持った外国人材が日本で活躍するための制度です。
特定技能制度が「人手不足解消」を主な目的とするのに対し、高度人材制度は「専門性の活用」と「企業の競争力強化」を目的としている点が大きく異なります。
- 専門性の活用(大学・専門学校卒以上の学歴や実務経験を持つ人材を受入)
- 長期就労(更新による上限なし、高度専門職への移行で優遇措置も)
- グローバル展開(語学力や国際感覚を活かした業務での活躍)
高度人材制度の流れ
準備期
・採用要件検討
・人材募集開始
・COE申請1年目
・雇用開始
・社内サポート
・行政手続き2年目
・業務拡大
・定期面談3年目
・在留更新申請
・キャリア面談4~5年目
・専門性向上
・管理職登用検討高度専門職
・永住も視野(ポイント制)
技術・人文知識・国際業務と高度専門職の違い
項目 | 技術・人文知識・国際業務 | 高度専門職 |
---|---|---|
在留期間 | 1年、3年、5年(更新可) | 1号:5年間 2号:無期限 |
技能水準 | 大卒/専門学校卒以上または同等の実務経験 | ポイント制で70点以上 |
活動範囲 | 資格に定められた活動のみ | 複合的な在留活動が可能 |
家族帯同 | 配偶者・子のみ可能 | 配偶者・子・親も可能 |
永住申請 | 原則10年以上の在留 | 高度専門職1号で3年以上 |
その他特典 | なし | 家事使用人雇用可能 入国・在留手続の優先処理 |
入国前の手続き
手続き名 | 窓口 | 6ヵ月前 | 5ヵ月前 | 4ヵ月前 | 3ヵ月前 | 2ヵ月前 | 1ヵ月前 |
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人材要件定義・採用活動 | 受入企業 | 開始 | |||||
雇用契約締結 | 受入企業 | 締結 | |||||
在留資格認定証明書交付申請 | 出入国在留管理局 | 申請 | |||||
査証申請 | 在外日本国公館 | 申請 | |||||
来日準備(住居・生活備品等) | 受入企業 | 準備 |
技術・人文知識・国際業務 在留資格 申請準備
標準作成期間:1〜2ヵ月程度
高度人材の入国予定日の3〜6ヵ月前までに準備を開始します。
採用基準の明確化から、候補者の選定、必要書類の収集まで計画的に進めます。
雇用契約締結
高度人材と雇用条件について合意し、雇用契約を締結します。
専門性に見合った報酬額を設定することが重要です(日本人と同等以上)。
職務内容が在留資格の活動内容と合致していることを確認します。
在留資格認定証明書交付申請
標準審査期間:1〜3ヵ月
雇用契約書、申請人の学歴・職歴証明書、会社の決算書類等を提出します。
「技術・人文知識・国際業務」の該当性を証明する資料が重要です。
作成する書類は多岐にわたるため、行政書士等の専門家に相談することも検討しましょう。
査証申請
標準審査期間:5営業日
在留資格認定証明書の交付後、本人が在外日本国公館で申請します。
国によって必要書類が異なる場合があるので注意が必要です。
来日準備(住居・生活備品等)
住居の確保、生活必需品の準備、空港送迎の手配を行います。
生活オリエンテーション資料の準備も並行して進めます。
高度人材の文化的背景や生活習慣に配慮した準備を検討しましょう。
高度人材の採用ルート
高度人材を採用するには、いくつかのルートがあります。自社に最適な方法を選びましょう。
1. 国内からの採用
日本の大学・大学院で学んだ外国人留学生
- すでに日本での生活経験があり、日本語能力も一定レベル以上ある場合が多い
- 新卒採用と同様のルートで採用可能
すでに日本で就労している外国人材
- 転職市場からの採用
- 実績があり、すでに日本での就労経験を持つ人材を確保できる
2. 海外からの採用
海外の大学・大学院卒業生
- 最新の専門知識や技術を持つ人材の獲得が可能
- 各国の大学と連携したりリクルーターを活用することで効率的に採用活動が行える
海外企業での実務経験者
- 専門分野での即戦力となる人材の獲得
- 国際的なネットワークや知見を持つ人材の確保
3. 採用支援サービスの活用
グローバル人材紹介会社
- 高度外国人材に特化した人材紹介サービス
- 候補者の選定から入社後のフォローまでサポートしてくれる
大学・教育機関との連携
- インターンシップの受入れや大学との協定など、継続的な採用パイプラインの構
- 留学生向けの就職セミナーやキャリアフェアへの参加
入国後〜就労1年目
手続き名 | 窓口 | 入国直後 | 1〜3ヵ月目 | 4〜6ヵ月目 | 7〜9ヵ月目 | 10〜11ヵ月目 | 12ヵ月目 |
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住民登録 | 市区町村役所 | 登録 | |||||
社会保険・雇用保険加入 | 年金事務所・ハローワーク | 加入 | |||||
銀行口座開設 | 金融機関 | 開設 | |||||
初期オリエンテーション | 受入企業 | 実施 | |||||
OJT・業務トレーニング | 受入企業 | 実施 | |||||
定期面談 | 受入企業 | 実施 | 実施 | 実施 | 実施 | 実施 | |
キャリア開発計画策定 | 受入企業 | 策定 |
住民登録
入国後14日以内に、居住地の市区町村役場で住民登録を行います。
在留カード、パスポートを持参します。
社会保険・雇用保険加入
就労開始と同時に社会保険(健康保険・厚生年金)と雇用保険に加入する手続きを行います。
加入証明書のコピーは記録として保管します。
銀行口座開設
給与振込や生活費の管理のために銀行口座を開設します。
外国人向けサービスのある銀行を選ぶと便利です。
初期オリエンテーション
会社概要、ビジネスマナー、社内ルールなどの基本情報を提供します。
生活面の基本情報(交通機関の利用方法、緊急連絡先など)も伝えます。
OJT・業務トレーニング
業務に必要な知識やスキルを計画的に習得できるよう支援します。
定期的な進捗確認と必要に応じたサポートを行います。
定期面談
月1回など定期的に面談を行い、業務の進捗や課題、生活面での困りごとなどをヒアリングします。
面談結果を記録し、必要な対応を行います。
キャリア開発計画策定
中長期的なキャリア目標や成長計画について話し合います。
高度専門職への移行も視野に入れた計画を立てることも検討します。
就労2年目〜移行
手続き名 | 時期 | 内容 |
---|---|---|
在留期間更新申請 | 期間満了3ヵ月前〜 | 1〜5年ごとの更新手続き |
定期キャリア面談 | 年1〜2回 | キャリア計画の振り返りと更新 |
高度専門職ポイント評価 | 随時 | 高度専門職への移行を希望する場合に実施 |
高度専門職への在留資格変更 | ポイント70点以上獲得後 | 高度専門職のメリットを活用 |
永住許可申請 | 高度専門職1号から3年以上など | 安定した在留資格の取得 |
在留期間更新申請
標準審査期間:2〜4週間
在留期間満了の3ヵ月前から申請可能です。更新申請時には、専門的な業務に従事していることの証明や報酬額の妥当性などが審査されます。
定期キャリア面談
年に1〜2回、定期的にキャリア面談を実施します。これまでの成果や今後のキャリア目標について話し合います。
高度専門職へのキャリアパスや専門性の向上について検討します。
高度専門職ポイント評価
高度専門職への移行を希望する場合、ポイント制による評価を行います。
学歴、職歴、年収、資格、日本語能力などの項目でポイントが加算され、70点以上で認定されます。自己評価シートで事前にポイント数を確認することができます。
高度専門職への在留資格変更
移行要件
- 高度人材ポイント制で70点以上を獲得
- 日本において行おうとする活動が申請人の有する専門知識・技術を活かすものであること
- 公共の利益に資する活動であること
- 素行が善良であること
- 納税義務を履行していること
メリット
- 在留期間が最長5年(1号)または無期限(2号)
- 複合的な在留活動が可能(例:本業の傍ら経営・管理活動も可能)
- 親の帯同や家事使用人の帯同が認められる場合がある
- 永住許可申請の要件が緩和される(高度専門職1号で3年以上の在留で申請可能)
永住許可申請
一般の場合は10年以上の在留期間が必要ですが、高度専門職1号から3年以上日本に在留している場合は早期に申請が可能です。
素行が善良で独立生計を営む能力があることなどの要件を満たす必要があります。永住許可を得ると在留期間の制限がなくなり、更新手続きが不要になります。
高度人材ポイント制度の概要
高度人材ポイント制度は、高度な能力や専門知識を持つ外国人材をより積極的に受け入れるための制度です。学歴、職歴、年収などの項目ごとにポイントが設定されており、合計70点以上で「高度専門職」として認められます。
高度専門職ポイント評価の例
例1:IT技術者の場合
- 修士号取得(20点)
- 職歴5年(15点)
- 年収700万円(30点)
- 32歳(10点)
- 日本語能力N2(10点)
- 合計:85点 ⇒ 高度専門職の要件を満たす
例2:国際ビジネスパーソンの場合
- 学士号取得(10点)
- 職歴8年(20点)
- 年収850万円(40点)
- 36歳(5点)
- 日本語能力N1(15点)
- 合計:90点 ⇒ 高度専門職の要件を満たす
高度人材受入れに関する主な届出義務
高度人材を受け入れる企業には、いくつかの届出義務があります。
届出名 | 提出時期 | 提出先 | 備考 |
---|---|---|---|
外国人雇用状況の届出 | 雇入れ・離職から14日以内 | ハローワーク | 全ての外国人に必要 |
勤務地・職務内容変更の届出 | 変更から14日以内 | 出入国在留管理局 | 在留資格に関わる変更時 |
雇用契約終了の届出 | 契約終了から14日以内 | 出入国在留管理局 | 期間満了・解約等 |
住所変更の届出 | 変更から14日以内 | 市区町村役場 | 高度人材本人が行う |
まとめ
高度人材(技術・人文知識・国際業務)の受け入れは、企業にとって専門性の獲得やグローバル展開の加速、イノベーション促進など多くのメリットをもたらします。手続きは複雑に感じるかもしれませんが、ポイントを押さえれば決して難しくありません。
特に、「高度専門職」という在留資格への移行を見据えたサポートを行うことで、長期的に活躍できる環境を整えることが重要です。
まずは、貴社の受け入れ目的や求める人材像を明確にし、必要に応じて行政書士など専門家へ早めに相談することがスムーズな高度人材受入れへの近道です。
高度人材の受け入れは、単なる「人材確保」ではなく、企業の成長戦略の一環として位置づけることで、真の効果を発揮します。