1. 受入れ可能な業務区分
特定技能の外国人ができる建設業務は、大きく分けて3区分(①土木 ②建築 ③ライフライン・設備)に分けられています。
業務区分 | 主な作業内容 |
---|---|
土木 | 型枠施工、コンクリート圧送、トンネル推進工、建設機械施工、土工、鉄筋施工、とび、海洋土木工 |
建築 | 型枠施工、左官、コンクリート圧送、屋根ふき、土工、鉄筋施工、鉄筋継手、内装仕上げ、表装、とび、建築大工、建築板金、吹付ウレタン断熱 |
ライフライン・設備 | 電気通信、配管、建築板金、保温保冷 |
ポイント
上記の主な作業に付随する関連業務(資材運搬、片付け、清掃など)も、主たる業務と同じ区分の作業として従事することが可能です。
例えば、「土木」の仕事で来てもらった人には、土木の作業に関連する資材運びや掃除、簡単な足場の組み立てなども頼めますが、「土木」で来た人に「建築」の専門的な作業だけをさせる、ということはできません。
2. 就業可能な場所
特定技能「建設業」分野における外国人材の就業場所については、以下のポイントを把握しておくことが重要です。
働ける場所
カテゴリ | 具体例 |
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建設現場全般 | 土木工事、建築工事、ライフライン・設備工事など、業務区分に対応した現場 |
公共工事および民間工事 | 道路、橋梁、トンネル、上下水道、建築物の新築・改修・解体など |
元請・下請を問わず | 元請企業および下請企業の現場での就労が可能。ただし、下請企業での就労の場合、元請企業が就労状況を把握・管理する必要があります。 |
働けない場所
カテゴリ | 内容 |
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業務区分に該当しない作業 | 取得した業務区分に含まれない作業への従事 |
関連業務のみの従事 | 資材運搬、清掃、片付けなどの関連業務のみを行うこと |
派遣労働 | 派遣会社を通じた派遣労働者としての就労 |
建設業許可を受けていない事業所 | 建設業法に基づく許可を受けていない事業所での就労 |
建設キャリアアップシステム(CCUS)未登録の事業所 | CCUSに登録されていない事業所での就労 |
3. 受入企業に求められる条件
外国人材を特定技能として受け入れる建設企業には、様々な条件や義務が課せられます。しっかり準備を進めましょう。
基礎的な条件
チェック項目 | 審査ポイント |
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建設業許可 | 原則として、建設業法に基づく建設業許可を受けていること |
JAC会員登録 | 一般社団法人建設技能人材機構(JAC)の正会員または賛助会員であること |
経営・財務の安定 | 債務超過・滞納なし |
賃金支払能力 | 日本人同等以上の賃金テーブル提示 |
社会保険加入 | 厚生年金・雇用保険など完備 |
法令違反歴 | 過去5年に重大違反がない/是正済証明あり |
担当者体制 | 特定技能専任責任者を配置 |
CCUS登録 | 建設キャリアアップシステムに登録していること(企業および外国人材本人) |
外国人材への支援体制(法律で定められた10項目の義務)
外国人材が日本で安定して働き、生活できるように、以下の10項目の支援を行う義務があります。 これらの支援は、自社で行うか、国に登録された「登録支援機関」に委託することができます。
主な支援内容
事前ガイダンス、出入国時の送迎、住居確保の支援(保証人になる等)、生活オリエンテーション、公的手続きへの同行、日本語学習機会の提供、相談・苦情への対応、日本人との交流促進、転職支援(企業都合離職の場合)、定期的な面談。
面談
支援責任者は、外国人材と3ヶ月に1回以上の頻度で面談し、その記録を5年間保管する必要があります。
労務・安全衛生体制
賃金水準
日本人と同等以上の処遇が必須です。 建設分野の特定技能外国人の平均賃金(目安)は地域や職種によって異なりますが、賞与や各種手当も日本人と同等の基準で支給する必要があります。
労働時間
時間外労働が月80時間を超えるような状況が常態化していると、在留資格の更新時に労働基準監督署などから是正指導が入る可能性があります。 適切な労務管理が求められます。
安全衛生教育
厚生労働省や国土交通省、JACが提供する多言語対応の安全衛生教材を活用し、外国人材が理解できる言語で建設機械の安全な操作方法、高所作業の注意点、防護具の使用方法などの安全教育を徹底することが極めて重要です。JACはオンラインでの特別教育や技能訓練なども提供しています。
JAC(建設技能人材機構)への加入と各種届出
JACへの加入
- 時期:外国人材の在留資格を申請する前に、加入申請を完了させる必要があります。
- 会員種別:正会員または賛助会員
年次報告
事業年度終了後3ヶ月以内に、特定技能外国人の受入れ状況や支援状況について、報告が必要です。
各種届出
雇用契約内容の変更、離職、支援計画の変更などがあった場合は、14日以内に出入国在留管理庁へ届け出る必要があります。
リスク管理
建設業は、特に安全面でのリスクが高い業種です。外国人材に対しても、安全教育・訓練、危険予知活動、熱中症対策、墜落・転落防止対策などを徹底する必要があります。
また、適切な労務管理や支援計画の実施状況についても、厳しい監督・指導が行われることが想定されます。賃金台帳や支援記録などを定期的に(例えば四半期ごとに)自己点検し、法令遵守の状況を確認することが重要です。
4. 外国人材の要件
技能試験
試験実施機関
一般社団法人建設技能人材機構(JAC)
特定技能1号の場合
「建設分野特定技能1号評価試験」に合格していること。
試験区分
各職種(作業区分)ごとに実施
試験内容
各業務に必要な専門知識と実技能力を評価
※建設分野の技能実習2号・3号を良好に修了した方は、技能試験が免除されます。
業務区分 | 対応する技能実習職種・作業例 |
---|---|
土木 | 型枠施工、コンクリート圧送、建設機械施工、土工、鉄筋施工、とび、さく井工事、舗装工事、しゅんせつ工事、造園工事、海洋土木工事 |
建築 | 型枠施工、左官、コンクリート圧送、屋根ふき、土工、鉄筋施工、鉄筋継手、内装仕上げ、表装、とび、建築大工、建築板金、吹付ウレタン断熱、石工事、タイル・レンガ・ブロック工事、ガラス工事、解体工事、板金工事、熱絶縁工事、管工事 |
ライフライン・設備 | 電気通信、配管、建築板金、保温保冷、電気工事、水道施設工事、消防施設工事、清掃施設工事 |
特定技能2号の場合
「建設分野特定技能2号評価試験」に合格していること。
試験内容
より高度な専門知識と技能、現場のリーダーとしての能力を評価
日本語要件
特定技能1号の場合
「国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)」または「日本語能力試験(JLPT) N4」以上の合格が必要です。 ただし、建設分野の技能実習2号または3号を良好に修了した者は、日本語試験が免除されます。
特定技能2号の場合
特定技能2号評価試験の中で、必要な日本語能力が確認されます。
キャリアパス
建設分野では、特定技能1号から2号へのステップアップが可能です。
特定技能1号で一定期間経験を積み、2号評価試験に合格することで、より高度な技能を持つ現場のリーダーとしてのキャリアアップが期待できます。特定技能2号では在留期間の更新に上限がなく、家族帯同も可能となるため、長期的なキャリア形成が可能になります。
建設分野は、特定技能2号の対象職種が最も多い分野の一つであり、外国人材にとって長期的なキャリアパスを描きやすい環境が整備されています。また、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録により、技能と経験が適正に評価され、キャリア形成の見える化も図られています。
5. 外国人材の主な採用ルート
ルート | 概要 | 標準所要期間※ | 主なメリット |
---|---|---|---|
① 無料職業紹介/JAC採用支援サービスの活用 | JACが提供する「特定技能人材採用支援サービス」を利用して候補者を探します。JACのウェブサイトでは求人情報の掲載や求職者とのマッチング支援も行っています。 | 3~6か月 | 業界団体のサポートを受けられる/制度の専門家によるアドバイスが得られる |
② 海外からの直接採用 | 企業が自らSNSや現地の教育機関等を通じて募集し、オンライン面接等を経て採用。在留資格申請も自社で行います。 | 6~12か月 | 採用コストを抑制できる/自社の要件に合う人材を探しやすい |
③ 技能実習生からの移行 | 自社または他社で建設分野の技能実習2号を「良好に」修了した人材は、技能試験・日本語試験が免除されます。 | 1~3か月 | 即戦力として期待できる/日本の文化や職場に慣れている |
④ 留学生からの採用(在留資格変更) | 日本国内の留学生(アルバイト等)が、特定技能に必要な技能試験・日本語試験に合格した場合に採用します。 | 2~4か月 | 日本語能力が高い場合が多い/国内で面接可能 |
※必要書類が全て揃い、候補者が試験に合格している場合の、手続き開始から就労開始までの標準的な目安期間です。
<ルート選定のポイント>
- スピードを重視するなら
→ ① JAC採用支援サービス または ④ 技能実習からの移行 - コストを抑えたい、独自の採用要件があるなら
→ ③ 直接海外採用 - 日本語でのコミュニケーション能力を特に重視するなら
→ ⑤ 留学生からの採用 - 特定の職種の経験者を採用したいなら
→ ④ 技能実習からの移行
6. 採用から就労開始までの流れ
1. 人員計画・業務区分の確定
どの業務区分で、何名の特定技能人材が必要かを明確にします。
2. JAC会員登録・採用ルート選定
JACの正会員または賛助会員として登録し、上記の「4つの主な採用ルート」を参考に、自社に合った方法を選び、候補者探しを開始します。
3. 候補者の面接・能力確認
面接を実施し、業務に必要な技能レベルや日本語能力(特に安全指示の理解度)を確認します。オンライン面接も活用できます。
4. 雇用契約締結・支援計画策定
採用が内定したら、労働条件を明示した雇用契約を締結し、外国人材のための支援計画を策定します。
5. 在留資格(特定技能1号または2号)の申請
必要な書類を準備し、出入国在留管理庁へ申請します。(海外から呼ぶ場合は「在留資格認定証明書交付申請」、国内在住者を採用する場合は「在留資格変更許可申請」)
注意: 書類に不備があると、追加の問い合わせ(照会)などで1~2ヶ月程度手続きが遅延する可能性があります。入念なチェックが必要です。
6. 受入れ準備・支援体制の構築
在留資格が許可される見込みが立ったら、住居の確保、銀行口座開設補助、生活オリエンテーションの準備など、事前に定めた支援計画に基づき、受け入れ準備を進めます。建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録手続きも行います。
7. 入国・就労開始 (海外からの場合)
来日時の空港への出迎えを行います。 就労開始前に、安全衛生教育や現場ルールの説明などをしっかり実施しましょう。
7. 建設業特有の留意点とコンプライアンス
特定技能制度の適正な運用のため、以下の点に特に注意が必要です。
業務範囲の遵守
特定技能で許可された業務区分以外の作業に従事させることはできません。例えば「型枠施工」の区分で在留資格を取得した外国人を「鉄筋施工」の業務のみに従事させることは認められていません。主たる業務に付随する関連業務は認められていますが、明らかに別分野の業務は不可です。
安全最優先の現場管理
建設業は労働災害リスクが高い業種です。外国人材に対しては、言語の壁を考慮した安全教育(母国語または簡単な日本語での説明、視覚資料の活用など)、適切な保護具の確実な着用、危険個所の明示、定期的な安全パトロールなどを徹底することが極めて重要です。
現場間移動への配慮
建設業は工事現場が変わることが一般的です。外国人材が新しい現場に配属される際には、現場固有の危険ポイントや作業手順、緊急時の避難経路などを丁寧に説明するとともに、通勤経路の確認や交通手段の確保なども支援しましょう。
天候不良時の対応
屋外作業が中心の建設業では、悪天候による作業中止も想定されます。賃金の取扱い(休業手当など)や代替業務の有無などについて、事前に雇用契約等で明確にしておくことが重要です。また、極端な暑さや寒さへの対策(熱中症予防、防寒対策など)も徹底しましょう。
CCUSの活用
建設キャリアアップシステム(CCUS)を活用し、外国人材の技能と経験を適正に評価・記録することで、将来的なキャリアアップや技能向上への動機付けにつなげましょう。JACはCCUS登録費用の助成なども行っています。
まとめ
特定技能「建設」分野は、人手不足に悩む建設企業にとって、重要な人材確保の選択肢となり得ます。
日本の社会基盤を構築・維持するため、外国人材の専門技能や意欲は大きな戦力となります。特に特定技能2号の導入により、経験を積んだ外国人材が現場のリーダーとして活躍し、より長期間にわたり日本の建設産業を支える道が開かれました。
しかし、初めて外国人を受け入れる企業向けに制度を正しく活用するには、制度の正確な理解、周到な準備、そして受入れ後の継続的なサポートが不可欠です。JACという業界全体の支援機関を最大限に活用することも重要です。
本ガイドで示した情報を参考に、自社の状況に合わせた採用計画を立て、コンプライアンスを遵守しながら、特定技能人材が持つ能力を最大限に引き出し、共に成長できる体制を構築してください。
言語や文化の違いを乗り越え、日本人技能者と外国人材が互いに尊重し合い、協力して安全で良質な建設工事を実現していくことが、日本の建設業界の持続的な発展と国土強靭化に繋がるでしょう。