1. 制度の目的と背景
2019年に創設された特定技能制度は、「技能実習=国際貢献モデル」だけでは補えなくなった労働力不足に対応するために生まれました。
我が国の少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少は、多くの産業分野で深刻な人手不足を引き起こしています。そこで誕生した特定技能制度は、人手不足が特に顕著な特定の産業分野において、即戦力となる外国人材を受け入れ、「日本の産業に貢献してもらうこと」を明確な目的としています。
特定技能制度が生まれた背景
- 深刻化する国内の人手不足を補う
- 「育成→現場定着」を明確にした労働力確保の制度
- 日本語・技能レベルを事前に確認し、ミスマッチを防止
「働くこと」を前提とした在留資格
技能実習制度が「学ぶこと」が主目的であったのに対し、特定技能制度は「働くこと」が主目的です。
現場で求められる技能・日本語水準を重視
特定技能の在留資格を取得するには、各分野の専門的な技能と、業務上必要な日本語能力があることを証明する必要があります。これにより、受入れ後のミスマッチを防ぎ、外国人材が現場で早期に活躍できるようになります。
長期的なキャリアパスを提供
特定技能制度には1号と2号という区分があり、特に2号の取得は将来的な永住にも繋がる道が開かれています。外国人材に日本で長くキャリアを築いてもらうことが期待できます。
2. 特定技能制度の全体像
特定技能の区分
特定技能制度は、「特定技能1号」と「特定技能2号」に分かれています。
特定技能1号は、特定分野で一定の技能を持つ外国人材向けの区分で、まずは最長5年間、日本の企業で働くことができます。
一方、特定技能2号は、さらに熟練した技能を持つ外国人材向けの区分であり、在留期間に上限がないため、より長期的に日本で活躍してもらうことが可能です。
滞在・更新期間や家族帯同
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
在留期間 | 1年/6か月/4か月 | 3年/1年/6か月 |
通算上限 | 5年 | 制限なし |
家族帯同 | 不可 | 配偶者・子ども可 |
更新条件 | 技能・労務状況を確認 | 熟練技能の維持 |
在留満了後の選択肢
1号から2号への移行
特定技能1号で5年間滞在した後、より高いレベルの技能試験に合格するなど、特定技能2号の要件を満たせば、2号へ移行することができます。
2号の在留継続と永住の可能性
特定技能2号に移行すると、在留期間の上限がなくなるため、事実上、継続して日本で働くことが可能になります。さらに、特定技能2号として一定期間(通常10年)日本に在留するなど、他の要件も満たせば、将来的に永住許可を申請することも可能です。
外国人材に日本で長期的に安定した生活基盤を築いてもらう上でも大きな魅力となります。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
---|---|---|
技能 | 現場レベル | 熟練レベル |
日本語 | N4相当以上 | 要件なし※ |
3. 対象業種(16分野・2025年4月現在)
分野 | 主な業務例(代表) | 2号への移行可否 |
---|---|---|
介護 | 入浴・排泄・食事介助、生活支援、レクリエーション補助 | ×(「介護」資格にステップアップ) |
ビルクリーニング | 床清掃・ワックス掛け、ガラス・トイレ清掃、設備点検 | ○ |
工業製品製造業 (素形材・産業機械・電気電子) | 鋳造・鍛造・溶接、機械組立・保全、プリント基板実装 | ○ |
建設 | 型枠・鉄筋・左官・配管・トンネル施工、現場管理補助 | ○ |
造船・舶用工業 | 溶接、塗装、鋼材加工、艤装配管、船体ブロック組立 | ○ |
自動車整備 | 車検・定期点検、故障診断、分解整備、部品交換 | ○ |
航空 | グランドハンドリング(手荷物・貨物)、機体整備補助、機内清掃 | ○ |
宿泊 | フロント・予約・接客、宴会・客室サービス、施設管理 | ○ |
農業 | 施設園芸、畑作・果樹、畜産飼育、集出荷・選別 | ○ |
漁業 | 沿岸・沖合漁業、養殖管理、水産加工、漁網補修 | ○ |
飲食料品製造業 | 食品加工・調理、包装・検品、ライン保全、品質管理 | ○ |
外食業 | 調理、接客、配膳、店舗運営補助、メニュー開発補助 | ○ |
鉄道 | 駅務(改札・案内)、車両整備、軌道・電気設備保守 | × |
林業 | 育林(植栽・下刈り・間伐)、伐採、素材運搬、機械オペ | × |
自動車運送業 | バス・タクシー・トラック運転、積卸し、配車・ルート管理 | × |
木材産業 | 製材・合板製造、木材乾燥・加工、品質検査、安全管理 | × |
製造業、建設、農業、介護、外食業など、幅広い分野で特定技能外国人材が活躍しています。
特に介護分野は高齢化の進展により、飲食料品製造業や外食業は日常的な需要から、建設分野はインフラ整備や災害復旧のニーズから、採用のニーズが非常に高まっています。
2025年には、輸送安全策定の進展を踏まえ自動車運送業も新たに追加されるなど、今後も対象分野が拡大する可能性があります。
4. 技能試験・日本語試験の概要
特定技能の在留資格を取得するためには、原則として各分野の技能試験と日本語能力を測る試験に合格する必要があります。(技能実習2号修了者は同業種の場合は試験免除)
技能試験
- 分野別に国内外で実施される専門試験(例:介護分野は「介護技能評価試験」)
- 基本的に学科試験と実技試験の2部構成
- 合格後4年以内に在留資格申請が必要
日本語試験
- 日本語能力試験(JLPT)N4 または 国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)A2レベル
- 介護分野は追加で「介護日本語評価試験」も必要
すでに日本で技能実習2号を良好に修了した外国人材は、特定技能1号の技能試験と日本語試験が免除されます。自社で技能実習生を受け入れている場合は、実習修了後に特定技能へスムーズに移行してもらうことで、採用コストを抑えつつ、育成してきた人材に長く活躍してもらうことが可能になります。
5. 受入れ可能人数
特定技能制度では、企業ごとの受入れ人数に基本的な上限はありません。
人手不足に対応するため、企業の状況に応じて必要な数の特定技能外国人材を受入れることが可能です。
受入企業の常勤職員数に応じた細かな人数枠が定められている技能実習制度との大きな違いです。
ただし、建設・介護分野では、受入企業(または事業所)の常勤職員数に応じた人数上限が設けられています。
建設分野
受入企業全体で、特定技能1号外国人の数が、雇用している常勤職員(技能実習生や他の特定技能1号外国人を除く)の総数を超えない。
介護分野
受入事業所単位で、特定技能1号外国人の数が、その事業所の日本人等の常勤介護職員の総数を超えない。(「日本人等」には、EPA介護福祉士など特定の在留資格を持つ外国人も含まれます。)
「常勤職員」の数え方については、社会保険に加入していることなどが目安となりますが、分野や詳細な状況によって判断が異なる場合があるため、詳細は登録支援機関や関係機関に確認しましょう。
6. 中小企業向け特定技能制度活用ポイント
ポイント1:登録支援機関を活用して負担を最小化に
外国人採用が初めての企業は、支援計画を丸ごとお任せできる登録支援機関を活用すると社内リソースを大幅に節約できます。
登録支援機関が担う主なサポート
- 在留資格申請書類の作成・提出代行
- 渡日前オリエンテーション・日本語教育
- 住居手配・生活インフラ開設のサポート
- 就労開始後6か月間の定期面談・相談対応
ポイント2:「育てる」視点で10年スパンのキャリアパスを設計
技能実習から特定技能へと段階的に成長できる仕組みを活かし、「育てる」視点で長期的なキャリアパスを描くことが重要です。以下は、その流れと各段階のポイントを示したものです。
技能実習 | 特定技能1号 |
---|---|
最大5年 | 最大5年 |
1号→2号→3号 | 熟練度UP・戦力化 |
- 技能実習2号修了 → 特定技能1号移行は試験免除でスムーズ
- さらに熟練試験に合格すれば特定技能2号で在留無期限・家族帯同可
- OJT+社内資格取得支援を組み合わせ、外国人材活用を長期戦略化
ポイント3:2027年開始予定の「育成就労制度」へ今から備える
制度変更に備え、現行の仕組みを活用しながらスムーズな移行準備を進めることが、今後の外国人材活用の鍵となります。
2025–2026年 | 2027年以降 |
---|---|
現行制度を活用し即戦力確保 社内支援体制・試験対策を整備 | 育成就労へスムーズに移行 転籍ルール緩和に備えた人事制度 |
現行の特定技能で得た運用ノウハウは育成就労へ”そのまま”流用可能。試験情報・教育コンテンツを社内に蓄積し、制度変更時のリスクを抑えましょう。
ポイント4:安心して働ける職場環境づくりが定着率を左右
「この会社で長く働きたい」と思ってもらうことが、外国人材活用を費用対効果の高い投資に変える最大のポイントです。
良好な環境づくりのチェックリスト
- 適正な労働時間・賃金を徹底管理
- 相談窓口・ハラスメント防止体制を整備
- 多言語マニュアル+やさしい日本語の活用
- 社内イベントやメンター制度で信頼関係を醸成
まとめ
2025年現在、外国人材の制度は大きな変化の時期にあります。これは同時に、外国人材を長期的な視点で「採用・育成・定着」につなぐための新しい機会でもあります。
外国人材活用を成功させるためには、
- 制度全体像を理解し、信頼できる専門家パートナーを選ぶ
- 技能実習から特定技能へのキャリアパスを明確に設計する
- 育成就労制度を見据えた社内受入体制を構築する
- 安心して働ける環境を整備し、定着率を高める
が鍵となります。
外国人採用と外国人材活用を計画的に進め、特定技能人材が長期的に活躍できる環境を整えましょう。